異世界召喚・あふたー〜魔王を倒した元勇者パーティーの一員だった青年は、残酷で優しい世界で二度目の旅をする。仲間はチートだが俺は一般人だ。

くろひつじ

文字の大きさ
11 / 56

11話:宴会と狂気

しおりを挟む

 昨晩、仕事上がりの京介を巻き込み、まず冒険者ギルドに向かった。
 ゴブリンロード討伐に関してはゴードン達が先に報告してくれたらしいが、討伐部位の提出が出来なかった為、残念ながら減額処置となった。
 それでも護衛依頼の報酬と合わせて銀貨四十枚。
 二ヶ月食っていけるだけの大金だ。ゴードン達に感謝したい。
 
 などと思っていると、酒場で商隊護衛の連中とばったり遭遇。
 これ幸いと連中全員に酒と飯を奢った。


 いやはや、楽しかった。
 久しぶりの馬鹿騒ぎは、ゴードンと俺の飲み比べでピークを迎えた。
 あの野郎、ドワーフの血が入ってるらしく、知らずに挑んだ俺は返り討ちにあった訳だが。
 何せアイツの飲んだ酒の単位がジョッキではなく樽だ。勝てるわけがない。

 男だけのむさ苦しい宴会は、かなり盛り上がった。

 とまあ、つまり。
 翌朝の地獄絵図は俺たちの自業自得という訳だ。
 男連中が死屍累々ししるいるいと転がっており、未だに店内は酒の匂いが充満している。
 寝起きに見るには適さない光景だな。頭いてえ。

「ああ、起きたかい」

 ジョッキを洗っていたマスターに言われ、頭をかく。
 いい歳してこの体たらくだ。申し訳なさが込み上げる。

「すまん、昨日は騒ぎすぎたみたいだな」
「なに、構わんよ。冒険者なんでそんなもんだ……ほれ」

 水の入ったコップを渡され、一息に飲み干す。
 うまい。頭痛が若干引いた気がする。

「こいつらは起きたら帰らせるよ」
「ああ、世話になる。すまんな」

 マスターに代金を支払い、迷惑料代わりに食器類を洗ったり壊れた椅子を直したりしながら、痺れを切らした歌音が迎えに来るまで酒場で過ごした。

 一応、帰る前にもう一度酒場を見渡したが、やはり京介の姿は無かった。
 俺を置いて先に帰ったようだ。良い判断だと思う。


「お酒を飲むなとは言いません。飲み過ぎるのが問題なんです。お分かりですか?」
「ああ、手間をかけてすまんな」
「全くです。大体、私を誘わないとは何事ですか。信じられません」
「いや、昨日はギルドへの報告がメインだったからな。宴会はまぁ……その場の流れだったしな」
「それにしても、呼びに戻るくらいしても良いと思うのですが?」
「悪かったよ。次は声をかけるって」
「もう……絶対ですよ」

 仕方ない、と上機嫌に笑う妹に、小さくため息をついた。
 今回は突発的な宴会だったからなあ。
 次飲む時は誘ってやるか。
 二日酔いの中で次の宴会を考えるのもどうかとは思うが、まあ構わないかと割り切る。
 昔みたいに仲間内の成人組で飲むのも楽しそうだ。

「まったく……そもそもお兄様は常に私を優先する義務があるのを忘れがちです」
「いや待て、何の話だそれ」
至極当然しごくとうぜんな自然の摂理せつりですが?」

 なんだその摂理。初めて聞いたんだが。

「兄妹は常にお互いを想い求めるものです。私のように」
「お、おう。常に想われてるのか」
「当然です」
「……左様か」

 妹の愛が重すぎてヤバい。いや、知ってはいたが。

 葛城かつらぎ歌音かのん
 最硬度の対物魔障壁を生み出す『堅城アヴァロン』の加護を持ち、
 魔族との戦争で内政が壊滅状態となっていた王都を一人で復興させた才女。
 そして、異世界こちらに来て極度のお兄様偏愛主義ブラザーコンプレックスを発症した、どうにも扱いに困る実妹だ。

 それさえなければ結婚相手だって引く手数多だろうに、残念な妹である。
 兄としては、男の影が無さすぎてそろそろ心配になる所だ。

「なあ。そろそろ気になる奴とか見つからないのか?」
「何ですかいきなり。気になるとは?」
「異性として、好みの奴がいたりしないのか、って話だ」
「ああ、なるほど。それに関しては、何と言いますか…」

 女神かと思うほど美しい笑みを浮かべ。

「恋人も、夫婦も、兄妹も、友人も、親子も。
 どんな関係も、二人揃えば大抵事足りるものですから」

 だいぶ意味のわからないことを言い出した。


「……お前は何を言ってるんだ」
「私の持論です。それに異性として気になると言うのなら、お兄様以外有り得ませんので」
「おい知ってるか、兄妹は結婚出来ないからな? いや、する気もないが」
「お兄様、ご存知かと思いますが。この国の法律は私次第でどうにでもなるんですよ」

 ……おっと。急に出国したくなってきたな。

「うふふふふふ……冗談ですよ? 半分は」
「残り半分は?」
「優しさで出来ています」
「……やましさの間違いじゃないか、それ」
「あら。私の愛に恥じ入る所はありませんよ」

 にこりと、美しく微笑む実妹。
 何となくその眼が濁って見えるのが怖い。

「家族愛だけだよな? なあ?」
「……うふふふ」
「いや答えろよ」
「はい、と言っておきましょうか。逃げられても困りますし」
「………そうかい」

 口で勝つのは不可能だと諦める。
 最悪の場合を考えて、他所の国に逃げる算段だけつけておくか。
 知り合いを頼れば何とか…なればいいな。うん。

 そんな、極々普通の昼下がりを過ごした。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【アイテム分解】しかできないと追放された僕、実は物質の概念を書き換える最強スキルホルダーだった

黒崎隼人
ファンタジー
貴族の次男アッシュは、ゴミを素材に戻すだけのハズレスキル【アイテム分解】を授かり、家と国から追放される。しかし、そのスキルの本質は、物質や魔法、果ては世界の理すら書き換える神の力【概念再構築】だった! 辺境で出会った、心優しき元女騎士エルフや、好奇心旺盛な天才獣人少女。過去に傷を持つ彼女たちと共に、アッシュは忘れられた土地を理想の楽園へと創り変えていく。 一方、アッシュを追放した王国は謎の厄災に蝕まれ、滅亡の危機に瀕していた。彼を見捨てた幼馴染の聖女が助けを求めてきた時、アッシュが下す決断とは――。 追放から始まる、爽快な逆転建国ファンタジー、ここに開幕!

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

ガチャで領地改革! 没落辺境を職人召喚で立て直す若き領主

雪奈 水無月
ファンタジー
魔物大侵攻《モンスター・テンペスト》で父を失い、十五歳で領主となったロイド。 荒れ果てた辺境領を支えたのは、幼馴染のメイド・リーナと執事セバス、そして領民たちだった。 十八歳になったある日、女神アウレリアから“祝福”が降り、 ロイドの中で《スキル職人ガチャ》が覚醒する。 ガチャから現れるのは、防衛・経済・流通・娯楽など、 領地再建に不可欠な各分野のエキスパートたち。 魔物被害、経済不安、流通の断絶── 没落寸前の領地に、ようやく希望の光が差し込む。 新たな仲間と共に、若き領主ロイドの“辺境再生”が始まる。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

処理中です...