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27話:旅の途中で
しおりを挟むワイルドボア。
全長約三メートル程の巨大猪。
主に森の中や草原などに生息している。
気性が荒く、突進力が高い。
自身よりも大きな敵さえ仕留めることがあると言う。
出会ってしまったら熟練の冒険者でも対処が難しい相手だ。
備考。草食であり、肉がなかなか美味い。
さらに言うなら俺たちの今日の飯だ。ありがたい事に。
リリアに頼んで火を点けてもらい、組み上げておいた枝を焚き火にする。
ついでに飯が出来るまでの間、薪用に太い枝を乾燥させてもらう。
やっぱり便利だな、魔法。
さて。先程解体したワイルドボアの肉がここに。
二人で食べきれる量じゃない。残りは燻して明日の飯にしようと思いながら、肉をナイフで切り分ける。
少し大きめに揃え、枝を削って作った串を打ち、塩を薄くまぶして焚き火の側に刺していく。
後は焼けるのを待つだけだ。
「アレイさん、手馴れてますね」
「ん?ああ、まあな」
昔は料理が出来るのが三人しかいなかったからな。
最初、俺と京介は焼いたり煮たりのシンプルなものしか作れなかったが、遥の手伝いをする内に色々と覚えた。
云わば彼女は料理の師匠だ。
元々、あちらの世界では料理関係の仕事をしていたらしいしな。
「リリアも覚えておくといい。野外調理は冒険者の必須スキルだぞ」
「う。頑張ります……」
「なんだ、料理は苦手か?」
「いえ、実家ではよく作ってましたが、外では経験がありませんし」
「そうか。まあ、直に馴れる」
この世界では、旅の時の料理は基本的に解体から始まる。
肉屋で解体を頼むと手数料が取られるし、そもそも近くに町がない事が多いからだ。
魔物や大型の獣はともかく、鳥や魚なんかは捌けない方が珍しい。
それに、リリアは聡い。獣の解体も少し教えればすぐに覚えるだろう。
夜営の準備や水源の探し方なんかは既にあらかた覚えてしまったし。
さすが、優等生だ。教えるのが楽で助かる。
パチパチと肉の脂が焼ける音。
本来であれば煮込んだ方が匂いが少なく、周りの獣や魔物が寄って来難いのだが、生憎と鍋がない。
普段なら手甲を簡易鍋代わりに使ったりもするのだが、生憎今回の旅には持ってきていない。
以前、アガートラームで焼き肉を試みて仲間に白い目で見られたのも良い思い出だ。
その時は、あまりにも伝熱性が悪かったので断念したのだが。
「……英雄の武器を調理器具にですか」
「使える物は何でも使う。旅ってのはそういうもんだ」
「そういう物ですか……うーん」
「隼人の剣を串代わりにした事もあるな。楓に怒られたが」
「あはは……それはまぁ、仕方ないかと」
あの頃は、誰も旅のしかたなんて知らなかった。
ただでさえメンバーの半数が未成年者だ。
アウトドアの経験があるのすら、俺と京介だけだった。
飯はまだ何とかなったが、何より大変だったのか寝床の確保。
最初は男組と女組で二つ寝床を作っていたが、その内誰も気にしなくなり、最終的には雑魚寝状態で落ち着いた訳だが。
人間、続けていれば何でも馴れるものである。
それに、戦闘以外で役に立つ加護持ちは詠歌と誠と遥だけだったしな。
俺も旅立つ前に王城の書物は粗方読んだが、それでも実地色々と勉強させてもらった。
百聞は一見にしかず、と言うが、俺の場合は百回見るより一回やった方が覚えが良いようだ。
獣の捕り方に始まり、野外トイレの作り方まで、日本で生活していた時は必要がなかった知識だったが、こちらで冒険者稼業を続ける上では必須とも言える知識になっている。
他にも、日本で何かの拍子に見た飲料水の確保の仕方や肉の燻し方なども役に立った。
人生に無駄なことなどないと言っていたのは誰だったか。
まさしくその通りだな、と痛感した。
さて。肉が焼けた頃合いだ。
串を引き抜き、一本をリリアに渡し、もう一本にかぶりつく。
皮がカリッと小気味良い音をたて、脂がじゅわっと涌き出てくる。美味い。
野生なのに臭みが少ないのはワイルドボアが草食だからだろうか。
噛む度に肉の旨味と程よい塩味が口中に広がり、すぐに食べ終わってしまった。
一口水を飲み、もう一本と手を伸ばすと、リリアも同じように手を伸ばしており、揃って小さく笑った。
乾ききった薪を焚き火に放り、さて、と考える。
旅路の途中にある恵みの森には友人達がいる。
顔を会わせるとなると、旅の目的を聞かれるだろう。
どうするか。正直に話せば協力を得ることが出来るかもしれないが、長年続いていた戦争がようやく終わったところだ。
彼らの平穏を崩したくないと思う気持ちもある。
俺一人ならばただの観光だと言い張っただろう。
だが、今回は連れ合いがいる。
そんな言い逃れは出来ないと考えた方が良い。
さてどうするかと考え出したところで。
ふと、出発前に話した蓮樹の顔が脳裏をよぎる。
………とりあえず、話すだけ話してみるか。
その程度には腹を割って話せる間柄だろうし。
しかし、仲間に後押しされないと話一つ出来ないのかと、苦笑が漏れる。
やはり、俺は英雄など柄ではない。
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