29 / 56
29話:フォレストエイプ
しおりを挟む族長の家は村の中央にある、と言うと語弊がある。
正確には、大人が数人で手を広げても囲えない程の巨木の洞の中に住んでいる、と言うべきか。
なんと言うか、その発想が凄いなと感心する。
人間とは基本的な考え方が異なるのだろう。
彼らは樹を愛し、森に愛される種族なのだと、ここに来る度に実感する。
「久しいですな、英雄殿」
「お久しぶりです。数日ほど宿を借りようと思います」
「あぁ、構わんよ。どうせ客など滅多に来ないのだし」
それはまぁ、そうかもしれんな。
森人は風聞が悪すぎるし、客はそうそう来ないだろう。
馴れれば気のいい人達なのだが、誤解されやすい性質だ。
俺としては宿が空いているのは助かるが。
「あぁそうだ。英雄殿、一つ頼み事をお願いしたい」
「はい。どのような事でしょうか」
「森の中に森猿が住み着いて困っている。どうにかならないだろうか」
若々しい端正な顔の眉を潜める。
なるほど。交換条件という訳では無さそうだが、俺に出来ることなら何とかしたい所だ。
「ふむ……場所はどの辺りですか?」
「東の洞窟だ。ファムが場所を知っている」
「分かりました。一度、見てみます」
「すまないな。頼らせてもらう」
しかし、森猿か。数匹程度なら狩れると思うが、さて。
見た目はデカい猿だが、そこそこに頭がよく、奴らは群れで狩りをする。
森の木々を上手く使って移動するので、できれば開けたところで戦いたいものだが。
「ファム。実際に森猿を見たか?」
「ああ。大きな群れだ。それに今は弓を使える者がほとんど外に出ているので、私たちでは手の出しようがないのだ」
「なるほどな……まあ、行ってみるか」
気付かれないように小さくため息を吐く。
既に嫌な予感しかしないんだが、さて。どうなる事やら。
一度宿に行き、リリアを連れて森へ入る。
罠を使うことも考えたが、どうしても森を汚してしまうので諦めた。
森人の前で森を汚すのはタブーだ。
彼らは森の番人と呼ばれるほどに森を大事にしている。出来るだけ嫌われる行動は避けたい。
ファムは樹上から警戒してもらい、俺とリリアは地上を進む事にした。
普段あまり人が通らないのだろう、獣道しか道がなく、非常に歩き辛い。
しかし、無闇に枝葉を払っていると音で気付かれてしまう可能性があるので、仕方なしにそのまま先へ進む。
「アレイ。もうすぐ奴等の寝床だ。洞窟の前は開けている。そこでやろう」
ファムが警告を告げる。
彼の言うとおり、洞窟の周囲の木の根辺りに動物の骨や食い荒らした木の実が点在している。
思いの外、村に近い。そして、残骸の数が多い。
これは十匹じゃ足りないかもしれないな。
「リリア。敵の数が多い。俺が先に行くからフォローを頼む」
「分かりました」
「ファム、前と同じ要領だ。任せてもいいか?」
「ああ、任された」
面倒だし若干の恐れはあるが……まあ、丁度いい。腕試しだと思おう。
今、どの程度やれるのか、確認しておくか。
右腕を伸ばし、全身に魔力を廻す。
「起きろ、アガートラーム」
蒼い魔力光が右腕に集まり、顕現する頼もしい相棒。
今回は森を汚す恐れがあるバンカーは使わないが、さて。
今の俺は、どこまでやれるんだろうか。
ブースターを起動し、低空に飛び出す。
ファムの言うとおり、洞窟の前はかなり開けた状態になっていた。
元々なのか、森猿が切り開いたのかは分からないが、後者ならかなり頭がいい。
空中で敵の位置を捕捉し、一番近い奴に向かってブースターで急接近、手甲の掌で頭蓋骨を砕いた。
すぐに隣の森猿の胸に手を当て、爆発推進を打撃力に変えて吹き飛ばす。
神造鉄杭のブースターから得る推進力を、自身を通して破壊力に変える。これが俺の基本スタイルだ。
剣のように刃筋がどうこうと考えずに済む分、非常に楽である。まぁ、やり過ぎると反動が怖いが。
仲間を殺られて怒った森猿が飛びかかってくるが、ブースターで横に避け、着地で生まれた隙を狙い顎を蹴り上げる。
浮いた体に背中からぶつかり、他の森猿を巻き込んで吹き飛ばした。
……ふむ。飛ばすつもりは無かったのだが。盛大に飛んだな。
普段より体が軽いのに威力は重い。
推進力だけでなく、僅かだが身体強化の加護が上がっているようだ。
吹き飛んだ森猿を狙って樹上から鋭い矢が飛び、眉間や喉などの急所を確実に貫いていく。
ファムの奴、相変わらず良い腕だな。止めを差さなくていいのは助かる。
俺は、適当に暴れるだけでいい。
直進方向に急加速、右から殴り付けてくる森猿を躱し、その腕を掴んで再加速しながら振り回す。
そのまま勢いをつけて別の個体に投げつけながら、再加速。
後ろにいた個体に稲妻の軌道で接近し、推進力を活かした右拳。
ブースターを噴かし、回転。左の裏拳を叩き込み、その反動を使って低空へ離脱。
強襲と離脱を繰り返す。その度に蒼い魔力光が空間に散り、森猿が飛ぶ。
思わず笑いが漏れる。思い通りに体が動くのが楽しい。
だが、油断はしない。
気を抜いた瞬間に死が襲いかかって来るのを、俺は知っている。
すぐに終わらせるとしよう。
速力を打撃力に変え、慣性を切り捨て、回転から力を得る。
無秩序な加速を繰り返す。
殴りつけられた時は右腕で受け、その衝撃を利用して離脱、再加速して敵に突撃した。
次々と空に跳ね上がる森猿。最後の一匹を空に殴り飛ばした時、ファムの矢がその眉間を貫いたのを傍目に見ながら、周囲を確認する。
見える範囲に敵の気配は無い。
いるとすれば、洞窟の中だが……それならそれで、別に構わない。
「ファム、警戒を頼んだ。俺は洞窟を燻す。リリア、手伝ってくれ」
「あぁ、周囲は任せろ」
「はい……何かする間もなく終わっちゃいましたし、頑張ります」
洞窟の入り口に枯れ枝を集めて火を興し、すぐに石を積み上げて蓋をする。
このまましばらく待てば、もし中に生き残りがいても酸欠になる。
ひとまずこれで終わりだ。
ちら、と相棒を見やる。
思ったより出力が上がっていた。
魔王と殺りあった時より、遥かに速い。
その上、身体能力上昇な加護が強くなっている。
未だに非戦闘系の加護持ちの仲間より弱くはあるが、地力が上がってくれたのは非常に助かる。
……最初からこれくらいの力があればと、思わないでもないが。
まあ、言っても栓無い話か。
ともあれ、珍しいことに少しだけ楽観できる要素が増えた。
その事を素直に喜ぶとしよう。
0
あなたにおすすめの小説
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
「強くてニューゲーム」で異世界無限レベリング ~美少女勇者(3,077歳)、王子様に溺愛されながらレベリングし続けて魔王討伐を目指します!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
作家志望くずれの孫請けゲームプログラマ喪女26歳。デスマーチ明けの昼下がり、道路に飛び出した子供をかばってトラックに轢かれ、異世界転生することになった。
課せられた使命は魔王討伐!? 女神様から与えられたチートは、赤ちゃんから何度でもやり直せる「強くてニューゲーム!?」
強敵・災害・謀略・謀殺なんのその! 勝つまでレベリングすれば必ず勝つ!
やり直し系女勇者の長い永い戦いが、今始まる!!
本作の数千年後のお話、『アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~』を連載中です!!
何卒御覧下さいませ!!
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜
みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。
…しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた!
「元気に育ってねぇクロウ」
(…クロウ…ってまさか!?)
そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム
「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ
そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが
「クロウ•チューリア」だ
ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う
運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる
"バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う
「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と!
その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ
剣ぺろと言う「バグ技」は
"剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ
この物語は
剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語
(自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!)
しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる