6 / 56
6話:再会
しおりを挟む眩しさを感じて目を覚ます。
あぁそうか。アガートラームを使ってぶっ倒れたのか。
背中に当たる感触が固く、不規則な揺れを感じた。
どうやら馬車の中らしい。
あの後、誰かが回収してくれたのだろう。
視線を巡らせると、一緒に残ってくれた奴らやゴードンの顔があった。
良かった。みんな生きている。
何とかなったようだ。
「おう。起きたかよ、大英雄様」
「……勘弁してくれ」
寝起きにそのしかめっ面は辛い。
しかしまぁ、やはりと言うか勿論と言うか、俺の身元は既にバレてしまったようだ。
弁解しようと体を起こし、違和感を覚える。
服はぼろぼろになって体中に怪我があったはずなのに、それらが全く見当たらない。
しかし、魔力欠乏の倦怠感だけは残っている。
この感じ、覚えがある。昔よく味わった違和感だ。
いやしかし、そんな訳は……
「なぁゴードン、俺の怪我なんだが」
「おう。たまたま通りかかった聖者様が治してくれた」
……聖者様。聖者様ね。
あぁ、そうか、アイツ、そんな呼ばれ方してるのか。
ヤバい。笑えてくる。
「くく……聖者様か。なるほど」
「馬鹿野郎、笑い事じゃねえ……ですよ。アンタ、じゃねぇ、あー……」
「……いや。なんだ、そのおかしな言葉は」
「うるせぇな。貴族様の言葉なんぞ分からねぇ、ですよ」
「はあ? 勘弁してくれ。お互い柄じゃないだろ」
背中がむず痒くなるし、何より意味が分からない。
誰が貴族だ。
「そうかい。じゃあ遠慮無く言うが、てめぇこの野郎。よくも騙しやがったな」
「待て、何の話だ。心当たりが無いんだが」
「とぼけんじゃねぇ。救国の英雄が何で商人の護衛依頼なんて受けてやがるんだ」
「あー……うん。まあ、一言で言うと、金が無いからだ」
「はあっ!? 王様からの報償金は!? 王城勤めはどうした!?」
「……金は全部寄付して、城勤めは辞めた」
正しくは、大金を持ってるのが怖くなったので王国復興資金と称してほぼ全額返還し、王城勤めの堅苦しさが合わなかったから逃げた訳だが。
大金を持ってると強盗とかその辺りが怖いし。
寄付した後、周りからはそれが余程珍しい行動に見えたのだろう。
常に好機の視線に晒されるようになってしまい、耐えきれなくなって王都から逃げた、という流れだ。
「あの匿名の寄付もアンタか!! お前な、アレでどれだけの戦災孤児が救われたと思ってやがる!!」
「ああ、そうなのか。そりゃ良かった」
「こ、の、大馬鹿野郎!!!!」
正直に話したら、何でか怒られた。
そう言えば仲間内からも怒られてばかりだったなと、ぼんやりと懐かしさを感じる。
「ちくしょう、くそったれ……おい、カツラギアレイ」
「今度はなんだ」
「……ありがとうよ。アンタのおかげで、俺達は……いや俺達だけじゃねえ。王都の奴らも、森の民そうだ。俺達はみんな、感謝してる」
「……まあ、どう致しまして、だ」
馬車の幌越しの穏やかな光の中、静寂が身を包んだ。
気恥ずかしくなり、頭を搔く。
……ん? 静寂?
馬車が、止まっている?
「……なあゴードン。ここはどこだ? と言うか聖者様とやらはどこに行った」
「ああ、今は王都の門で検問の順番待ちだ。聖者様はお仲間に報せて来るってよ」
死刑宣告が聞こえた。
「……なあ、アイツが去ってどの程度経った?」
「あ? そうだな……ざっと一時間ぐらいか」
跳ね起き、勢いのまま幌の出入り口へ跳ぶ。
急げばまだ間に合う可能性が無きにしもあらず。
「すまないゴードン話はまた今度なバッ!?」
開かれた幌の出入口。そこに飛び込み、がぃん、と見えない何かに弾かれた。
……ああ、くそったれ。気づくのが遅過ぎたようだ。
「 ミ ィ ツ ケ タ 」
ばんっ ばんっ
幌に手形が二つ。
髪の長い人影が映り、布の切れ目から覗く、二つの瞳。
もはや恐怖映画のようなアングルになっている。
うわやだまじ怖い。
「うふふふふ………やぁっと見つけましたよ、お兄様?」
ニタリと笑う悪霊……のようにしか見えないが、一応身内である。
葛城歌音。
堅城の二つ名を持つ英雄の一人であり、俺の妹。
美貌と知性を兼ね揃え、王都の経済を一人で回している、賢者とも呼ばれる存在。
通常時であればカラスの濡れ羽色と称すべき流れるような黒髪に、強い信念を感じられる黒瞳。
胸はそれ程でもないがスタイルも良く、聖母のような笑みを浮かべている、正に絵に書いたような美女である。
あちらでも非常にモテていたし、今現在でも一定数のファンがいるらしい。
決して呪いのビデオの人ではない。ないのだ。
ゴードンの顔色が真っ青になってるが、大丈夫だぞ。これ、生きてる人間だから。
まあ、何はともあれ、逃走失敗である。怖い。
「……久しぶりだな。元気にしてたか?」
「ハァイ元気ですよぉ。ふふ、ふふふふ。
いきなり姿を隠して一年間音沙汰もなしで。
様々な地域から上がってくる発見報告。
確認のために兵を向かわせても、既に去った後で……」
すぅっと息を吸い込むのを見て、咄嗟に耳を塞ぐ。
「 こ の ば か に い さ ま あ あ ぁ ぁ ぁ !!!! 」
感動の兄妹対面は、歌音の叫びと共に訪れた。
……今日はよく馬鹿馬鹿言われるな。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【アイテム分解】しかできないと追放された僕、実は物質の概念を書き換える最強スキルホルダーだった
黒崎隼人
ファンタジー
貴族の次男アッシュは、ゴミを素材に戻すだけのハズレスキル【アイテム分解】を授かり、家と国から追放される。しかし、そのスキルの本質は、物質や魔法、果ては世界の理すら書き換える神の力【概念再構築】だった!
辺境で出会った、心優しき元女騎士エルフや、好奇心旺盛な天才獣人少女。過去に傷を持つ彼女たちと共に、アッシュは忘れられた土地を理想の楽園へと創り変えていく。
一方、アッシュを追放した王国は謎の厄災に蝕まれ、滅亡の危機に瀕していた。彼を見捨てた幼馴染の聖女が助けを求めてきた時、アッシュが下す決断とは――。
追放から始まる、爽快な逆転建国ファンタジー、ここに開幕!
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
ガチャで領地改革! 没落辺境を職人召喚で立て直す若き領主
雪奈 水無月
ファンタジー
魔物大侵攻《モンスター・テンペスト》で父を失い、十五歳で領主となったロイド。
荒れ果てた辺境領を支えたのは、幼馴染のメイド・リーナと執事セバス、そして領民たちだった。
十八歳になったある日、女神アウレリアから“祝福”が降り、
ロイドの中で《スキル職人ガチャ》が覚醒する。
ガチャから現れるのは、防衛・経済・流通・娯楽など、
領地再建に不可欠な各分野のエキスパートたち。
魔物被害、経済不安、流通の断絶──
没落寸前の領地に、ようやく希望の光が差し込む。
新たな仲間と共に、若き領主ロイドの“辺境再生”が始まる。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
異世界へ行って帰って来た
バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。
そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる