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6. 文句があるんならかかってこいだべさ!
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春男はモトグリフ家の食堂で、搾りたてのミルクを飲んでいた。
しかし、その様子はいつもの春男とは違う。
眉間に皺を寄せ気難しい中年男性の様な形相になっている。
「……ど、どうしたのマールちゃんそんな気難しい顔して」
バーバラが春男に遠慮気味に声をかける。
「何か悩みがあるんなら、何でも話しなさい」
ハミルトンが家主の威厳を見せつけるかの様に優雅に言う。
しかし、春男は「う~ん」と唸り声を上げながら表情を崩さない。
その様子を心配したのかアーヴァインとカッツアが
「何かあったのか。マール」
「そんな顔してねぇで俺等に相談してみろよ」
と、美顔を春男に近づけ言う。
当の春男はどこ吹く風で、しかめっ面が般若のお面に変わった所でアンティークテーブルを叩いた。
我慢の限界と言った表情で
「どうして、こんな優雅に朝食を食べてられんすか! 搾りたてミルク飲んでる場合じゃないっぺよ!」
と、激高する。普段物静かな春男が出した怒声にモトグリフ家一同が黙り込む。
「だんまり決めこんでんじゃねぇっすよ、おかしいっしょ、あの子はどうしたんすか!」
春男が言うあの子、というのはリバースの事である。モトグリフ家の正真正銘の子息であるリバースが食卓にいない事に春男は疑問を感じていた。
そして、誰もリバースがいない事を心配している様子も気に掛ける様子もない。それが許せなかった。
「まだ、だんまり決め込む気っすか。オラ、そうゆうの許せねぇ。あんた達が何かを隠してる事は知ってる。けどね、そんな事はどうでもいいっぺよ。オラが言いたい事は家族皆で食卓を囲むのが普通なのに、なんであの子だけ仲間外れなんすか!」
昨夜の出来事をアーヴァインは秘密裏にバーバラとハミルトンに報告した。苦渋の表情で二人はある決断をする。
リバースを春男から遠ざける事、隔離する事。
モトグリフ家の悪しき習慣である、臭い物には蓋をする行為は知らず知らずの内に春男の逆鱗に触れていたのであった。
「これには深い訳があるのだマールよ」
「そうよマールちゃん、そんな風に怒らないで頂戴。全てはマールちゃんの為なのよ」
春男は自分をなだめるハミルトンとバーバラに向って鼻息荒く言い返す。
「うるせぇだべさ! そんな言い訳どうでもいいッスよ。今すぐあの子を呼んでくるべさ!」
春男は我慢の限界に達する。力士よろしく、どすこいポーズでバーバラとハミルトンを挑発する。
「文句があるんならかかってこいだべさ! オラは負けねぇ」
その場で四股を踏み出した春男のただならぬ気配に気圧されていた、アーヴァインとカッツアが止めに入る。
「マールやめなさい、父上と母上に無礼だぞ!」
「そ、そうだよ。落ち着けって」
さっきまでは仲良し3兄弟の様な雰囲気を漂わせていたアーヴァインとカッツアも、今の春男にとっては敵だった。
人一倍正義感が強い春男はモトグリフ家の悪しき習慣と戦う決意をしたのだ。
「そんな事知らねぇっすよ! オラ怒ってる、あんた達は悪い人ではないと思う。けんども、今まで自分の弟の孤独と向き合った事があるんすか!」
「!?」
「!?」
アーヴァインとカッツアは雷に打たれた様にその場に固まる。
「あんた達家族の秘密なんてオラはどうでもいい! ただ、まるで家族じゃねぇみてぇに家族から省くようなそうゆう卑怯な行為は許せねぇ!」
と、その時けたたましいブザー音が鳴り響く。
――バッドエンドルート分岐に差し掛かりました。今回はフリー分岐です。プレイヤー自身が思った通りに行動して下さい。
「バッドエンドだかなんだか知らねぇけんど、オラ許さねえ!」
春男はその場で左手を胸に近付け、右手を前に突き出すと
「どすこい!」
まず近くにいたバーバラに張り手をかます。
「キャッ!」
短い悲鳴と共にバーバラが吹き飛ばされる。
「貴様、よくも私の妻に!」
「どすこい!」
「うぐぁっ!」
バーバラが吹き飛ばされた事に激高したハミルトンを、軽々と張り手で吹き飛ばすと鬼の形相で残りの二人を見やる。
「兄貴、ヤベェぞ」
「……その様だな」
身構えるカッツアとアーヴァインの元へ春男は闘牛の様に突き進み、張り手を2発繰り出す。
「うわっ!」
「うぐっ!」
カッツアとアーヴァインも先の2人と同様に吹き飛ばされ、鈍い音を立てて崩れ落ちる。
――バッドエンド分岐回避しました。
機械音声等どこふく風で、春男は4人にいい放つ。
「どうだ! 参ったっちゃか!」
ヨロヨロと立ち上がった4人は美形の顔を狼狽させ、鼻の穴から鼻血を滴らせながら頷く。
「わらひが悪かったわ」
「わたさも悪かった」
「しゅまん、兄ふぁんが悪かった」
「俺みょ悪かった」
四人共、春男の容赦のない張り手で口の中を切ったのだろう。皆一様に滑舌が悪い。
そんな激しいやり取りを、食堂の入り口で震えながら見守っていた男がいた。長い金髪の髪、生気を失っていた深海の様な青い相貌に微かに光が灯る。
リバース・モトグリフは震える唇を噛みしめ、自身の鼓動が早くなっている事に驚き目を見開く。
(マール……ボクの為に戦ってくれたの? 今まで、誰もボクの為にそこまでしてくれる人なんていなかったのに……。ごめん、マール……本当にボクは酷いお兄ちゃんだった……)
滴り落ちる涙を堪え歩み出す。視界が涙でボヤける中ゆっくりと家族の元へ、リバースは歩を進める。
しかし、理性を失った春男にはリバースさえも標的に見えてしまう。
ゆっくりと、おぼつかない足取りで近づいてくるリバースに向けて春男は張り手ポーズでじりじりと近づいていく。
ぼやける視界の中で春男の鬼の様な形相を捉えたリバースは一瞬たじろぐが……。
(あれ、どうしてそんなおっかない顔なの? ボクはもう君を傷つけたりしないよ、さぁマール、抱きしめさせておくれ)
春男に両手を伸ばし抱きしめようとした所で
「どすこい!」
「わぁぁーっ!」
リバースも他の4人と同様に、春男の張り手に突き飛ばされて鈍い音を立てて崩れ落ちる。
こうして春男は【侯爵家の秘め事】序盤最難関であるバッドエンドルート分岐を見事回避したのであった。
しかし、その様子はいつもの春男とは違う。
眉間に皺を寄せ気難しい中年男性の様な形相になっている。
「……ど、どうしたのマールちゃんそんな気難しい顔して」
バーバラが春男に遠慮気味に声をかける。
「何か悩みがあるんなら、何でも話しなさい」
ハミルトンが家主の威厳を見せつけるかの様に優雅に言う。
しかし、春男は「う~ん」と唸り声を上げながら表情を崩さない。
その様子を心配したのかアーヴァインとカッツアが
「何かあったのか。マール」
「そんな顔してねぇで俺等に相談してみろよ」
と、美顔を春男に近づけ言う。
当の春男はどこ吹く風で、しかめっ面が般若のお面に変わった所でアンティークテーブルを叩いた。
我慢の限界と言った表情で
「どうして、こんな優雅に朝食を食べてられんすか! 搾りたてミルク飲んでる場合じゃないっぺよ!」
と、激高する。普段物静かな春男が出した怒声にモトグリフ家一同が黙り込む。
「だんまり決めこんでんじゃねぇっすよ、おかしいっしょ、あの子はどうしたんすか!」
春男が言うあの子、というのはリバースの事である。モトグリフ家の正真正銘の子息であるリバースが食卓にいない事に春男は疑問を感じていた。
そして、誰もリバースがいない事を心配している様子も気に掛ける様子もない。それが許せなかった。
「まだ、だんまり決め込む気っすか。オラ、そうゆうの許せねぇ。あんた達が何かを隠してる事は知ってる。けどね、そんな事はどうでもいいっぺよ。オラが言いたい事は家族皆で食卓を囲むのが普通なのに、なんであの子だけ仲間外れなんすか!」
昨夜の出来事をアーヴァインは秘密裏にバーバラとハミルトンに報告した。苦渋の表情で二人はある決断をする。
リバースを春男から遠ざける事、隔離する事。
モトグリフ家の悪しき習慣である、臭い物には蓋をする行為は知らず知らずの内に春男の逆鱗に触れていたのであった。
「これには深い訳があるのだマールよ」
「そうよマールちゃん、そんな風に怒らないで頂戴。全てはマールちゃんの為なのよ」
春男は自分をなだめるハミルトンとバーバラに向って鼻息荒く言い返す。
「うるせぇだべさ! そんな言い訳どうでもいいッスよ。今すぐあの子を呼んでくるべさ!」
春男は我慢の限界に達する。力士よろしく、どすこいポーズでバーバラとハミルトンを挑発する。
「文句があるんならかかってこいだべさ! オラは負けねぇ」
その場で四股を踏み出した春男のただならぬ気配に気圧されていた、アーヴァインとカッツアが止めに入る。
「マールやめなさい、父上と母上に無礼だぞ!」
「そ、そうだよ。落ち着けって」
さっきまでは仲良し3兄弟の様な雰囲気を漂わせていたアーヴァインとカッツアも、今の春男にとっては敵だった。
人一倍正義感が強い春男はモトグリフ家の悪しき習慣と戦う決意をしたのだ。
「そんな事知らねぇっすよ! オラ怒ってる、あんた達は悪い人ではないと思う。けんども、今まで自分の弟の孤独と向き合った事があるんすか!」
「!?」
「!?」
アーヴァインとカッツアは雷に打たれた様にその場に固まる。
「あんた達家族の秘密なんてオラはどうでもいい! ただ、まるで家族じゃねぇみてぇに家族から省くようなそうゆう卑怯な行為は許せねぇ!」
と、その時けたたましいブザー音が鳴り響く。
――バッドエンドルート分岐に差し掛かりました。今回はフリー分岐です。プレイヤー自身が思った通りに行動して下さい。
「バッドエンドだかなんだか知らねぇけんど、オラ許さねえ!」
春男はその場で左手を胸に近付け、右手を前に突き出すと
「どすこい!」
まず近くにいたバーバラに張り手をかます。
「キャッ!」
短い悲鳴と共にバーバラが吹き飛ばされる。
「貴様、よくも私の妻に!」
「どすこい!」
「うぐぁっ!」
バーバラが吹き飛ばされた事に激高したハミルトンを、軽々と張り手で吹き飛ばすと鬼の形相で残りの二人を見やる。
「兄貴、ヤベェぞ」
「……その様だな」
身構えるカッツアとアーヴァインの元へ春男は闘牛の様に突き進み、張り手を2発繰り出す。
「うわっ!」
「うぐっ!」
カッツアとアーヴァインも先の2人と同様に吹き飛ばされ、鈍い音を立てて崩れ落ちる。
――バッドエンド分岐回避しました。
機械音声等どこふく風で、春男は4人にいい放つ。
「どうだ! 参ったっちゃか!」
ヨロヨロと立ち上がった4人は美形の顔を狼狽させ、鼻の穴から鼻血を滴らせながら頷く。
「わらひが悪かったわ」
「わたさも悪かった」
「しゅまん、兄ふぁんが悪かった」
「俺みょ悪かった」
四人共、春男の容赦のない張り手で口の中を切ったのだろう。皆一様に滑舌が悪い。
そんな激しいやり取りを、食堂の入り口で震えながら見守っていた男がいた。長い金髪の髪、生気を失っていた深海の様な青い相貌に微かに光が灯る。
リバース・モトグリフは震える唇を噛みしめ、自身の鼓動が早くなっている事に驚き目を見開く。
(マール……ボクの為に戦ってくれたの? 今まで、誰もボクの為にそこまでしてくれる人なんていなかったのに……。ごめん、マール……本当にボクは酷いお兄ちゃんだった……)
滴り落ちる涙を堪え歩み出す。視界が涙でボヤける中ゆっくりと家族の元へ、リバースは歩を進める。
しかし、理性を失った春男にはリバースさえも標的に見えてしまう。
ゆっくりと、おぼつかない足取りで近づいてくるリバースに向けて春男は張り手ポーズでじりじりと近づいていく。
ぼやける視界の中で春男の鬼の様な形相を捉えたリバースは一瞬たじろぐが……。
(あれ、どうしてそんなおっかない顔なの? ボクはもう君を傷つけたりしないよ、さぁマール、抱きしめさせておくれ)
春男に両手を伸ばし抱きしめようとした所で
「どすこい!」
「わぁぁーっ!」
リバースも他の4人と同様に、春男の張り手に突き飛ばされて鈍い音を立てて崩れ落ちる。
こうして春男は【侯爵家の秘め事】序盤最難関であるバッドエンドルート分岐を見事回避したのであった。
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