白夢の忘れられた神様。

sasara

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2日目 ハクという名前。

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キイナの寝顔は綺麗だ。白い肌に朝の光が当たって、溶けてしまいそうで。私はキイナの肌に
手を乗せてみた。大丈夫。溶けてない。
安心して寝床に戻ろうとしたら背中に温かい布団が乗る。キイナはまだほとんど目が開いてないけど
優しい顔で笑ってるからここは私ものってあげることにしよう。
キイナの寝床はすごく暖かくていい匂いがする。キイナの手が私の背中をゆっくり撫でて
私も眠気に負けそうになっていたら、

♪♪♪~

大きな音が鳴り私は咄嗟にその音の方に向かって威嚇をする。

ごめん、ごめん

キイナが笑って音を切る。

あぁ、またか。せっかくいい。眠りにつけそうだったのに。
だけどキイナが笑ってくれたなら今日は許してあげよう。

キイナはさっきは、ごめんね。と言って暖かいミルクを出してくれた。
これで許してあげよう。

私はね、これからお仕事に行くの。帰るのは、この時計のこの針がここに来たらかなぁ。

キイナが私に説明してくれることを一生懸命に聞いた。
お腹すいたら食べていい食べ物のこと、水の場所にトイレの場所も教えてくれた。
それから外には出てはだめだとキイナは言った。理由は、危ないからだって。
あれもこれも言われて少し嫌になったけど、ま、まぁ、あの甘いミルクの為だ。
しばらくは言うことを聞いててやることにした。

お仕事にキイナが行ったのは、8の所に針が来た時だった。
お仕事に行くキイナは強く見える気がした。帰ってくるのは、7の所に針が来たらだ。
その間にすることはたくさんある。
見送りを終えた私は、光が差しているキイナの布団に潜り込んだ。
まだ、暖かくて、キイナの匂いがたくさんする。
さっきは眠りを二回も邪魔されたから、もう一度眠りにつく。
これも私の大切なオシゴトだ。

目を覚ましたら、時計の針は、12の所にあった。
キイナが帰ってくるまでまだまだだから、やらなければならないことをすることにした。
まず、少しだけ食べ物を食べて、水を飲む。

その後は、部屋の見回りだ。
すべての部屋に異常がないか見て回る。異常なし。
そして、日向ぼっこだ。さぼりじゃない。
ネコにとって大切なオシゴトだ。
光が強く差している窓の近くに行く。自分の影ができるのが
少し面白くて、影をみていたら頭の中で声がした。

・・フメ・カゲヲ・・フメ・・

自分の声じゃない。だれかわからない声がはっきりと頭の中に響く。
影を踏む?でも影は、自分と一緒に動くのに踏めるわけがない。
そう思いながら、足を挙げてみる。
影は、一緒に動かない。
その足を自分の影に乗せてみる。

踏んだはずの影が伸びて形になる。
ネコの形じゃない。人間のような形。

オマエハ、ネコジャナイ、ヤラナキャイケナイコトガアル、オモイダセ

その影は、そう言って消えた。

真っ暗なその場所はどこかわからない。水が落ちる音が響いてどこから聞こえるのかわからない。
目の前に光がある。遠くてわかりにくいけど。光の玉が浮いている。
そこに近づいてみる。

オ願イ、モウアナタシカ居ナイ

暖かい光が私の体を包む。私は、この光が、私を作ったことを察した。
この光が、私の母であることを。

コノ光ヲ、ニンゲンニ。ソウスレ私タチハ消エルコトガ出来ル。

目を覚まして思い出した。
私は、ただのネコじゃない。やらなければならないことがあった。
私は、私たちは、死ぬことができない。今は、ネコの体に生れ直しただけで、
この体が消えても私は消えない。もう何度目かなんて数えるのをやめたほどに
私は生き続けているのだ。だからニンゲンの言葉も理解できる。

私は、ネコですらない。

かすかな足音が聞こえる。キイナだ。
私は、ネコではない。それでも、私はキイナに会いたかった。
扉が開く音がする前に私は、扉の前に移動した。

私の姿を見て、キイナは笑顔になってくれる。そっと白くて少し冷たい手で私を
抱きかかえてくれた。キイナの優しい匂い。

お出迎えしてくれたの?寂しかったんでしょう。

そう言いながらミルクをくれた。
私は、ミルクを少し飲んでから、キイナのそばを離れなかった。
離れたくなかった。離れると自分が怪物のように感じて怖かった。

、、、ハク、、

キイナの口から出た言葉。でも意味が分からなくてキイナの顔を見ていたら

アナタの名前は、ハク。
そうキイナは言った。紙に文字を書く。

ハクはね、白い猫でしょ。白って漢字には、ハクって読み方があるの。単純かな?

そういって私の目を見てくれるキイナは、やっぱり綺麗だった。
ハク、ハク、、いい名前だ。
私は今日から、キイナのネコ。 ハクだ。

その夜から私は、キイナの布団で一緒に眠ることにした。別に寂しいわけじゃない。
そんなわけじゃないが、まぁ暖かいから一緒に眠ってあげるだけだ。うん。

また夢を見る。
いや、夢じゃない。

光の玉と黒い影がそこにいる。
本当なら、キイナの布団で心地よく眠っているのに。邪魔をされたような気がして
私は少し怒っている気分になった。
分かってる。私の役割は、ちゃんと思い出したから。

ニンゲンに関わるな。お前の敵は、ニンゲンだ。
ニンゲンに早く種を。じゃないとオマエは。

黒い影は、大切なことを伏せて話す癖がある。私は、コイツが嫌いだ。

私は、腹が立つので、黒い影に少しだけ威嚇して、キイナの所に戻った。
私は、現実と頭の中の意識の世界を行き来することができる。
意識の世界に黒い影と光の玉は存在している。
黒い影への怒りは、さて置き、私は、キイナの寝顔を見ながら眠りについた。


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