Secret DarkMonster

sasara

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Secret Dark Monster 11

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何かをしたいという願いは彼女には重荷になるのかもしれない。それでも、私は何かを彼女に残してあげたかった。何も残そうとしない彼女の中に。私の背中に手が回ることも無い。それでも私は粟木悠を抱きしめ続けていた。

もう、大丈夫だよ。お母さん来るから。
ちゃんとお仕事してください。

その言葉で離れた時、粟木悠の体温が寂しくなった。寂しくて、怖くて不安になった。いつか、この体温が感じられなくなるのかと思うと、怖くてたまらなかった。その恐怖心と、不安感、何かをしたいという気持ちがすべて、ごまかせなくなっていた。

ねぇ、悠。
普通ってなんだとおもう?私は普通が好きなの。

彼女が珍しく、きょとんとした顔をしているけど、
そんなのは、もう、どうでも良くて。

私はね、普通の中にいると落ち着くの。きっとみんなそうでしょ?でも、その普通はみんな違う。悠と、私の普通も違う。それでも、私は私のふつうでいたいの。だから。

私と付き合ってくれない?

言ってしまった。私の中にあった彼女への好奇心や、何かをしたいという気持ちがきっと、好意なことは気づいていた。何度話しかけてもその目に自分が映らないことがもどかしくて、独占欲に名前を正当な理由を後付けして、誤魔化していた。
それでも、彼女は1度だって私を見てくれなかった。
限界だった。誤魔化すのは苦しくて、それは、自分にとって普通ではなかった。怖くて顔が見れない。きっと泣きそうな顔をしているから。

ふ、、ふふ、あははは!

すごく大きな笑い声が聞こえる。ビックリして顔を上げると、今まで見たことないくらい、顔を真っ赤にして笑っている彼女がいた。はじめて、私が粟木 悠を笑顔にした日だった。

びっくりしたぁ!急に辞めてくださいよ!
なにかの罰ゲームですか?私と付き合うなんて、物好きなことを!!

ねぇ、悠?私はあなたを1日でも笑顔にしたいの。
涙を流すことを許したいの。怒りに飲み込まれそうになったら、そっと抱きしめたいの。罰ゲームなんかじゃない。私にとって、今1番目の前にある幸せが悠の中で1番になることなの。叶いそうかな?

私の中で1番?そんなことになんの意味があるのか理解できません。私はいつか居なくなります。みさきさんの前からも、この世からも。終わりが見えてて終わらないことを願うのは、矛盾してます。幸せを知ったら、終わりが来た時に来る悲しみも苦しみも倍以上になるのに、なんで。どうして、私なんですか?

目に少しずつ涙がたまる彼女が、私にはとても綺麗に見えて、そのまま流れてしまえと強く思った。でも、絶対に流すことはしないことも知っているから私は彼女を抱きしめた。

まずは、友達からとかでもいいんですか?

その声に私はなるべく優しい声で。

うん。いいよ。

そう答えた。

粟木 悠の病気は、心臓に関わる病で早期に手術すれば助かる見込みもある病気だった。ただ、悠の場合はすこし手術をしようにも
難しく、話が進みづらいのが現状だった。

それから2ヶ月経った。
悠と、私は普通の友達みたいに、話をするようになった。
いつも笑顔でいるわけじゃないし、やっぱりご両親には笑顔を見せることは無かった。

病気についても、先生からご両親と、本人とで話し合いをしたけど
粟木 悠は、手術を頑なに拒んでいると聞かされた。

確かに簡単に決められることではないけど、何故拒むのか分からない私は、悠とどうやって距離を詰めたらいいのか分からないでいた。説得をしたい気持ちとその奥にある気持ちを受け止める自信のなさがぐちゃぐちゃに混ざって言葉に出来ないでいた。

ねぇ、悠はなにかしたい事ないの?
会話のきっかけになればと思って聞いてみただけだった、

んーーー。結婚かな。
 
手術を受ければ出来るのに。
そんな思いから、私は

出来るよ。結婚!
好きな人いないの?

そう聞いてみた。それが目標になって少しでも考え直して欲しかった。例え自分の好意が届かなくても。
悠は、なぜ隣の県にきて倒れていたのか、未だに聞けないのはあの日がクリスマスだったからだった。誰かに会おうとしているのは明白で、クリスマスに会う人なんて限られてる。好意が募れば募るほど聞くのが怖かった。それでも、きっと今が聞くタイミングで逃したら聞けなくなるような気がしたから。

いるよ。好きな人。
目の前に……。

????
思っていた言葉とは反対の答え。
目をつぶって答えを待っていたから顔が見れてない。顔を上げてみる。

そう答える悠は、すこし顔を赤くして私からわざと目を逸らしていた。素直に可愛いと思った。再会した頃の冷たさの欠けらも無いその表情が、私にいとも簡単に特別を与える。簡単に特別を与えるのに、喜びは簡単には与えてくれない。私はこの子の担当看護師である以上この子の病から目を背けることを許されないのだから。頭では分かっていても感情は待ってくれない。段々と体に喜びが積もっていくのが分かって、頭より先に口が動いていた。

あはは!私かぁ。
じゃあ、元気になったら結婚しようか!

私なりの喜びの表現だった。精一杯の。涙が出ない言葉を選んで出した言葉。私の為に生きてくれたら。そう自分勝手を押し付けた。



うん!!!
嬉しそうに優しい顔で悠は言う。

でも、その頃には私は生きてないよ。みさきさん。

今度は悲しそうに優しく笑う。

ねぇ、みさきさんの普通ってなに?
私の普通はね、きっとみさきさんには分からないよ。
先がないこと。女の人が好きな事。
私の大事に閉まってるものでみさきさんを
悲しませるのが嫌なの。
 
淡々と優しく放たれる言葉は私よりずっと大人で覚悟があって。自分勝手な言葉を押し付けたのが恥ずかしくなるくらいだった。

あぁ。また遠くなる。遠くなることに比例するように私の中の悠が大きくなる。怖い。怖くてたまらない。好きだと言うその一言がどうしても出せない。

そうだ。夜になったら私の部屋にきて。
私の.*普通少しだけ見せてあげる。

わかった。じゃあ夜ね。


そうして私は病室から出た。頭の中で*普通という言葉がが、ぐるぐると回る。仕事なんて手につかないくらいに。あっという間に
夜が来た。その日はたくさんの雨が降る夜になった。
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