雪は雷の光に焦がれる

sasara

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静かな本当の世界のはじまり

~2~

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キラが抱きしめてくれた朝のことを思い出すだけで、頬が緩んでしまいそうになる。
でもきっとそんなことしたら次はしてくれなくなりそうなので私は、必死に我慢した。
朝なんて、自分で後ろから来たのに。おはようと言ってくれた後、すごく真顔で、

たばこ、嫌です。

って言って部屋に戻って行っちゃったし、やっぱりまだ距離はあることを再認識した。
横に座るキラは、本当に学生かと疑ってしまいたくなるくらい大人びている。
外の景色を見て、何を考えているのか私にはわかるはずもない。いつもそうだった。

今日は、キラの服とその他の要りそうなもの、それからメインは、携帯だ。
仕事で家を空ける以上連絡を取れないのは、厄介でしかないから。それに
何かあってからじゃ意味がない。邪魔が入ってしまったら、この長かった準備が無駄になってしまう。

キラは、基本的にあまり興味をひくものが少ないのか、服を選ぶのはすごく早かった。
それ以外にも靴や、生活雑貨を買ったので、メインの携帯ショップに向かう。
携帯ショップも思いのほか早く終わった。キラの名前では、当然契約できないので私の名前で契約
したけど、なぜかキラは、私がペンを持つと私の手をじっと見てきていた。
昨日切ったのは、利き手じゃない右手だから、字を書くのも困らない。
もしかして、心配して、、いやきっと違う。考えるのをやめ、キラに声をかける。

そろそろ帰ろうか。晩御飯どうしようか?外で食べる?食べたいものある?

買い物中も必要最低限キラが私に話しかけてくることはなかった。

どちらでも。お任せします。

キラは、ほとんどご飯を食べないことは、昨日と今日の朝、昼で何となく気づいていた。
私は、迷って目的地を決めた。

スーパーで買い物して帰ろうか。

全ての予定を終わらせて帰宅したのは、19時頃だった。
キラには、今日買ったものを自室で開けて要らないごみだけ出しておくように伝えて、
私は、晩御飯を作ることにした。

手に水がしみないようしっかりテープを貼って。手袋をして料理を開始する。
ご飯ができるころに、キラは、伝えていたごみもきちんとまとめて出しに来た。

キラ!ご飯できたよ。今日のご飯は、ワカメスーブとご飯と鶏肉の辛味焼きだよ!

はい。

食事を机に並べご飯を食べ始める。キラは、きちんと手を合わせて小さい声ではあるけど
いただきますと言って食べ始めた。その姿を見て私はずいぶん長いこと いただきます。と
言ってないことに気づく。 

キラ、残してもいいから無理しないで食べて。それから嫌いなものがあったら
その都度でいいから教えてほしいなぁ。

感情が表に出ないせいで、おいしいのか、嫌いなものがあるのかもわからず不安になる。
今日のメインは、わかめスープだ。誕生日には、わかめスープだとこの前映画で見たのを
思い出したから。

キラは、すべて残さず食べてくれた。でも少し苦しそうな顔をしているように
感じて、明日からは、量を少し減らそうと思った。
食器はキラが洗ってくれた。手際がいいところを見ると普段から家事はしているのだろう。

食器を洗い終えたキラにソファーに座るよう声をかけた。
一緒に温かいお茶を飲みながら明日からのことを話すことにした。

私ね、明日から仕事だから8時くらいに家を出るけど朝から少し物音がするかもしれない。ごめんね。
帰ってくるのは、大体18時頃になると思う!キラは、家にいても外に出てもらってもいいけど
あまり遠くには、行かないでね?何かあればすぐに連絡して?

キラは、小さく返事をした。

そして大事なことを伝えた。

キラ、少しついてきてくれるかな?そう言って私の部屋へ案内する。

私の部屋に入っても別に構わないんだけど、この引き出しだけは、開けないでほしい。

その引き出しには、″計画 と書かれたノートが入っているのだから、見られるわけには、行かない。
きっとこの子は、私のいない間に私の部屋に入ることはしないと思うけど一応に越したことはない。

キラは、引き出しをじっと見つめてまた、小さな返事をした。

キラがお風呂に入っている間に私は、引き出しを開く。″計画 のノートの下、もう一冊の
ノートを開く。そのノートに書き込み終わったころキラがシャワーを終えた音がした。

見られたくないのは、こっちだな。

ノートをしまい引き出しにカギをかける。

私もシャワーを浴びようと部屋から出るとキラと目が合う。

おやすみ、キラ。

しばらく立ち止まりキラは、軽く会釈して部屋へ戻っていった。

・・・・・・・・・・・・・・

六花さんに抱き着いたのはいいとして、匂いがしない。
たばこの匂いは、邪魔だ。

たばこ、嫌です。そう伝えて私は、部屋へ戻った。何をしているんだろう。
そう考え始めると明日からこの条件をクリアするのが困難になりそうだと察して
考えることをやめた。とにかく出かける準備をすることにした。といっても
メイクなんてしないので、服を着替えてほとんど終わり。ただ部屋から出ても
やることもないので、六花さんに呼ばれるのを待つことにした。

全然、動揺してなかったな。


買い物には、六花さんの運転で連れて行ってくれた。外で、知り合いに会うわけにはいかないので、
きっとそれも考えて何だろうと思った。そうやって、当たり前のようにさらっと優しい
六花さん。私が服を脱いでもいきなり抱き着いても動揺せず落ち着いている六花さん。
5歳上だとこんなに大人なんだ、そして私は、そんなことで・・・。
自分が窓に映る。六花さんから見たら私は、ひどく子供なんだと思うと外から目線を
動かせなくなった。自分を見てなんかなくて、そんな大人で優しい人を窓越しでしか私は、見れない。


服や、生活雑貨なんてそこまで必要なんかじゃないと思うのに、六花さんは私の意見を最初に
聞いてきた。おまけに携帯なんて安くないことくらい分かっているから無条件にもらうということが
私に申し訳なくて断りを入れたのに聞いてはくれないし。

ただ、六花さんは、字がきれいだ。左利きらしく契約書にサインをするとき書きづらそうに
見えるのに、すごく綺麗な字を書く。その違和感に私は、目が離せなかった。
古城 六花。そう書く手を、その手から現れる字を見ていたかった。

私にだけお金を使って自分のものは、買っている姿を見なかった。休みの日に運転もして
きっとすごく痛いのにテープまで貼って料理をする六花さんの考えていることが全く私には
想像すらできない。六花さんの作ってくれた料理は、すごく久しぶりな手料理だった。

残さなくていい。嫌いなものは、教えてほしい。そうやって私を肯定する。

なのに私は、そんな優しい久しぶりな手料理を美味しいといえないのだから。
全て食べきるのは、ルールだから。そうだったから。
手をけがしてる六花さんに洗い物は、させるのことは出来なので、私は、無言で
お皿を洗うことにした。それも私には、六花さんは言わない。


この引き出しは、開けないで。

すごくまじめな顔で言うところを見ると本当に嫌なんだとわかる。
普通なら部屋に入ることすら禁止してしまえばいいのに。分からない。分からない。

シャワーを浴びながら、開けないでといった六花さんの顔を思い出す。

もし、もしも開けてしまったら私に呆れて、落胆して、そばに居たくないと言われるのだろうか。
そんなことを考えていても、そんなことを六花さんがどんな顔で言うのか想像がつかなかった。
呆れられることも、落胆されるのも突き放されるのも慣れているのに。
シャワーを終え自室に戻るとき六花さんに会った。

おやすみ、キラ。

優しい笑顔をしてそんな言葉をこれからどのくらい聞くのだろう。
その言葉に慣れて、当たり前になって、私は、平然と

おやすみ、六花。なんて馴れ馴れしく返事をする日が来るのだろうか。
そんな傲慢な考えを自分も持っていることに沈む。

その優しい笑顔に私は何も言えなくて、会釈して逃げるように自室に戻った。

家の中から生活の音が消える時間。私は、やはり六花さんの部屋の前に立っていた。
昨日のようにするつもりではなく、ふと気になったことがあったからだ。
洗い物を終えた後も、昨日の夜も今もそうだ。六花さんは、暖房をつけない。
今は、冬で、気温も低い。ましてや夜になれば余計なのに六花さんの部屋には、ヒーターがあるわけでは
なかったし。ドアの隙間から冷気だけが伝わる。乾燥とか気にしているのかな。
耳を澄ましても時計の音しか聞こえない。

部屋に戻って窓から見える月を見て雪を思いつく。

六花さんは、柔らかく、優しく掴んでしまったら消えてしまう雪のようだと思った。
明日から六花さんは仕事だから、私は、この家で、一人きり。
深く布団をかぶり心の中で小さく宛先もない言葉を放つ。

おやすみなさい。







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