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気分屋
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「いらっしゃい、何を買っていくんだい?」
ある町の一角にあるこの店は、今日も賑わって...はいない。一日に2、3人来る程度だ。他にも大きな店があるから仕方ないか。
この世界で必要とされている物の一つに『気持ち』という物が存在する。最初は皆それを持っていた。だけど歳を重ねていく度にその物は無くなっていってしまう。自分で『気持ち』を補給するのは成人になってしまうととても難しかった。そこで、『気持ち』を補給出来るように各地に作られたのがこの店、通称『気分屋』だった。ここには大抵の『気持ち』が揃っている。
流石に害のある怒りとか憎しみとかの『気持ち』はそもそも違法だから取り扱っていない。ここでは向上心や喜びと言った具合にそれぞれ飴玉のように固められて店の棚に並んでいた。
今日来たお客さんは女の子だった。13、4歳ぐらいか。花の飾りが付いたヘアピンを着けていて、薄い黄緑色のワンピースがとても良く似合う子だった。
「あの、今日は買いに来た訳じゃないんです」
「じゃあ売りに来たんだね。高めに買い取ってあげるよ」
こういうパターンはたまにある。先程自分で『気持ち』を補給するのは成人になってしまうととても難しいと言ったが、それは成人になる前は自分で『気持ち』を補給出来るという事でもあった。10代半ばぐらいまでなら気分屋に来なくても大丈夫で、ちょっとした小銭稼ぎとして『気持ち』を売りに来るのだ。違法とされている『気持ち』は事前に抑制剤を打たれるから心配は無い。 「それで、どんな気持ちを売ってくれるのかな?」
女の子は少しもじもじしながらも答えた。
「実は...その、最近変な気持ちが出来たみたいで...隣のお家に住んでる友達を見る度に...こう、胸が熱くなるんです。ずっと一緒に居れたらとか、あの子が他の子と仲良くしてるとなんだか黒いもやができたみたいになっちゃうんです...もしかしたら危ない気持ちなんじゃないかなって...だからこの気持ち、売るので私の中から取り払って下さい!」
話していく内に女の子は苦しそうな表情を浮かべていた。
女の子が売りたい『気持ち』はすぐ分かった。それは恋心。沢山の『気持ち』が絡み合って、良い方向でも悪い方向でも強い力を発揮する上、歳を重ねても消えにくい『気持ち』の中でもレアな部類だ。中々売りに来てくれる人が居ないせいで恋心の値段は高くなってしまう。需要も結構あるしこれはありがたい。
「分かった。少し待っててね」
立ち上がって店の奥から装置を持ってきた。ベルのような形をした特殊金属がチューブに繋げられていて、瓶の蓋部分にはそのチューブと手回し式のハンドルが付けられている。これで『気持ち』を取り出す。
「じゃあ目を閉じて、売りたい気持ちを強く思い浮かべてねー」
「わ、分かりました」
女の子が目を閉じる。その頭にベル部分をそっと添えて、もう片方の手でハンドルを回す。すると瓶の中にカランと音を立てて小さな飴玉がいくつか出てきた。淡いピンクの色をしている。この色は恋心だ。無事に取り出せた。
「もう目を開けていいよ」
声を掛けると女の子はゆっくりと目を開けた。
「どう?変な気持ちは無くなった?」
「はい、もう何ともないです。ありがとうございます」 先程の苦しそうな表情はもう消えていた。
「えーっと、6個だから...20000円で買い取ろうか。ハイ、どうぞ」
レジから買取金額を取り出して女の子に渡した。流石に金額に驚いたようだった。
「え、こんなに高いんですか...?」
「高めに買い取るって言ったからね」
でも恋心は場所によっちゃ一個4000円ぐらいなんだけどね。
女の子が店から出ていった後、恋心の入った瓶に値札を付けて、棚に新しく飾った。
ある町の一角にあるこの店は、今日も賑わって...はいない。一日に2、3人来る程度だ。他にも大きな店があるから仕方ないか。
この世界で必要とされている物の一つに『気持ち』という物が存在する。最初は皆それを持っていた。だけど歳を重ねていく度にその物は無くなっていってしまう。自分で『気持ち』を補給するのは成人になってしまうととても難しかった。そこで、『気持ち』を補給出来るように各地に作られたのがこの店、通称『気分屋』だった。ここには大抵の『気持ち』が揃っている。
流石に害のある怒りとか憎しみとかの『気持ち』はそもそも違法だから取り扱っていない。ここでは向上心や喜びと言った具合にそれぞれ飴玉のように固められて店の棚に並んでいた。
今日来たお客さんは女の子だった。13、4歳ぐらいか。花の飾りが付いたヘアピンを着けていて、薄い黄緑色のワンピースがとても良く似合う子だった。
「あの、今日は買いに来た訳じゃないんです」
「じゃあ売りに来たんだね。高めに買い取ってあげるよ」
こういうパターンはたまにある。先程自分で『気持ち』を補給するのは成人になってしまうととても難しいと言ったが、それは成人になる前は自分で『気持ち』を補給出来るという事でもあった。10代半ばぐらいまでなら気分屋に来なくても大丈夫で、ちょっとした小銭稼ぎとして『気持ち』を売りに来るのだ。違法とされている『気持ち』は事前に抑制剤を打たれるから心配は無い。 「それで、どんな気持ちを売ってくれるのかな?」
女の子は少しもじもじしながらも答えた。
「実は...その、最近変な気持ちが出来たみたいで...隣のお家に住んでる友達を見る度に...こう、胸が熱くなるんです。ずっと一緒に居れたらとか、あの子が他の子と仲良くしてるとなんだか黒いもやができたみたいになっちゃうんです...もしかしたら危ない気持ちなんじゃないかなって...だからこの気持ち、売るので私の中から取り払って下さい!」
話していく内に女の子は苦しそうな表情を浮かべていた。
女の子が売りたい『気持ち』はすぐ分かった。それは恋心。沢山の『気持ち』が絡み合って、良い方向でも悪い方向でも強い力を発揮する上、歳を重ねても消えにくい『気持ち』の中でもレアな部類だ。中々売りに来てくれる人が居ないせいで恋心の値段は高くなってしまう。需要も結構あるしこれはありがたい。
「分かった。少し待っててね」
立ち上がって店の奥から装置を持ってきた。ベルのような形をした特殊金属がチューブに繋げられていて、瓶の蓋部分にはそのチューブと手回し式のハンドルが付けられている。これで『気持ち』を取り出す。
「じゃあ目を閉じて、売りたい気持ちを強く思い浮かべてねー」
「わ、分かりました」
女の子が目を閉じる。その頭にベル部分をそっと添えて、もう片方の手でハンドルを回す。すると瓶の中にカランと音を立てて小さな飴玉がいくつか出てきた。淡いピンクの色をしている。この色は恋心だ。無事に取り出せた。
「もう目を開けていいよ」
声を掛けると女の子はゆっくりと目を開けた。
「どう?変な気持ちは無くなった?」
「はい、もう何ともないです。ありがとうございます」 先程の苦しそうな表情はもう消えていた。
「えーっと、6個だから...20000円で買い取ろうか。ハイ、どうぞ」
レジから買取金額を取り出して女の子に渡した。流石に金額に驚いたようだった。
「え、こんなに高いんですか...?」
「高めに買い取るって言ったからね」
でも恋心は場所によっちゃ一個4000円ぐらいなんだけどね。
女の子が店から出ていった後、恋心の入った瓶に値札を付けて、棚に新しく飾った。
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