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Pray

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駄物屋

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「帰りな」
 店に入ってからの店員の第一声が『いらっしゃい』じゃなかったのは人生初の体験であった。

 当たれるだけの知り合い、知り合いの知り合い、そのまた知り合いに当たって場所を聞き出したこの店。まぁいつ崩れてもおかしくない程ボロボロで、看板と思わしき板が地面に突き刺さってた上に文字が掠れて見えなくなっていたり、ガラクタが店の中から溢れかえってたりしてたもので、店かどうかすら疑わしいのだが。
 そんな外見と裏腹にかなり広かった-しかし大量のガラクタで歩けるスペースは狭い-店の奥に居た女性の店員は、愛想というのを辞典で教えてやりたい程に無愛想だった。

「ここは店擬きのゴミ捨て場だよ、人が来る事自体おかしいんだ、迷子なんなら帰り道を教えてやるからさっさと出て行きな」
「いや、迷子じゃなくて、ここ、その、色んなガラクタを取り扱ってる店、で合ってますか?」
 気迫に押されてかなりしどろもどろしながら言うと、店員は呆れたように答えた。
「はぁ...さっきゴミ捨て場って言ったのが聞こえなかったのかい?ここは駄物屋って言ってね、価値が無くなった物達が行き着く終着点なのさ、まぁ価値が無いから利益になる訳ないし、やっぱりゴミ捨て場だね」
 良かった。目的の店で合ってたようだ。
「あの、僕ここに用事があって来たんです」
「この場所に?用事?へぇ、アンタ随分と変な奴だね、まさかここの新しいガラクタじゃないだろうね?」
「いえ、探し物です」
「価値の無い物達にかい?」
「はい、」
 店員はかなり驚いたようだった。それもそうだろう、N値が0の物が集まるこの店に探し物に来る人なんていない筈だ。

 この世界のありとあらゆる物にはN値と呼ばれる数字が付けられていた。必要とされる物=価値のある物として、N値が高い程価値が高く、逆だと価値は低い。N値が0の物は、完全に不必要とされ、その上記憶からも忘れ去られてしまう物だった。だから店員のゴミ捨て場という表現も間違ってはいない。

「ふーん、で、何を探すんだい?」
「僕の彼女です」
「命日は?」
「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎年9月28日です」
 それとN値が0になる物はもう1つある。それは...死体。なんでも魂が無くなるから人間としての価値も無くなるのだと。
 僕の彼女は事故で死んだ。だが僕はその時仕事で遠征していたから彼女の告別式に行けず、知らせを聞いて帰って来た時には彼女のN値は0になって葬儀屋に運び出されていた後だった。

 彼女にせめてお別れの言葉だけでも、そんな中、N値が0の物を取り扱う駄物屋の話を聞き、今に至る。
「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎年9月28日ねぇ、ちっと待っててな」
 店員がガラクタだらけで足の踏み場も無いような山を慣れた足取りで登り、更に奥へと消えていった。

 少し経って、ガラクタの山の奥から店員が大きな袋を持って出てきた。袋は人間1人入れる程のサイズで、タグが付いていた。
「命日は合ってるから多分これだね、で?コレ価値無いから勝手に持ってっていいけど」
 店員から袋を受け取る。かなり重い。タグには『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎年9月28日 N:0』と書かれている。
 そっと袋のファスナーを開ける。中には安らかに眠る彼女の死体が入っていた。下半身は事故で見る影も無くなっていた。だけど彼女は...生きていた時と同じように、N値がまだ0じゃなかった時と同じように、可愛いままだった。僕の愛する彼女のままだった。
「リカ、ごめんな、ごめんな...!最期に僕が側に居てあげられなくて...!!」
 彼女の死体を抱き抱えたまま、僕はその場に座り込んで泣き出した。「ごめんな」と何度も何度も言う声がガラクタだらけの店の中に響き渡る。

 店員はカウンターと思わしき所へ戻って本を読み始めていた。
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