JK戴冠

ちゃんの

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第2章 出会い

第6話 待ちかねたエモノ

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 廊下の床にはふかふかの絨毯が敷き詰められている。暗めの照明も上品で、まるで高級ホテルみたいだ。しばらく進むと広い場所に出た。

「うわぁ……」

 思わず声が漏れた。

 とても広い円柱形の空間だった。吹き抜けになっており、透明なエレベーターが行き来している。巨大なオフィスビルのような雰囲気だ。さらに側面部分はガラス張りで、日光がふんだんに差し込むようになっている。晴は眩しくて目を細めた。

 廊下を歩く人々はいずれも黒い服を着ており、葬式のような物々しい雰囲気がある。彼らの髪色も黒が多く床も灰色で、色鮮やかなものがとにかく少ない。モノクロのフィルターを通したような世界だ。

 ロユンに導かれて進む中、研究者のような見た目の人と多くすれ違った。さらに晴は、人型のロボットがたくさん行き交っていることに驚いた。手足が人間とそっくりなもの、一本の足で滑って移動しているもの、ふわふわと浮遊しながら進むものなど様々だ。こんなに多くのロボットを目の当たりにするのは初めてで、晴はフードから顔を出さないようにしつつ、夢中で観察した。

(なんか、近未来って感じがする…。ロボットが当たり前の国なのかな)

「ほら、よそ見しないでちゃんと着いてきて。ここが見惚れるほど素晴らしい空間なのはわかるけどね」

 上機嫌なロユンが振り返って言った。後ろを歩いて改めて感じたが、ロユンはすらりと背が高い。晴の身長は165cmあるが、ロユンはさらに頭ひとつ分高かった。青みがかった黒髪が歩くたびにサラサラと靡いている。

 晴の後ろに続くマオはさらに背が高い。がっしりした体型なので体重もだいぶ重そうに見えるが、足音は静かだった。スタスタと晴についてくる。今日も黒いスーツを身に纏っていた。

「エレベーターで最上階に移動するよ」

 エレベーターの壁もガラスで、中に誰が何人乗っているのか丸わかりになっていた。ロユンがエレベーターホールに現れると、待っていた人々が場所を譲っていく。

「ボス、どうぞ」
「ああ、悪いね。ありがとう」

 促され、晴たち3人はエレベーターに乗り込んだ。

(ボス……?)

 晴はまじまじとロユンを見上げた。彼はとても若く見える。こんな大きな組織のトップとは考えにくいが、ロユンから威厳を感じるのも事実だ。

「さっきボスって呼ばれていたけど……」
「ああ、言っていなかったね」

 晴の聞きたいことを察して、ロユンが微笑みながら答えた。

「改めて自己紹介しておこうか。僕は革民党の党首、ロユン。そして彼は党員のマオ」

 マオが穏やかな表情で軽く会釈をした。

「党首……」

 どうやらとんでもない人物に捕まってしまったようだ。こんな広大な土地を治め、大きな組織を束ねる人物だったとは。晴はますます自分の未来に不安を感じてきた。


 数秒後、エレベーターが最上階に到着した。この階もガラス張りで、高さが増した分、眺望の素晴らしさも増している。それをうっとりと眺める間もなく、晴は「こっち」とロユンに軽く引っ張られた。

 最上階は人が少なく静かで、ひとつ下の階とも一際距離が空いている。まさに特別な空間という感じだ。歩いていると、向かいからロユンに声をかける者がいた。

「あっ、ボス!」
「……ああ、トキ」

 言いながら駆け寄ってきたのは、細くすらっとしたシルエットの女性だった。艶のある黒髪が顎辺りの長さでぴっちりと切り揃えられている。前髪から覗く鋭い目は透き通る青緑色で、深い色の口紅が美しさを強調していた。

 思わずまじまじと見つめてしまい、晴は慌ててフードを被り直した。彼女は晴よりも背が高いので、見上げる形になって少しずり落ちてしまったのだ。

(まずいな、トキに晴ちゃんの正体がバレたら厄介なことになる)

 ロユンはなんとかこの場を切り抜けようと思考を巡らせた。

「探してたんですよ。また少ない護衛で外出してたんでしょう、今回はどちらまで?」
「ちょっと日本までね」
「えっ? 日本?」

 トキと呼ばれた女性はロユンの答えに驚いたのち、呆れ顔で白い腕を組んだ。

「海外までそんな軽い護衛で行くなんて信じられません。しかも日本なんて、親王派に鉢合わせる可能性だってあったのに……」

 トキも諸々の事情を把握していた。

「マオも付いていたから安心して」

 にこやかにロユンが答えると、トキはむっとしてマオを睨みつけた。

「それならそうと私にも言いなさいよあんた。え? 『言ったらトキも付いてきたでしょ』って? 当たり前でしょ。ボンドは私が殺すつもりだったのに。王族は全員この手で殺してやる」

 言葉の節々に強い殺意が滲んでいる。晴は思わず震え上がった。同時に、無言を貫くマオの言いたいことを通訳するかのようなトキの話ぶりに驚いた。

「まあいいわ。それより……それは誰です?」

 トキは鋭い目で晴をじっと見つめた。晴はフードを深く被って俯いているが、それでもトキの刺すようなきつい視線を感じる。

「ちょっと日本で色々あって。僕たちの事情を知られちゃったんで連れてきたんだ」

 嘘ではない。軽い口調で話すロユンにトキは顔を強張らせた。

「会話を聞かれたんですか? ならさっさと処刑しましょう。ボスのお手を煩わせることはありません、私が連れて行きます」
「ああ、待って」

 晴の手を掴もうとしたトキから、すんでのところでロユンが晴を引き寄せる。

「何か?」

 トキが怪訝そうに顔を顰めたので、ロユンは努めて冷静に言い訳をした。

「いや、とりあえず僕の部屋に連れて行って話を聞くつもりなんだ。その後、僕が責任を持って牢まで送り届けておくよ」

 トキは納得していない様子で眉をひそめ、掴もうとした晴の腕が拘束されていないことに気づいた。次に足を見る。錠すらかけられていない。情報を知ってしまった部外者にしては甘すぎる対応だ。

(おかしい……ボスは何か隠してる)

 直感でそう感じたトキは、目にも止まらぬ動きで晴のフードを払いのけた。あまりにも速く一瞬のことだったため、ロユンも追いつかず。晴の顔は晒されてしまった。

(銀の瞳!!)

 気付いた瞬間に猛烈な殺意に襲われたトキは、手首に仕込んでいた刃物で容赦なく晴の目を狙った。

 殺しに慣れているトキが急所を狙わなかったのは、咄嗟の衝動による行動だったためだ。恨めしくて仕方ないその目を潰したいと思ったからである。

 今度は反応できたロユンがギリギリで晴の腕を引き、晴がよろめいたことで目に刃は当たらなかった。軌道がずれ、刃は晴の頬を浅く切り付ける。じんわりと赤い血が溢れた。

「おまえ……ヴィーゼルか!!!」

 低く、恨みのこもった声。

 腰が抜けた晴はぺたりと床に崩れ落ちてしまった。ここまで強い殺意を向けられたのは初めてだった。

 尚も暴れようとするトキだが、マオに腕をがっしりと拘束されたため自由を失った。

「殺す!!! 殺してやる!!!!」

 腕を出せないとなれば噛み潰すと言わんばかりの勢いでトキが晴に迫る。マオに力では敵わないので晴に届くほど動くことはできないが、長年の憎しみが表れた声と表情は、晴を心底怯えさせるには充分であった。

(まずい、早くどうにかしないと……)

 らしくもなくロユンが冷や汗を流した、瞬間。

 窓ガラスが割れ、激しく散った。
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