JK戴冠

ちゃんの

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第2章 出会い

第7話 嵐の訪れ

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 窓ガラスが大きな音を立てて派手に割れ、粉々に砕け散る。

 破片の間から白い髪の女が姿を現し、「フンッ!!」と声を漏らしながら最上階の床に着地した。彼女が体当たりでガラスを突き破って、外から侵入してきたのである!

 その場にいた全員が、彼女に目を奪われて動きを止めた。

「さぁ、迎えにきたよ」

 お団子に纏められた白い髪が褐色の肌に映えている。女は白いタンクトップ一枚に暗い色の長ズボンという姿で、露出した腕は太く逞しい。見るからに屈強で、ガラスを突き破るという荒技をものともしない強い体なのがわかった。そして何事もなかったかのような爽やかな表情である。

 状況が飲み込めず呆気に取られるトキとマオに対し、ロユンは吹き出して大笑いした。ボスがここまで表情を緩めるのは珍しいことなので、2人はさらに驚いて目を丸くする。

「まったくもう、それ特注の強化ガラスなんだけど。体当たりで突き破るなんて信じられない……ぷっ」

 笑いながら言うロユンに、女は固い表情ながら少し自慢げに言い返した。

「私の侵入を防ぎたいなら、ガラスだけじゃなくて鉄格子でもつけておくんだな」
「鉄格子だってひん曲げちゃうでしょ」
「あんたのひょろい体よりは曲げがいがあるさ」

 恐ろしいことを言われながらも、ロユンはなぜか嬉しそうに笑っている。我に返ったトキが腕を掴まれたままの体勢で声を上げた。

「ちょっと、誰だよあんた!! いきなり入ってきて、うちのボスに対して何なのその口のきき方は!?」

 女は肩をすくめた。

「はあ? 私は呼ばれたから来ただけだ」
「確かに呼んだけどさぁ、普通に入口から来てよ。ティナなら喜んで招き入れたのに。窓から入ってこいなんて言った覚えないよ?」

 女──ティナは、呆れつつも面白がっているロユンを無視して、腰を抜かしている晴に近づいた。ティナはロユンより背が高く、近くで見ると壁を前にしたような迫力がある。

「そこのお前だな、行くぞ」
「ひぃ!?」

 がしっと強く腕を掴まれて晴の悲鳴が漏れた。凄まじい筋肉だ。抵抗したら容赦なく捻り潰されそうである。晴は格闘家ではないので詳しいことはわからないが、ティナの強さを肌でビリビリと感じた。

「ちょっと待てよ、横取りする気か!? そいつは私が殺すんだよ!」

 トキが憤慨して喚き散らす。ティナは面倒そうにトキを見ると、ぐいっと顔を近づけて「知るか」と吐き捨てた。

「私はを迎えに来たんだ。弱いくせに邪魔するな」
「~~~っ、マオ、今すぐ私を離せ。こいつを八つ裂きにしてやる!!!!」
「まぁまぁ、落ち着いて…」

 宥めようとしたロユンの言葉も聞かず、トキはマオからなんとか片腕を振りほどき、ティナの首を狙って刃物を振った。確実に届く距離であったが、ティナは避けなかった。

「……!?」

 刃物は確かにティナの喉元を掠めた。だが不思議なことに皮一枚すら切れることはなく、引っ掻き傷のようなものがうっすらついただけだった。

「フン」

 うざったそうに鼻を鳴らしたティナは、ちょっとした荷物かのように軽々と晴を小脇に抱えた。そして、驚いて固まっているトキを尻目に割れた窓の元へと戻っていく。

「じゃあな」

 振り返ってロユンと一瞬目を合わせたあと、ティナは晴を抱えたまま窓の外へ飛び降りた。



「いやぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」

 ものすごい高さに臓器が浮き上がる感覚がして、晴は激しい悲鳴をあげた。ティナがしっかりと掴んで包み込んでくれたらまだ安心できたかもしれないが、残念ながら晴の腰回りを腕一本で抱えているだけである。体は激しく揺れ、今にも放り出されてしまいそうだった。

「うるさいな……」

 空いている片腕で耳を塞ぎながら、ティナは下の様子を伺った。手筈通り、数メートル下の空中でオープンカーのような形状の飛行機が待機している。

「よし」

 ティナは晴を肩に担ぐように持ち直すと、足に力を入れて狙いを定め、自由落下の勢いのままドスンと着地した。

 普通なら足が砕け散るところだが、ティナは自分と晴の体重を支えきり、晴の受ける衝撃も緩和させて無事に着地してみせた。同時に飛行機が動き出し、ぐんぐんスピードを上げて革民党本部から離れていく。

「はぁ、はぁ……」

 落下中ぎゅっと目を瞑っていた晴は、まず生きていることに驚いた。手も足もある。どうやら無事らしい。

 晴とティナが乗り込んだ……と言うより落ちたのは、翼の生えたオープンカーのような見た目の飛行機だった。前方中央に運転席があり、その後ろに円形のソファがある。晴はひとまずそこに着地した状態だ。

 何がどうなっているのか全くわからない晴に構わず、乗り物は猛スピードで移動していく。頭は混乱していたが、それが一瞬どうでも良くなるほどに、座席からの眺めは素晴らしかった。




「……今の女は誰なんですか?」

 去り際のかっこいいティナに見惚れ、ロユンの顔はだらしなく緩んでいる。それを気持ち悪いと思いつつ、少し冷静になったトキが敬語に戻って尋ねた。同時にマオに放してもらえた両腕を回しほぐす。

「親王派のティナさ。『よろい』のひとりだよ」
「あれが『鎧』……」
「かっこいいだろう?」
「……かっこいいかどうかはどうでもいいですけど、私の刃で切って血すら出ないなんて」

(信じられない、毎日研いでるのに!!)

 トキが地団駄を踏む勢いで悔しがる。ロユンは昔を思い出して遠い目をした。

「……まぁ、ティナは強いからね」

 その曖昧な返事にトキは眉を顰めた。だがトキにとって、ティナは苛つくが比較的どうでも良い。問題は晴である。

「やっと手に入れた憎い相手を手放すなんて信じられません。私のこの憎しみは、奴らを根絶やしにすることでしか晴らせない。あなたもわかっているはずです。あなたに止められても、私はあの娘を……、ヴィーゼルを殺しに行きますから」

 キッパリとそう言い残すと、トキはシワの寄った服を直しながら足早に去っていった。

 残されたロユンは大きなため息をついた。

「……はぁ、まったく、長年の恨みは厄介なものだね。トキと僕では目指す先が違うから、仕方ないか」

 ロユン自身にも抱えているもの、曲げられない信念がある。故にトキとはぶつかり合うことも多いのだ。両者と深い仲のため複雑な心境のマオは、少ししょんぼりしながら頷いた。
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