JK戴冠

ちゃんの

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第3章 王都にて

第19話 褪せた銀色

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 緊張して体に力が入っていた晴は、会議が終わってどっと疲れを感じた。注目を浴びるのがもともと苦手な上、知らない大人に囲まれて落ち着かなかったのだ。

「ふ~っ、おれ緊張しちゃった。先生、今日は稽古あるっけ?」

 言葉とは裏腹に随分リラックスしていた様子のカファーが伸びをしながら言った。横からジルが「今日の稽古は午後からだ」と口を挟む。

「そうだぞ、予定くらい把握しとけ。いつまでもジルとセオシュに頼りきりってわけにはいかねぇだろうが」

 リグロが立ち上がって、カファーの背中を軽く叩いた。そして晴を見てふと閃いた顔をする。

「そうだお前、午後とくに用がないなら稽古を見に来いよ。観客がいた方が子どもらも気合が入るしな」
「おっ、いいね! 来なよ晴!」

 晴は興味をそそられた。会議ですぐに王と認められることは流石にできなかったので、このあとすぐにやることも思いつかない。まずはみんなと積極的に関わっていくべきだ。

「稽古中なら先生もいるし安心だな。セオシュは銃隊と訓練だから別行動だが」
「ちゃんとかっこいいところを見せてあげてくださいよ?」
「もっちろんだよ!」

 カファーはすっかりテンションが上がったようで軽く肩を回すなどしている。まだ時間があるのに、すごい気合の入りようだ。

 みんなで話しながら会議室から出ようとすると、一歩先を歩いていたイトカが突然立ち止まり、全員を会議室の中に押し戻した。

「どうした?」
「しっ、中にいて」

 有無を言わさぬイトカの言葉に、全員大人しくその場にとどまる。開きかけた扉の影に隠れながら外の様子を伺うと、誰かの会話が聞こえてきた。

 先に外に出ていたメイが、すぐそこの廊下で官僚に絡まれて道を塞がれていた。

「ちょっと。どいて」

 会議室からはメイの背中しか見えないが、相当気が立っていることが見てわかる。晴は背中に冷や汗が伝うのを感じた。

「王のお気に入りの鎧様は、今日も仲良く内緒話か。私たちも混ぜてくれないかな?」
「呑気で良いなあお前らは」
「王がいなくては何の力もないくせになあ」
「いつまでも城に居座って、城の金を搾り取る悪魔だ」

 悪意たっぷりに話す官僚の2人は、白装束のような服に身を包んでいた。メイより背が高いのをいいことに見下ろしながら言いたい放題である。

 メイは沸々と湧き上がる怒りをどうにか抑えていた。部屋内の鎧たちもいい気持ちはしなかったが、こんな所で争っても良いことはないので黙って耐えていた。

 だが、そんな我慢ができない人間もいる。

「おいお前ら、もう一回言ってみろ」

 肩を怒らせながら廊下に出たティナを慌ててイトカが抑えた。ビクッとメイが振り返る。晴はハラハラしながらその様子を見守った。

「うわっ、出たぞ。怪物だ」
「恐ろしい顔よ……」

 官僚たちは冷静さを失ったティナを前に怖気付き、いそいそと去っていった。

(ティナが怪物、ねぇ……)

 イトカはカチンときたが、努めて冷静に呼びかけた。

「みんな、あいつらの言うことは気にするんじゃないよ。大した仕事もせず城の金を齧っているのはあいつらの方だ。俺たちは俺たちのすべきことをしよう」
「ああ。ティナも落ち着け。あんなのにいちいち苛立ってたらキリがねぇ」

 イトカとリグロに宥められて、ティナは不満そうではあるが大人しくなった。

「晴も気をつけて。ああいう奴らに君のことが知られると面倒だ」
「はい……」

 言われずとも近寄りたくもない。晴はイトカの言葉に素直に頷いた。

 ここ数年のコワでは親王派と革民党の対立だけでなく、親王派の内紛も大きな問題となっている。鎧に対する官僚の不満と敵意が表れた今回の出来事が、まさにその問題を体現していた。




 その後、晴たちは生活スペースの方へまとまって移動していた。その途中、大広間に差し掛かったあたりでカファーが「あ!」と声をあげた。

「いいこと思いついちゃった~。部屋に帰る前にさ、晴を連れて城を一周してみない? まだお腹も空いてないでしょ?」

 まだ昼食には早い時間でもある。ジルも同意した。

「確かに。ゆっくり歩けば、部屋に戻る頃にちょうどお昼時になりそうだな」
「いいですね! イトカ様に許可をもらってきます」

 セオシュが少し先を歩いていたイトカに駆け寄っていく。横で話を聞いていたティナが顔を顰めた。

「お前らだけで大丈夫か? 私はイトカと稽古だから着いていけないぞ」

 イトカも懸念がないわけではなかったが、部屋で何もしない時間を過ごしても晴のためにならないだろう。弟子たちの戦闘力も信頼している。

「まあ、城の中だけならいいよ。行っておいで」
「頭の悪い官僚共も、子どもらに手を出したら俺が黙ってないことくらいは……わかってるだろうからな」

 リグロもニッと笑った。

 家族のいないリグロは、自分の弟子であるカファーとジル、そしてその友人のセオシュをとても大事に思っている。先ほども、絡まれていたのが大人のメイだったから冷静でいられたものの、もし子どもたちだったらティナより早く飛び出していただろう。

 稽古に向かうイトカとティナ、仕事のため自室に戻るリグロと別れ、晴と弟子たちは活動エリアから見て回ることにした。




 すれ違う人々の服装はカラフルで、革民党と様子が全く違う。大きなピアスやチョーカーなど、目立つ場所に銀のアクセサリーをつける人が多かった。

 興味津々の晴に、見かねたカファーが横から教えてくれる。

「銀は王室のイメージカラーって感じなんだ。きみの髪と瞳もそう。ただ、髪色は王族全員が銀だったわけじゃないんだよ。ボンド王は黒髪だったし」
「キレウィ様は綺麗な銀髪をお持ちだったらしいな」

 キレウィ様とは誰なのかと晴が聞こうとしたとき、壁に飾られた肖像写真が見えてきた。彫刻が施された額縁がいくつか並んでいる。歴代の王族のようだ。

 カファーがそのうちのひとつを指して言った。

「晴、見て! この人がキレウィ様だよ」
「おお……!」

 晴は思わず真剣に見入ってしまった。

「キレウィ様は、ヴィーゼル6世様の長男です。ボンド王のお兄様ですね」

 キレウィは見事な銀色の髪を長く伸ばした美しい男性だった。端正でどこか儚げな顔立ちだが、力強く凛々しい表情をしている。王族としての覚悟を宿したまっすぐな眼差しだった。

(王様って、こういう人のことなんだろうな……)

 晴は写真を眺めながら、自分とはかけ離れた存在だと感じた。

「人望も集めていたから、キレウィ様が次の王になると言われていたそうです」
「……ならなかったの?」

 晴がそっと聞くと、セオシュが神妙な顔で答えた。

「父上であるヴィーゼル6世様が亡くなるより前に、キレウィ様は病死してしまったのです」
「…………」

 晴はもう一度キレウィの顔を見つめた。数人の王族が並んでいるが、キレウィの写真だけ若すぎる。

「エミレラ姉さんの全力を尽くしても、回復しなかったんだってね……」
「残った2人の弟で、ボンド様が選ばれたんです」
「2人の弟?」
「はい。ヴィーゼル6世様の息子は3人います。キレウィ様、ボンド様、ムバン様ですね」
「へえ……」

 晴は話を聞きながら写真を眺めた。キレウィの左隣にヴィーゼル6世の写真がある。髭を蓄えた威厳のある人物だ。キレウィより威圧的な迫力を感じる。

 そして、キレウィの隣にボンドが並んでいた。晴の知っているボンドは常にマスクに眼鏡だったため、顔を見るのは新鮮な体験だ。

(こう見ると、私に似てるのかも……)

 目元が晴にそっくりである。

 写真はボンドが最後で、三人兄弟の末っ子のものはなかった。一緒に写真を眺めていたジルが微かに顔を顰めた。

「ムバン様の写真は無いんだ。いないようなものだったらしいからな」
「……どういうこと?」

 ムバンのことは、セオシュたちも人づてにしか聞いたことがない。そして、聞いた話は全て悪い話だった。

「彼は自由奔放な人物だったそうです。城の教育もまともに受けず、遊び歩いて犯罪も犯していたらしくて。それでお父上に見限られ、城を追放されたんだそうです」
「今はどこでなにしてるんだろうね?」
「さあ。誰も知らないからな」

 長男のキレウィ、次男のボンド、三男のムバン。3人ともヴィーゼル6世の息子であるが、コワの慣習に倣って第一子のキレウィが後継ぎとなるはずだった。本人の適性から考えても、キレウィが最有力候補だったのだ。

「娘の晴の前で言ったら悪いけどさ、ボンド様は……あんまり王には向いてなかったと思うんだ。性格的にね。こんなこと言ったらメイにぶっ飛ばされそうだけど」
「わからなくもない。穏やかで優しい人であったことは確かだが、優しすぎて王の威厳が欠けていたな」

 べらべらと喋る男子2人をセオシュが注意する。

「城の中でそんなこと言うもんじゃないですよ。誰が聞いているかわからないんですから」

 コワ人はそれぞれ強い信仰、思想を持っており、このような王族に対する侮辱ともとれる発言はトラブルの元になるのだ。

 少しだけだが、王族のことを知れた気がする。これが自分の家族の話なんだと思うと不思議な気持ちだが、どこか親しみを感じるような気もしていた。
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