JK戴冠

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第3章 王都にて

第20話 殻の中の踊り子

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 晴たちは話しながら歩き続け、やがて活動エリアの1番奥まった場所にやってきた。ここには、城に併設された『研究院』に繋がる連絡通路がある。

 研究院は見るからに新しく、城とは雰囲気が大きく違う。古く情緒ある城と、病院のように白一色の研究院とでは全く馴染んでいなかった。

(ここってもしかして、『実験』の……)

 晴は少し気まずい気持ちになりながらセオシュたちの顔色を伺った。セオシュはやや強張った表情をしていたが、カファーとジルは自然に見える。

「この先は研究院です。メイさんが管理していらっしゃいます。以前は実験を行う場所でしたが、13年前に廃止されて施設も一新されたんです。今はロボットの研究に使われています」
「人を弄って強くするよりも、初めから強いロボットを作ったほうが確実だしリスクも低いからな。当然のことだ」

 ジルが深く頷く。

「ここの地下には昔……子供を入れる施設があって、私たちはそこで育ったんです。5歳になったら全員実験を受けて、その結果で人生が決まっていました」

 成功なら城で戦士として育てられ、失敗なら城を追い出されて『小さな町』に送られる。コワの子供たちは、戦えるかどうかを基準に無慈悲に選別されていた。

「ズウソニウムっていう、コワで開発された物質があってね。それを細胞に入れるんだって。すごいよな。ズウソニウムはフリーの動力源にもなってるんだよ!」

 残酷な内容にも関わらず、カファーは軽い口調で語ってみせる。晴はどんな顔をすればいいのかわからなくなった。

「どんな理由があっても、人に手を加えるなんておかしいよ……」

 実験の当事者である3人、特に後遺症の残ったセオシュは研究院を恨んでいるだろう。晴はそう思ったが、カファーは変わらず平然としていた。

「そう? おれはずっとコワで生きてきたから、おかしいとは思わないかな~。敵に勝たないと国を奪われちゃうし、仕方ないんじゃない?」
「そ……そう、かな」

 晴は衝撃を受けた。戦うために育てられて、海の向こうのことを一切知らず、自由のない生活。コワの子供たちにとってはそれが普通なのだ。

 カファーの意見も肯定しつつ、ジルが真顔で言った。

「ただ、後遺症が残るだけでは済まない被験者ももちろんいた。今までに多くの人が亡くなっているんだ。それで一時期は人口が激減し、実験体が減ってしまった。それで当時の王は一時的に開国をしたんだ」

 晴はその気色悪さにもやもやした。

「もっと実験したいがために開国して、人を集めたってこと? それって、ただただ移民の人たちが可哀想じゃない……?」
「ああ。当時の王のやり方は見事に裏目に出たと言えるな。戦争に勝って戦いを終わらせるために移民を仲間にしたのに、国民が二つに割れてしまったんだから」

 王の行動が、親王派と革民党の対立を招いたのである。

 ジルは良くも悪くも率直にものを言う。これは彼の性格によるもので悪意があるわけではない。
 セオシュもそれをよくわかっているので、注意するのを諦めた。王に対する批判は良くないが、今の発言を否定する気もなかったからだ。

 研究院の入口には改札のような装置があり、専用のカードキーをタッチしないと開かない仕組みだ。研究院は危険かつ極秘施設のため、限られた職員しか出入りできなくなっているのである。晴たちに出入りの権限はないので、そこで折り返して次の場所へ向かった。




 次にやってきたのは、訓練場がある『兵舎』だ。研究院と同じく活動エリア内に存在している。

 スポーツセンターのような造りで、用途ごとに様々な部屋が用意されていた。木刀がぶつかり合うような音や大きな掛け声が響いている。

「ここは訓練に使う場所だよ! 鎧とその弟子、あと衛兵たちが使ってる。おれたちは普段、ここの食堂で食事をとってるんだ~。……まぁ晴の部屋に運ばれてくるごはんの方が豪華だから、一緒に食べられる方が嬉しいんだけどね」

 カファーが正直な感想をこっそり教えてくれた。

 その食堂は、道場などが並ぶ廊下を抜けた先に用意されている。晴たちはそこも軽く見学したあと、兵舎を後にした。




 続いて向かったのは、活動エリアの最上階にある『図書館』だ。とてつもなく広い空間に膨大な蔵書が管理されている。晴は端から端まで続く本棚と、ぎっしり詰まった本の数に圧倒されて言葉を失った。

「すごいでしょ~。半端ない数だよね」
「開国時に流入した他国の文献もあるぞ。俺はよくここに来ているから、何か困ったら聞いてくれ」
「ありがとう」

 図書館の中は静かなので、晴たちは小声で会話した。

 翻訳機で耳からの情報はわかるが、コワの文字は読めない。晴にはどんな本があるのかよくわからなかったが、それでもありとあらゆる本が揃っているのだろうとわかる保有数だった。

「見てください、晴の部屋が見えますよ~」

 窓の外を見ていたセオシュがこそっと呼びかけた。この図書館は高い位置にあるため、それより少し低い大広間の天窓を挟んで反対側の生活エリアが一望できる。図書館とほぼ同じ高さに晴の部屋の出窓が見えていた。


「じゃ、お腹も空いてきたしそろそろ部屋に戻ろっか。入れるところは大体見たよね?」

 図書館を出て、お腹をさすりながらカファーが言う。

「そうだな。他にも色々探検してみるのも面白いだろうが……晴は1人で部屋から出るのを禁じられているんだったな」
「そうなんだよね」

 城の中とはいえ、1人になるのは危険だ。しょんぼりする晴にカファーがにっこりと笑った。

「おれらならいつでも付き合うよ!」
「……えっ」

 晴は驚いて顔を上げた。ジルとセオシュもうんうんと頷いている。

「……あ、ありがとう、みんな」

 引っ込み思案で新しい環境が苦手な晴がここまで馴染めているのは、間違いなく3人のおかげである。晴は心から感謝を伝えた。

 そしてこの出会いは晴だけでなく、弟子たちにとっても大きなものになっていた。それをまず実感しているのがセオシュだ。

(午後は私だけ別行動だ……。もっと一緒にいたかったな)

 普段もカファー、ジル、セオシュの3人で行動することは珍しくないが、ここまで一日中一緒にいるのは久しぶりのことだ。

 セオシュは晴も交えたこの時間をとても楽しんでいた。そう言うと男どもに揶揄われるので、絶対に口には出さないが。
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