JK戴冠

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第3章 王都にて

第21話 生涯のライバル

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 昼食を食べてひと休みしたあと、晴はカファーと一緒に兵舎の中にある稽古場へ移動した。

(稽古ってどんな感じなんだろう……!)

 自分と近い歳のカファーやジルが、前線に立って戦う訓練をしているのだ。晴には全く想像がつかなかった。セオシュのように銃を使うのだろうか。

「ここだよ~」

 カファーに促され、晴はそっと中へ入った。

 大きめの武道場のような場所だった。すでに数十人がそれぞれ体を動かしており、ペアを組んで組手をしたり、木刀を打ち合ったりしている。掛け声やぶつかり合う音が激しく響いていた。

 立って稽古を見守っていたリグロが晴に気付き、振り返って声をかけた。

「おう、来たか。暑苦しい場所だがまぁ、ゆっくりしていけよ」

 晴はリグロに挨拶をして、用意された壁際の椅子に座った。床の揺れが椅子を伝って響いてくる。

(すごい……!)

「10分後には試合を始めっから、各自、体を温めとけよ!」
「はい!!!」

 リグロの指示に、全員が大声で返事をした。声も表情も力強く、やる気がみなぎっている。彼らの服装は空手や柔道の道着とよく似ているが、丈は短く幅も狭めで、より動きやすそうに見えた。

 リグロが水筒を取ろうと振り返ったので、晴は様子を伺いながら尋ねた。

「この人たちは、みんな先生の弟子なんですか?」
「先生て……」

 リグロが複雑そうな表情で返事をする。いきなり先生呼びは馴れ馴れしかったかと晴は焦ったが、リグロは深く息を吐いただけでとくに咎めなかった。

「いや、俺の弟子はカファーとジルだけだ。セオシュも同じようなもんだがな」

 リグロは準備運動をするカファーとジルを眺めながら続けた。

「師匠と弟子ってのは、お互いが心から大切な存在になる。実の親子よりもな。特にあいつらは生後すぐ親から離れているから、親と呼べる大人はいない。だから俺が常に寄り添い、あいつらにとって頼れる大人でいないといけねぇんだ」

 晴はじっとリグロを見ていた。大きな背中だ。自信と覚悟に満ちたその姿は逞しく、カファーたちに慕われるのがよくわかる。

「ここにいるのは殆どが城の一般兵で、たまにこうして俺が稽古をつけてるんだよ。兵隊の中にも指導できる奴はいるが、いろんな奴の元で稽古した方が成長するしな。俺よりイトカの方が戦いにおいては上だが、奴は忙しいし」

 リグロの体にも筋肉がしっかりついており、細身のイトカよりもどっしりとした体つきである。しかしイトカの方が強いらしい。晴は意外に感じた。戦闘力は見た目で測れるものではないようだ。

「剣で戦うんですか?」

 見たところ、素手で戦っている人と木刀のようなもので戦っている人がいる。晴はコワの様子からして、もっと先進的な武器が使われているのかと予想していたので気になった。

「ああ。強え武器はいくらでもあるが、国内での争いでは近接武器だけを使う決まりなんだ。ボンドがそう命じたんだよ。あいつは……戦争ばっかやってきたこの国で平和を実現しようと、本気で思ってたんだろうな」

 リグロのその口ぶりに馬鹿にするような響きはなく、純粋に古くからの友人を懐かしんでいるようだった。

「だから一応、銃が使えるのは銃隊の隊員だけってことになってる」

 一応、と言ったのは、革民党のことを考えてだろう。晴は制空機に銃弾の雨を浴びせられたことを思い出した。彼らは王の命令に従う気など毛頭ないのだ。


 リグロはそこで話をやめ、時計をチラリと見て号令をかけた。

「おーし、試合始めるぞ!」
「はい!!!」

 兵士たちはぴたりと練習をやめると、素早く移動して試合のスペースを空けた。そこへ最初に戦う兵士2人が進み出る。

 リグロが慎重に道場を見回し安全を確認すると、「よし、構えろ」と指示した。兵士2人がお互いの木刀を相手に向けて構える。晴もドキドキしながら彼らに注目した。

 道場がシンと静まり返る。

 2人をじっと見ていたリグロが、「始め!」と大声で号令をかけた。

 途端に2人は動き出し、相手の動きを見ながら攻撃を仕掛けた。剣を振り、時に剣で攻撃を防ぎ、地を転がり隙を突く。剣だけではなく体も柔軟に使っていた。相手の腕を掴み、距離を詰め、剣の柄で押さえ、足元に滑り込む。

 目が離せない。晴は夢中で動きを追った。

 決着は1分ほどでついた。片方の選手が相手の喉元に剣の切先を突きつけ、身動きを許さない状態に追い込んだのだ。

「やめ!」

 試合終了。パチパチと上がる拍手に合わせて、晴も手を叩いて選手たちを称えた。

 リグロが2人の元に近寄って、事細かにアドバイスをする。その間に、次に対戦するカファーとジルが場に進んだ。

(えっ、あの2人が戦うの!?)

 晴はきゅっと拳を握って2人を見守った。


 1分ほど経ち、いよいよ次の戦いが始まる時間になった。

「構えろ」

 すると、2人の表情がガラッと変わった。

(あれ、武器が……)

 晴は2人の持つ木刀が、他の兵士のものよりかなり長いことに気づいた。刺股くらいの長さはありそうだ。持ち方も変わっており、握った両手の間隔がかなり空いている。

 晴にそれ以上考える隙は与えられなかった。

「始め!」

 途端にカファーが勢いよく前に出て、ジルの腹部を狙った。ジルは落ち着いてカファーの動きを目で追い、自分の攻撃が届く範囲にカファーが迫ったタイミングで横に大きく刀を振るう。それは確実にカファーの体を斬れる軌道だったが、カファーはふわりと跳んで華麗に避けた。

(うわぁ)

 晴はその美しさに目を奪われた。カファーの動きは羽が生えたように軽い。ジルのリーチが長くて重い一撃をギリギリで全てかわしている。

 2人は同じ武器を使っているはずなのに、ジルだけ重いものを使っているのかと思えるほどにどっしりとした攻撃だった。一度でもまともに喰らったら立ち上がれなくなりそうだ。対してカファーは手数が多く、隙あらば難しい体勢からも器用に攻撃を仕掛けている。それほど重さはないので、ジルは避けるというよりうまく受け流して対応していた。

 勝負は互角だった。前の試合とは明らかにレベルが違う。カファーの動きで戦いの空間は上へ広がっており、ジルの攻撃で床がビリビリと震えていた。晴の座っている椅子にまで衝撃が伝わってくる。

(どっちが勝つんだろう……)

 両者一歩も引かぬ大迫力の試合だ。

 しかし、決着の時は来た。カファーがふわりとジルを飛び越そうとしたとき少し高さが足りず、足先がジルの届く範囲にあったのだ。

(うわ、やばっ)

 ジルはそれを見逃さなかった。

 咄嗟にカファーが空中で避けようとしたが、すかさずジルが刀で妨害する。そこでできた隙をついてカファーの足首を掴み、勢いよく床に叩きつけた。

「やめ!」
「……ったー、こんの馬鹿力!!」

 リグロの号令のあと晴が心配する間もなく、カファーは元気よくひょいと立ち上がった。

「俺の勝ちだな」
「くっそ~、もう一回!!」
「お前はジルが相手だと興奮しすぎなんだよ、感情で動きすぎだ。何考えてんだか手に取るようにわかる動きだったぞ。決着を急いで跳ぶ高さを見誤ったろ。気を抜いたのがお前の敗因だ」

 リグロの的確な指摘に、ぐうの音も出ないカファーは口を尖らせて黙り込んだ。

「そんでジル、お前はカファーを舐めすぎだ。攻撃全部避けきれてなかったぞ。防具がなかったら無数の切り傷を負ってた。この意味、わかるだろ?」

 ジルは少し不服そうだったが、こちらも言い返せる言葉もないので小さく頷いた。

「少しはカファーに教わって避ける練習をしろ。いくら攻撃が良くても、先に倒れたら意味無いんだからな」
「……はい」

 横で聞いていたカファーがニヤニヤと笑うので、ジルはむっとして肘で小突いた。

「ふふふ、仕方ないなあ、ジルになら特別に教えてあげてもいいよ?」
「……もう一回床に叩きつけられたいのか?」
「きゃ~っ、こわいこわい!」

 ふざけて走り回るカファーがリグロの拳骨を喰らうまでが、いつもの流れである。




 その後も組み合わせを変えながら1時間ほど試合が続き、稽古は終了となった。

 兵士たちもそれぞれ強かったが、やはりカファーとジルの動きは飛び抜けていた。これが被験者の実力なのだ。被験者はそれぞれの突出した能力に関わらず、一般人と比較すると総じて身体能力が高くなる。セオシュなど後遺症が残った者も同様だが、体が小さいためにそれを活かしきれない場合が多かった。

 稽古場を出た晴は、カファーとジルと一緒に部屋に向かった。すると、大広間のあたりで偶然銃隊と出くわした。

「あ、そっちも稽古終わったんですね」
「おおっ、セオ!」

 並んで歩いていたセオシュが駆け寄ってくる。

「かっこいいところは見せられたんですか?」
「もちろん! ほぼ全部勝った!」
「俺は全勝だ」
「……ジルには負けたんですね」
「たまたまだってば~!」

 4人で笑い合いながら、賑やかに部屋へ帰った。


 その後、昨日と同じように夕食を共にし、順番に入浴して寝床についた。
 今日も朝から何かと忙しい一日だったので疲れている。晴は横になってすぐに眠りに引き込まれていった。
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