JK戴冠

ちゃんの

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第3章 王都にて

第22話 深夜の災厄

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 時刻は深夜。

 夜の闇に紛れ、黒い戦闘機が静かに城へ近づいていた。乗っているのは黒髪ショートカットのトキと、スキンヘッドのマオである。

「さぁ……城が見えてきた。いよいよだ」

 仇の晴にまた会えると思うと楽しみでたまらず、トキは目をギラギラさせている。
 対してマオは、ロユンに命じられたわけでもないのに城まで来てしまったと頭を抱えていた。トキに「ヴィーゼルを殺しに行くからお前も来い」と言われ、渋々着いてきたのだ。マオはトキに言われると断れない節があった。

 トキが暴れすぎないように見張るため……あるいは、王族の部屋の警備を知るため……など、あれこれ言い訳を考えながら運転をする。そんなマオの横で痺れを切らしたトキが「遅いっ!」と声をあげて、隙間から足を差し込んでアクセルを踏みしめた。

 ブォォォォンというエンジン音を立てて戦闘機が加速する。その音に青い顔をしたマオが慌ててスピードを緩め、騒音を鎮めた。

 なんとか城の目の前に辿り着いた。誰にも見つかっていないようだ。城の屋根に降り立ち、マオはほっと胸を撫で下ろした。

 晴の居場所は、事前に城をスキャンして特定済みだ。ロユンが晴に渡したパーカーに発信機が仕込んであり、それに反応する仕組みである。その機械はロユンが開発中の試作品で、トキが勝手に持ち出して使ったので後ほどこっぴどく叱られるだろう。マオは想像して深いため息をついた。

「壁を破壊するのもいいけど、今日は喧嘩しに来たんじゃないしね。サクッと終わらせよう」

 トキが舌なめずりをしながら晴の部屋の窓ガラスに手を伸ばした。道具を使い、小さな円形にくり抜いていく。そこから手を差し込んで出窓の鍵を開け、2人は部屋の中に音もなく侵入した。

 カーテンで仕切られた隣の空間に晴のベッドがある。抜き足差し足で動きがとても遅いマオを待たずして、トキは静かにスタスタと近づいていった。すると、

「動くな」

 2人の首裏に冷たい感触が走った。トキは槍を、マオは斧を突きつけられたのだ。

「おまえら誰?」
「ここに何の用だ」

 月明かりに照らされて浮かび上がったのは、槍を構えるカファーと、斧を構えるジルであった。




 数分前。晴とセオシュが寝る部屋の隣で、カファーとジルもぐっすりと眠っていた。

 不意に、優秀な耳がごく小さな戦闘機のローター音を捉え、カファーはハッと起き上がった。すぐに親王派のものではないと確信し、隣で寝ていたジルを起こす。

「ジル、起きて。なにか向かってきてる。たぶん狙いは晴だ、迎え討とう」
「ティナを呼ぶか?」

 寝起きにも関わらず、2人とも状況を飲み込むのが早い。カファーは手に馴染んだ軽い槍を手にしながら言った。

「戦いになったら気づいてくれる……と信じよう。それより、相手に見つからないうちに近づきたい」
「わかった」

 ジルは肢の長い斧を持った。

 そして2人は、晴の部屋で身を隠しながらトキとマオを待ち構えたのである。普段ならトキが人の気配を見過ごすはずがないのだが、晴を前にして余りにも気が昂っていたために気付けなかったのだ。




「あーあ、見つかっちゃったねぇ」

 言葉の割に全く残念がってはいないようだ。トキは突きつけられた鋭い槍を恐れもせず、手で避けながら振り返った。カファーはその力に驚いたが、顔には出すまいと必死に取り繕った。

(おれがビビってちゃダメだ。ジルと一緒にこいつらをどうにか倒さないと……。いや倒せなくてもせめて、時間を稼がないと)

 弟子たちはトキとマオとは初対面であるが、既に只者ではない空気を肌で感じていた。特にマオは見るからに強者だ。ジルは威勢よく斧を突きつけながらも、手の震えを抑えるので精一杯だった。

「相手になってやるよ。構えな」

 カファーに向き直って挑発しながら、トキはマオを狙い続けるジルのことも目の端で捉えていた。

「そこのお前もだ、私が両方相手してやる。さあ」

 その気迫に圧倒され、ジルも動けなくなった。トキの鋭い眼が空間を支配しているようで、少しでも動こうものなら襲いかかってきそうだ。
 2人は恐怖を抑えながらトキに向かって武器を構え、息を合わせて同時に攻撃を仕掛けた。

 しかし、トキはそれを楽々と避けた。

 それはカファーのように軽い動きだが、段違いに速かった。避ける動きが見えないのだ。焦ってできた隙にトキが打撃を入れ、2人の顔が痛みで歪む。

「遅い」

 武器はトキに掠りもしない。つまらなそうに呟いたトキは懐から短刀を取り出し、正確な手つきでカファーの槍を弾き飛ばした。

「なっ……!」

 衝撃でカファーがよろめく。

 同時に勢いよく振り下ろされたジルの斧を避けると、トキはその上にひょいと飛び乗り、力強く蹴って床にめり込ませた。反動で高く跳び上がり、体勢を崩している2人の背後に回る。

(うわ、まずい)

 そしてそれ以上2人に動く隙を与えないまま、首裏に手刀を打ち込んで気絶させた。

 ドサリと床に倒れ込むところを見届けて、トキは「はぁ」とため息をついた。

「あっけないね」

 そして軽く手をはたき、先に晴の寝室に移動したマオの元に向かった。

(マオは人殺しなんかできないから、今頃ヴィーゼルとお喋りでもしてるかな)

 晴を自分の手で殺すことが楽しみだ。トキはニヤリと笑って短刀を握る手に力を込めた。




 トキがカファーとジルを引き受けてくれたので、その間にマオは静かに寝室に進み、部屋のカメラ等の状況を確かめていた。なにか情報を得られればロユンの役に立つかもしれない。

 しかし、その動きはセオシュに気付かれていた。

 セオシュはもともと眠りが浅いため、カファーたちの声で目が覚めていたのだ。そして迫ってくるマオの気配を感じ、ベッドに隠れたまま息を殺していた。

 いつでも使える位置に置いておいた銃を手に取り、安全ピンを抜く。

「動かないでください」

 マオがベッドを覆うカーテンに手をかけた瞬間、飛び出して銃を向ける。

 マオは危害を加えようと近づいているわけではないことをなんとか伝えようとしたが、苦悶の表情で身振り手振りをするマオはセオシュにとって恐怖なだけだった。

「来ないで!! 出て行ってください!」

 マオは困ったように眉を下げた。

 それはセオシュに撃たれるのを恐れたからでも、自分の意思が全く伝わらず困ったからでもない。恐怖によりセオシュの体がずっと震えており、銃の狙いが全く定まっていないことを心配したからである。
 下手に撃つと晴も危険だ。どうしたものかと考え込むマオの後ろから冷たい声が響いた。

「『そんなに震える手じゃ、銃は持たないほうがいい』ってさ」

 カファーとジルを片付けたトキだった。

「怖くてたまらないんだね、可哀想に。でもマオはあんたを殺せないから、私が殺してあげる」

 そう言ってギンギンに磨がれた新しい短刀を取り出し、硬直しているセオシュに向けて大きく振りかぶった。斬る瞬間を見たくないマオが目を背ける。

「おい」

 そのとき、トキの後ろから低い声が響いた。
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