JK戴冠

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第3章 王都にて

第23話 命を懸ける夜明け前

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(ティナ……!!)

 安心したセオシュすら顔をこわばらせるほど、ティナの表情には強い怒りが滲んでいた。こんなティナを見るのはセオシュも初めてだった。マオはセオシュから目を離せないので振り返らずにいたが、背中にビリビリとした強い殺気を感じていた。

「そこでカファーとジルが倒れてたが、やったのはお前か?」

 月明かりだけで照らされた部屋の中、ティナがその鋭い瞳でトキを見据える。

 トキはティナとの再会を喜びつつ、その気迫に圧倒され微かに後退りしてしまった。本能的に体が逃げようとしているのだ。しかし戦わずにはいられない。崖っぷちに立たされてもなお、トキの心は高鳴っていた。

「ああ。次はあんたが相手してくれるのか?」
「…………」

 ティナはトキの返事を聞いても何も言わず、ただ静かに見つめ返した。
 ティナと戦うなんて必要のないことだ。でもこうなったトキは止められない。マオは天を仰ぎたい気分だった。

(この女、やっぱりすごい筋肉だ。この間私がつけた傷もないみたいだな)

 見るからに強いティナを相手にできる喜びに打ち震えながら、トキが先に飛び出していってティナの首を狙った。

(私の方が速い!!)

 トキはスピードを活かしてティナの重い攻撃を避けつつ、回り込んで攻撃をした。しかしティナはあえてそれを防がず、そのまま次の攻撃を仕掛けた。

「痛っ!」

 トキは避けきれず喰らってしまい、血を吐きながらも歯を食いしばって顔を上げた。殴られた腹部に手をやるトキを、ティナが冷ややかな目で見下ろしている。

(私は復讐を果たすために、そのためだけに生きてきたんだ……)

 長い年月をかけた血の滲むような努力さえ、ティナの強さの前では霞んでしまう。

(ここで殺すんだ、あいつを!!)

「くそっ!」

 不意をついた攻撃も、ティナ相手では決定打にならない。浅い傷がつくばかりで怯ませることすらできない。

 ティナも最初は避けようとしていたのだが、トキのスピードが速すぎるので途中から諦め、元々の体の強さを頼りに受け流していた。

(また無茶して……!)

 マオに銃を向けたままだったセオシュが、傷だらけになって戦うティナに一瞬気を取られた。視界にセオシュしかいないマオはその隙を見逃さなかった。

「!!!」

 マオが素早くセオシュの手首を掴む。銃が音を立てて床に落ちた。

 セオシュの細い両腕は、マオの大きな手ひとつで十分に掴むことができた。マオはできるだけ手に力を込めずにいたが、パニックになったセオシュが暴れるので次第に力が入った。マオはただ、ベッドの中を一度覗いておきたかったのだ。

 しかし、王の右腕がそれを許さない。

「おい」

 動きを止め、マオが冷や汗をかいてゆっくりと振り返る。そこにはどうにか立ち上がろうとするボロボロのトキと、頭から血を流しながらマオを見下ろすティナがいた。

「手、放せよ」

 マオはすぐにセオシュの腕を放した。同時にトキの酷い状態をチラリと見て、もう勝ち目がないことを悟った。トキとティナがかなり暴れたので、他の鎧も異常事態に気付いたはずだ。そう思ったマオは、尚もティナに向かって行こうとするトキを引きずって帰ろうとした。

「まだ……」

 苦しそうに絞り出すトキをなんとか抱えて立ち上がる。するとマオにティナの拳が飛んできた。

「………!」

 ティナには手加減などないので、かなり強いパンチだった。トキと戦って消耗しているとはいえ、その威力は計り知れない。しかしマオは咄嗟に出した片腕で、それをかろうじて受け止めてみせた。

「!?」

 そして、流石に驚きを隠せないティナに間髪入れず蹴りを繰り出す。マオの足は長く、ティナは避けるために大きく飛び退かなければならなかった。受け流しきれない威力の蹴りだったのだ。

 ティナとの距離をとった隙に、マオはトキを小脇に抱えたまま窓から飛び降り、戦闘機で逃げていってしまった。




 ティナは戦闘機が去っていくのを長いこと眺めていた。

 セオシュは腕についた大きな手跡を複雑な気持ちで見つめたあと、ティナを見上げてぽつりと言った。

「……怪我、大丈夫ですか」

 ティナが大きく息を吐き、目元まで垂れてきた血を雑に拭う。

「ああ。セオシュは」
「私は大丈夫です。それよりあの2人を」

 倒れたままぴくりともしないカファーとジルが心配でたまらない。しかしセオシュは駆け寄ることもできなかった。床にへたり込んだまま腰が抜けてしまったのだ。

「私が医務室に運ぶ。セオシュはここで晴を守っててくれ。敵が戻ってくることはないと思うが、一応な」
「はい!」

 ティナは疲れた様子すら見せずに、すぐ2人を抱えて素早く出ていった。

 その様子をぼうっと見送ったあと、セオシュは座ったままベッドのカーテンをそっと捲った。顔までは見えないが、丸く盛り上がった毛布が微かに上下している。

(よかった、起きなかったみたい)

 晴の知らないうちに事が片付いてほっとする反面、強い無力感に襲われた。相手に気圧され、1発も撃てなかった自分が情けなくなる。

(私は、なんのために銃を……!)

 これがセオシュに与えられた唯一の希望であり、城で生きるための唯一の手段なのだ。

 セオシュは床に転がった銃をじっと見つめたのち、少し泣いた。
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