JK戴冠

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第3章 王都にて

第24話 それぞれの傷痕

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 ティナが去ったあとの晴の部屋。

 晴は布団にくるまりながら、小さくしゃくりあげるセオシュの声を聞いていた。夜の静けさの中、泣き声以外は聞こえない。

 晴は、襲撃の間も起きていた。

 目覚めたのは、セオシュがマオに立ち向かっていたときだ。セオシュやトキの声で状況を察した。しかしどうしたらいいかわからず、そのままベッドにこもっていたのだ。

 トキとティナの戦いでは耳を塞ぎたくなるような痛々しい音がしていたが、黙って蹲ることしかできなかった。狙いは自分だとわかっていたし、自分にできることなどないと思ったからだ。

 しかし、そうして知らないふりを続けても、後に残るのは大きな罪悪感だけ。愛を失ってそれを痛感したばかりなのに、晴はまた同じことを繰り返してしまった。そんな自分が許せなくて、悔しくて、そのまま一睡もできずにいた。

 気付いたらセオシュの泣き声は止んでいた。セオシュはその後も敵襲に備えて寝ず、壁に寄りかかって床に座っていた。ぼうっと床を眺めていたので眠気が襲ってきたころ、部屋に朝日が差した。

 長い夜だった。

 同時に晴がベッドから起き上がったので、その動きに反応してセオシュもハッと覚醒する。

「あっ……晴。おはようございます」

 セオシュは疲れを隠そうと笑顔を見せたが、襲撃の爪痕は手首のあざと弱々しい表情に現れていた。

「すみません、部屋がめちゃくちゃで……。実は夜間に襲撃されたんです。ティナが来てくれたおかげで撃退できたんですが、それまで戦ったカファーとジルが怪我してしまって」

 知っている。晴は後ろめたさから暗い顔になったが、セオシュは怖がっているのだろうと勘違いした。

「大丈夫です。晴のことは私たちが絶対に守りますから。……よかったらこのあと、一緒にお見舞いに行きませんか?」

 晴はセオシュにも休んで欲しかったが、立ち上がって手を差し伸べる彼女を見て少し迷い、やがて静かに頷いた。止めることはできなかった。




 2人が医務室に入ると、ベッドに横になるジルと、上半身を起こしているカファーが見えた。両者とも首に包帯を巻いていて見るからに痛々しい姿だ。彼らはすぐ晴たちに気付いて声をあげた。

「ああ晴! 起きたんだね」
「大丈夫か? 酷い顔だが」

 晴は大丈夫と返し、2人の容体を心配した。

「私のことなんかを……こんな怪我してまで守ってくれて、ありがとう」

 申し訳なさそうに縮こまる晴を見て、カファーは眉を下げて少し笑った。

「なんか、なんて言わないでよ。晴はおれたちの希望なんだからさ。おれたちがやりたくてやってることだから」
「ああ。それにそんなにひどい怪我でもない。手首の捻挫と首裏の打撲だけだ。検査が終わったら動けるよ」

 ジルも体を起こし、ぶんぶんと勢いよく腕を回してみせた。

「ちょっと、そんなことしてたら悪化しますよ」

 2人が思っていたよりも元気そうだったので、ほっと安堵しながらセオシュも笑った。

「失礼するよー。みんな、大丈夫?」
「…………」

 ガラッと扉が開いて、朝から爽やかな笑顔のイトカと仏頂面のリグロが入ってきた。

「あっ、イトカ様」

 リグロがまっすぐカファーたちのベッドに向かう中、イトカはセオシュに近づいて小声で耳打ちした。

「セオシュ、寝てないでしょ。晴のことは俺に任せてさ、ゆっくり休んでおいで」
「でも……」
「健康第一だよ。体を大事にして。これは王兜の命令だから」
「……はい」

 至近距離で囁かれ、顔を真っ赤にしたセオシュはかろうじて返事をした。そしてそのままいそいそと退出していった。

「さて君たち。よく晴を守ってくれたね。ありがとう」

 イトカはカファーとジルに向き直り、真っ直ぐに礼を述べた。少し照れ臭くなったカファーが目を泳がせる。

「い、いや~。当たり前のことをしただけだし。ね、ジル?」
「ああ。カファーの耳が珍しく役に立ったな」
「普段から大活躍でしょうが!」

 いつもの調子でふざける2人を前にしても、リグロはむっつりと黙り込んでいた。

「こらリグロ、そんな怖い顔してたら子どもたちがビビっちゃうでしょ。心配して来たんだから、何か声かけてあげなよ」

 見かねたイトカが優しく促す。

 リグロはグッと強く拳を握り締めた。腕の血管が破裂しそうなほどに浮き立っており、カファーとジルは師匠の気迫に慄いた。

「…………俺の大事な子どもらに手を出すとは。この落とし前はつけてもらわないとな」
「まぁまぁ落ち着いて。それは敵に言うセリフでしょー、2人にかける言葉は?」

 イトカがおどけた調子で言ったが、リグロはそれに突っ込むこともできず、床に崩れ落ちてしまった。

「先生!?」

 カファーとジルが慌てて声をかける。リグロはただ、安心して全身の力が抜けてしまっただけだった。

「お前らが無事で、良かった」
「………!」

 弟子たちは師匠の素直な言葉に驚いて胸がいっぱいになった。リグロは、ここまで敵に傷つけられた2人の姿は初めてだったのだ。

 ベッドの上で抱き合う3人を見届けつつ、イトカはそっと晴を連れ出して隣の病室に入った。


「ティナ、入るよー」

 イトカが扉を開く。

 中では、頭や腹部、足などに包帯を巻いたティナが大人しくベッドで寝ている……ことはなく、その痛々しい姿のまま筋トレをしていた。

「ちょっ、なにしてるの!」

 流石に驚いたイトカが慌ててダンベルを取り上げる。ティナはきょとんとした顔だ。

「何って、筋トレだよ。今回は大事にならなかったから良かったけど、敵が2人がかりで襲って来てたら危なかっただろうからな。次会ったときのためにも、私ももっと強くならないと」
「ええ……? お、俺の弟子はストイックで素晴らしいね、はは……」

(俺とティナには感動の抱擁シーンとかないの!?)

 イトカは乾いた笑いを漏らしつつ、心の中で叫んだ。

 ダンベルが駄目なら腹筋でもするか……と、ティナはベッドの上で足を固定した。目の前の弟子があまりにも淡々と筋トレを再開するので、イトカもやれやれと頭を振りながら落ち着きを取り戻した。

「その……あれだ、君にしてはだいぶひどくやられたようだけど、やっぱり相手は強かったの?」

 ティナは腹筋をやめないまま答えた。

「ああ。イトカほどではないけどかなり強かったよ。革民党の男女2人組で、女の方はすごいスピードと身のこなしだった。ボコボコにしてやったが懲りてなかったな。……問題はもう1人の男の方だ」
「ほう?」
「あいつは戦いに入ってこなかった。だがあれは間違いなく強い。私のパンチを腕で受け止めてみせたんだ」
「わぉ!?」

 考えただけで腕がヒリヒリしてきて、イトカは青い顔をした。ティナのパンチは稽古で何度も受けてきたが、あれは防具越しでも極力喰らいたくない代物だ。それに素の腕を出す勇気があるその男を讃えたいくらいである。男の腕は無事だろうか。

「正直びっくりしたよ。いつか本気でやり合ってみたいな」
「いやいや、そんな戦いしたら部屋が耐えられないから……」

 怪我を負って戦いに懲りるどころか、相手に興味を持ってしまった弟子にイトカはため息をついた。ティナが他人に興味を持つのは珍しいので喜ばしいことだが、今は勘弁してほしい。

「まあいいや、とにかく今日は絶対安静だから。大人しくベッドで寝てなさい。筋トレしてないかどうか後で見にくるからねー!」
「チッ。わかった」

 割と本気の舌打ちをしながらも、ティナは頷いてようやく動きを止めた。




 そして、イトカが心配しているマオの腕だが。

「うっわ、何これ! マオの腕やば!」

 芯を失った腕が、関節もないはずのところで不自然に折れ曲がっている。そこをそっと持って、トキがぷらぷらと揺らしていた。

「『痛いからやめて』って? じゃ、もうあんな無謀な真似はしないことね。あの怪物パンチが腕で受け止められるわけないだろ? ちゃんと避けないと」

 マオの腕の骨は砕け散っていた。トキを守るためだったので後悔はしていないが、パンチ1発による負傷とは思えない激痛だ。マオは涙を滲ませながら痛みに耐えていた。
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