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第3章 王都にて
第26話 扉を開く鍵
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イトカに導かれるままに進んでいると、いつの間にか城の中でも人気の少ない場所に来ていた。先ほどから階段を降りて廊下を進んで、また降って……を繰り返している。
「どこに行くの?」
「ちょっと城の地下までね」
イトカはさりげなく晴を壁側に導いて、晴に向けられる視線を自分の身で遮りながら歩いた。さらにエレベーターの扉を押さえたり、螺旋階段の外側を歩いたり。そういった細かな気遣いが自然にこなしている。晴は素直に感心した。
(モテるんだろうなぁ……あ、でも60近いんだっけ)
「イトカって、何歳なんだっけ?」
「……知りたい?」
晴が頷くと、イトカは少し困ったように目を逸らしながら答えた。
「もう57になるよ。ボンドとリグロとは同い年。俺とリグロは、ボンドを守るために鎧になったんだ」
イトカは昔を懐かしむように語った。
「戦うためには強い体が必要でしょ、そしてそれは、年齢とともに衰えてしまう。俺はずっと戦い続けるために、身体能力が1番高いときの体をキープしているんだ」
「……どうやって?」
何か理由がないと不自然なほど若い見た目なので晴は納得した。
「実験のことは聞いた? それと似たようなものだよ。エミレラが不老の研究をしていてね。俺はその実験体なの。彼女も同じで、姿は若いけど実年齢は俺より上だよ」
会議にいなかった鎧の『左腕』エミレラである。まるで夢のように聞こえるこの研究だが、当人にとってはそれほど良いことばかりでもない。
「不老だけど不死じゃないから、寿命が来ると今までのツケが回ってきて、一気に体が衰えて死ぬらしいよ。それがいつ来るかわからないんだから、怖いよね」
イトカは少し目を細めた。
「……もう、不老の人間は作るべきじゃないよ。強化された人間もね」
しみじみと口にするイトカに、晴はずっと気になっていたことを聞いてみた。
「ティナも、強化された人間なんだよね?」
「………」
イトカは困ったように笑って晴を見た。明らかに答えを知っている反応だ。だが否定も肯定もしなかった。
「それは、俺の口からは言えないかな。ある人との約束でね……」
何か相当な事情があるらしい。これはもう認めたようなものだなと思いつつも晴は頷いて、詮索しないことにした。
そこで、ひときわ長い階段の終着点にたどり着いた。
「ほら見て、ここが地下の入り口」
行き止まりになっていて、目の前に石の壁がある。物々しい巨大な壁画が描かれていた。見るからに古く、所々が少しはげている。その中心に大きな鍵穴があった。
「イトカがここの鍵を持ってるの?」
「まあね。王がいない分、こういうのが全部王兜の俺に押し付けられてて。王の財産を横取りしたとか言われることもあるんだよね。そんなに羨まれる立場じゃないけどな……」
不本意な悪評にはうんざりだが、役割を放棄するわけにもいかない。
「でも実は、鍵がなくても王族なら開けられるんだよ。ちょっと手を貸して」
イトカはそう言って、自分の手を差し出した。
晴が手を取るのを待っている。晴はおずおずと手を重ねた。イトカは鍵穴の上にある丸い模様の上に晴の手を置いた。
「しばらくそのままで、ね」
晴は緊張しながら、言われた通りひんやりとした壁に手を重ねたままでいた。
すると模様の上がパカリと開き、小さなモニターが現れた。何やら文章が流れているが、晴には読めないのでイトカが音読する。
「『認証成功。罠が作動しますので線より後ろに下がってお待ちください』だって。ほらほら下がってー」
イトカに袖を引かれて、三歩ほど後ろにある線まで下がる。
ギリギリだった。晴が線を踏み越えた途端、頭上から無数の鋭い矢が降ってきたのだ。
「うわ!?」
硬い石の床に矢が突き刺さっている。
「部外者が無理やり壁を壊そうとした場合は、この注意書きモニターが出ないからね。そういうやつを仕留めるための罠があるんだ」
「な、なるほど……」
随分と物騒な装置だ。晴はバクバク高鳴って鳴り止まない心臓を抑えつつ、引っこ抜かれて上に戻っていく矢を眺めていた。細い糸がそれぞれの矢を吊っているのだ。矢が上がった先は暗闇が広がっている。
「ふふ、これでハーフの晴でも、王族専用の仕掛けを突破できることがわかったね」
「え……?」
(わかってなかったのにやらせたの!?)
こじ開けた相手に対する罠があるくらいだ。認証に失敗したときの罠も用意されているだろう。晴は無事に突破できたことに心底安堵すると同時にイトカを軽く睨んだ。
「鍵で開けてくれれば良かったじゃん」
「それじゃつまんないでしょ」
無駄に危険を味わせられてドキドキした気持ちを返してほしい。
むくれている晴の足元で、今度は床がミシミシと音を立てながら動き始めた。壁から線までの床の一部が左右にずれて動いていく。そして、床があったところに1m四方ほどの穴が現れた。
さらに下へ続く階段である。
(まだ下るの……?)
ここまで来るのにもすでにあらゆる階段などを下ってきた。晴はうんざりしながらも、懐中電灯を取り出したイトカに続いて暗い通路を進んだ。
「どこに行くの?」
「ちょっと城の地下までね」
イトカはさりげなく晴を壁側に導いて、晴に向けられる視線を自分の身で遮りながら歩いた。さらにエレベーターの扉を押さえたり、螺旋階段の外側を歩いたり。そういった細かな気遣いが自然にこなしている。晴は素直に感心した。
(モテるんだろうなぁ……あ、でも60近いんだっけ)
「イトカって、何歳なんだっけ?」
「……知りたい?」
晴が頷くと、イトカは少し困ったように目を逸らしながら答えた。
「もう57になるよ。ボンドとリグロとは同い年。俺とリグロは、ボンドを守るために鎧になったんだ」
イトカは昔を懐かしむように語った。
「戦うためには強い体が必要でしょ、そしてそれは、年齢とともに衰えてしまう。俺はずっと戦い続けるために、身体能力が1番高いときの体をキープしているんだ」
「……どうやって?」
何か理由がないと不自然なほど若い見た目なので晴は納得した。
「実験のことは聞いた? それと似たようなものだよ。エミレラが不老の研究をしていてね。俺はその実験体なの。彼女も同じで、姿は若いけど実年齢は俺より上だよ」
会議にいなかった鎧の『左腕』エミレラである。まるで夢のように聞こえるこの研究だが、当人にとってはそれほど良いことばかりでもない。
「不老だけど不死じゃないから、寿命が来ると今までのツケが回ってきて、一気に体が衰えて死ぬらしいよ。それがいつ来るかわからないんだから、怖いよね」
イトカは少し目を細めた。
「……もう、不老の人間は作るべきじゃないよ。強化された人間もね」
しみじみと口にするイトカに、晴はずっと気になっていたことを聞いてみた。
「ティナも、強化された人間なんだよね?」
「………」
イトカは困ったように笑って晴を見た。明らかに答えを知っている反応だ。だが否定も肯定もしなかった。
「それは、俺の口からは言えないかな。ある人との約束でね……」
何か相当な事情があるらしい。これはもう認めたようなものだなと思いつつも晴は頷いて、詮索しないことにした。
そこで、ひときわ長い階段の終着点にたどり着いた。
「ほら見て、ここが地下の入り口」
行き止まりになっていて、目の前に石の壁がある。物々しい巨大な壁画が描かれていた。見るからに古く、所々が少しはげている。その中心に大きな鍵穴があった。
「イトカがここの鍵を持ってるの?」
「まあね。王がいない分、こういうのが全部王兜の俺に押し付けられてて。王の財産を横取りしたとか言われることもあるんだよね。そんなに羨まれる立場じゃないけどな……」
不本意な悪評にはうんざりだが、役割を放棄するわけにもいかない。
「でも実は、鍵がなくても王族なら開けられるんだよ。ちょっと手を貸して」
イトカはそう言って、自分の手を差し出した。
晴が手を取るのを待っている。晴はおずおずと手を重ねた。イトカは鍵穴の上にある丸い模様の上に晴の手を置いた。
「しばらくそのままで、ね」
晴は緊張しながら、言われた通りひんやりとした壁に手を重ねたままでいた。
すると模様の上がパカリと開き、小さなモニターが現れた。何やら文章が流れているが、晴には読めないのでイトカが音読する。
「『認証成功。罠が作動しますので線より後ろに下がってお待ちください』だって。ほらほら下がってー」
イトカに袖を引かれて、三歩ほど後ろにある線まで下がる。
ギリギリだった。晴が線を踏み越えた途端、頭上から無数の鋭い矢が降ってきたのだ。
「うわ!?」
硬い石の床に矢が突き刺さっている。
「部外者が無理やり壁を壊そうとした場合は、この注意書きモニターが出ないからね。そういうやつを仕留めるための罠があるんだ」
「な、なるほど……」
随分と物騒な装置だ。晴はバクバク高鳴って鳴り止まない心臓を抑えつつ、引っこ抜かれて上に戻っていく矢を眺めていた。細い糸がそれぞれの矢を吊っているのだ。矢が上がった先は暗闇が広がっている。
「ふふ、これでハーフの晴でも、王族専用の仕掛けを突破できることがわかったね」
「え……?」
(わかってなかったのにやらせたの!?)
こじ開けた相手に対する罠があるくらいだ。認証に失敗したときの罠も用意されているだろう。晴は無事に突破できたことに心底安堵すると同時にイトカを軽く睨んだ。
「鍵で開けてくれれば良かったじゃん」
「それじゃつまんないでしょ」
無駄に危険を味わせられてドキドキした気持ちを返してほしい。
むくれている晴の足元で、今度は床がミシミシと音を立てながら動き始めた。壁から線までの床の一部が左右にずれて動いていく。そして、床があったところに1m四方ほどの穴が現れた。
さらに下へ続く階段である。
(まだ下るの……?)
ここまで来るのにもすでにあらゆる階段などを下ってきた。晴はうんざりしながらも、懐中電灯を取り出したイトカに続いて暗い通路を進んだ。
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