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第4章 王さま修行 / 教会編
第31話 期待と願い
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晴たちが城の前まで戻ってきたときには、すっかり日が傾いて空が夕日に染まっていた。晴はジルの大きな背中に寄りかかりながら景色に見惚れた。
その頃、城に繋がる橋の上で騒ぎが起きていた。怒鳴り声のようなものが聞こえてきている。晴は顔を上げて橋の方を見つめた。
2人の教徒が城に押し入ろうと暴れていた。兵士が数人がかりで食い止めている。
晴の存在を知らない民たちは、ボンドの死で王族が途絶えたと思っている。教徒の中には、主のいない城を鎧やボンドの従者のみで使っていることを不満に思う者も多くいるのだ。
「早く城を開けわたせ!!」
「教会に使わせろ!!」
怒号が聞こえたカファーは眉を顰めた。
「う~わ、ありゃまずいね。通れないじゃん……どうする?」
横で眼鏡をずらして目を凝らしていたジルがニヤリと笑う。
「大丈夫だ、先生が来た」
「おっ、ほんとだ!」
城の中からリグロが出てきた。
晴とカファーは歓声を上げたが、ジルの表情はみるみる強張っていった。リグロの表情までよく見えるジルには、彼の強い苛立ちが見てとれたからだ。
リグロはそのままずんずん迫っていき、教徒を激しく怒鳴りつけて追い返した。そのきつい台詞が耳に入ったカファーの表情も一変した。
(やっべ、先生かなりイラついてるなぁ…)
ここ数日ずっと迷惑な教徒の対応に追われており、いい加減リグロも頭にきているのだ。こういうときの師匠には近づかないに限る。
苛立っているときというのは、相手の悪いところがやたらと目についてしまうものだ。何も悪いことをしていなくても、八つ当たり気味に小言を受ける可能性が高い。
(って思ってたのに~~!!)
そんな矢先に、晴たちはそっと部屋に帰ろうとしたところをリグロに捕まってしまった。
「おいお前ら、姿が見えないと思ってたが……子どもだけで何してたんだよ。あぁ?」
晴はジルの背中から降り、その後ろに隠れるようにして縮こまった。
「病み上がりだと思って休みにしてやったが、遊ぶ元気はあったみてえだな? おい」
(まずい、めちゃめちゃ怒ってる~!!)
(これは何を言っても怒られるパターンだな)
弟子たちは心の中でため息をついた。
「せ、先生がさ、王になるためにはコワをよく知れって言ってたでしょ~?だから、晴に賑やかな街を案内してたんだよ」
「ああ。道中で美味しいものをたくさん食べたな。服も買った」
「ちょっとジル!!」
カファーは慌ててジルを止めようとしたが遅かった。
(そんな言い方じゃ、ただ遊んできただけじゃねぇかって怒られるに決まってるよ、おれが上手く言ったのに!)
案の定、リグロはジルの言葉を聞いてますます不機嫌になったようだ。晴の顔を覗き込むように体を捩ると、低い声でゆっくりと言った。
「……あのなあお嬢ちゃん。俺は観光してこいって言ったわけじゃねぇんだが」
晴はごくりと唾を飲んだ。
「それにだ。お前は自分から興味を持って街を見たのか? どうせただこいつらについて歩き回ってただけだろうが。それでコワの何がわかるってんだ。あぁ?」
返す言葉もない。今日の晴はただの観光客だった。これで王に近づいたわけがない。
「コワは賑やかで元気なだけじゃねぇんだ。それにその明るさを、誰がどれほど苦労して守ってきたか…………わかってんのか?」
リグロはただ1人のことを思い浮かべていた。
「……まあいい、別に俺は急いでないしな。囚人の女がどうなろうと知ったこっちゃねぇ。立派な奴に王になってもらうことの方が重要だ。いくら時間をかけてもらっても構わねぇよ」
色々考えて疲れてきたリグロは軽く頭を振り、最後に吐き捨てるように言った。
「ちったぁこいつらの言うとおりにしているだけじゃなくて、自分の頭で考えてみるんだな」
その後、3人はとぼとぼと晴の部屋に戻ってきた。リグロから受けた厳しい言葉は、晴の心に重くのしかかっていた。
自分で、自分から、自分の頭で。その姿勢が足りていないのは自覚している。いつだって愛が晴の道しるべだったから。
「晴、あんまり落ち込まないで。おれたちのせいだ」
カファーが項垂れながら呟くが、すぐに顔をあげて場を明るくしようと続けた。
「先生があんな風に言ったのはさ、晴に期待してるからだと思うよ。ほんとに呆れられたときは口きいてもらえなくなるから。ねぇジル?」
「ああ。先生も晴のことを気にかけているんだろう。外出にはいくらでも付き合うから、1人で危険なことはするな。困ったらいつでも俺たちが相談に乗る」
「……うん、ありがとう」
2人が優しく慰めてくれて、晴もそこまで気を落とさずに済んだ。
しかし途方に暮れてしまった。王になると決めたのは他でもない自分だ。何かしないといけないが、何をすればいいのかわからない。
「これからどうしよう?」
晴の問いに2人も頭を悩ませる。
「うーん、見て回る系じゃだめってことだもんね。街の人にインタビューでもしてみる?」
「何を聞くんだ?」
「それは~……」
話は一向に進まない。3人が唸っていると、誰かが晴の部屋をノックした。
その頃、城に繋がる橋の上で騒ぎが起きていた。怒鳴り声のようなものが聞こえてきている。晴は顔を上げて橋の方を見つめた。
2人の教徒が城に押し入ろうと暴れていた。兵士が数人がかりで食い止めている。
晴の存在を知らない民たちは、ボンドの死で王族が途絶えたと思っている。教徒の中には、主のいない城を鎧やボンドの従者のみで使っていることを不満に思う者も多くいるのだ。
「早く城を開けわたせ!!」
「教会に使わせろ!!」
怒号が聞こえたカファーは眉を顰めた。
「う~わ、ありゃまずいね。通れないじゃん……どうする?」
横で眼鏡をずらして目を凝らしていたジルがニヤリと笑う。
「大丈夫だ、先生が来た」
「おっ、ほんとだ!」
城の中からリグロが出てきた。
晴とカファーは歓声を上げたが、ジルの表情はみるみる強張っていった。リグロの表情までよく見えるジルには、彼の強い苛立ちが見てとれたからだ。
リグロはそのままずんずん迫っていき、教徒を激しく怒鳴りつけて追い返した。そのきつい台詞が耳に入ったカファーの表情も一変した。
(やっべ、先生かなりイラついてるなぁ…)
ここ数日ずっと迷惑な教徒の対応に追われており、いい加減リグロも頭にきているのだ。こういうときの師匠には近づかないに限る。
苛立っているときというのは、相手の悪いところがやたらと目についてしまうものだ。何も悪いことをしていなくても、八つ当たり気味に小言を受ける可能性が高い。
(って思ってたのに~~!!)
そんな矢先に、晴たちはそっと部屋に帰ろうとしたところをリグロに捕まってしまった。
「おいお前ら、姿が見えないと思ってたが……子どもだけで何してたんだよ。あぁ?」
晴はジルの背中から降り、その後ろに隠れるようにして縮こまった。
「病み上がりだと思って休みにしてやったが、遊ぶ元気はあったみてえだな? おい」
(まずい、めちゃめちゃ怒ってる~!!)
(これは何を言っても怒られるパターンだな)
弟子たちは心の中でため息をついた。
「せ、先生がさ、王になるためにはコワをよく知れって言ってたでしょ~?だから、晴に賑やかな街を案内してたんだよ」
「ああ。道中で美味しいものをたくさん食べたな。服も買った」
「ちょっとジル!!」
カファーは慌ててジルを止めようとしたが遅かった。
(そんな言い方じゃ、ただ遊んできただけじゃねぇかって怒られるに決まってるよ、おれが上手く言ったのに!)
案の定、リグロはジルの言葉を聞いてますます不機嫌になったようだ。晴の顔を覗き込むように体を捩ると、低い声でゆっくりと言った。
「……あのなあお嬢ちゃん。俺は観光してこいって言ったわけじゃねぇんだが」
晴はごくりと唾を飲んだ。
「それにだ。お前は自分から興味を持って街を見たのか? どうせただこいつらについて歩き回ってただけだろうが。それでコワの何がわかるってんだ。あぁ?」
返す言葉もない。今日の晴はただの観光客だった。これで王に近づいたわけがない。
「コワは賑やかで元気なだけじゃねぇんだ。それにその明るさを、誰がどれほど苦労して守ってきたか…………わかってんのか?」
リグロはただ1人のことを思い浮かべていた。
「……まあいい、別に俺は急いでないしな。囚人の女がどうなろうと知ったこっちゃねぇ。立派な奴に王になってもらうことの方が重要だ。いくら時間をかけてもらっても構わねぇよ」
色々考えて疲れてきたリグロは軽く頭を振り、最後に吐き捨てるように言った。
「ちったぁこいつらの言うとおりにしているだけじゃなくて、自分の頭で考えてみるんだな」
その後、3人はとぼとぼと晴の部屋に戻ってきた。リグロから受けた厳しい言葉は、晴の心に重くのしかかっていた。
自分で、自分から、自分の頭で。その姿勢が足りていないのは自覚している。いつだって愛が晴の道しるべだったから。
「晴、あんまり落ち込まないで。おれたちのせいだ」
カファーが項垂れながら呟くが、すぐに顔をあげて場を明るくしようと続けた。
「先生があんな風に言ったのはさ、晴に期待してるからだと思うよ。ほんとに呆れられたときは口きいてもらえなくなるから。ねぇジル?」
「ああ。先生も晴のことを気にかけているんだろう。外出にはいくらでも付き合うから、1人で危険なことはするな。困ったらいつでも俺たちが相談に乗る」
「……うん、ありがとう」
2人が優しく慰めてくれて、晴もそこまで気を落とさずに済んだ。
しかし途方に暮れてしまった。王になると決めたのは他でもない自分だ。何かしないといけないが、何をすればいいのかわからない。
「これからどうしよう?」
晴の問いに2人も頭を悩ませる。
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