JK戴冠

ちゃんの

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第4章 王さま修行 / 教会編

第34話 遠のく距離、深まる溝

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「うおぉ~~!! おれかわいい!!」
「俺の方が可愛い」

 朝から晴の部屋が騒がしい。今日は弟子たちとティナの休みが合ったために調査に出かける日だ。そのための準備として変装中……なのだが。

「だからなんで、わざわざ女装なんですか……」

 幼なじみの女装姿になんとも言えない感情を抱き、セオシュはぶるりと身震いした。そんな彼女は無難に髪型を変えて、眼鏡をかけただけである。

「いいじゃん、こんな機会滅多にないんだし!」
「ノリノリだね……」

 前回の外出同様、ピンク髪とサングラスを装備した晴も苦笑いした。カファーとジルの姿はそれぞれの面影を残しつつも大きく変化しており、どちらも華やかな美人である。

「着替え終わったならさっさと行くぞ」
「あっ、そっちも着替え終わったんだねティ……ナ…………」

 長い赤毛を靡かせながら振り返ったカファーは、驚きのあまり言葉を失った。ジルとセオシュも目を丸くしており、晴も開いた口が塞がらない。

「ん? なんだよ、何か変?」

 ティナは黒髪マッシュのウィッグを被り、刺繍がおしゃれな白シャツを着ていた。もともと輪郭がはっきりしているし、持ち前の筋肉もあって男装がとても似合っている。

(うわぁ……かっこいい……)

 見惚れる晴と弟子たちを怪訝そうに見つめてから、ティナは「行くぞ」と顎で扉を示した。



 しかし、そのティナの姿が思わぬ影響を及ぼすことになる。

「よりによってなんで男装したのさ! 目立たないように変装したのに、これじゃ注目の的だよ!」
「お前らが女装するからだろ。女だけだと舐められると思ったんだよ」
「ティナはもともと舐められるような見た目はしてないと思うが」

 街に入った5人は女性たちの熱い視線を浴びていた。それらはほぼティナに注がれているものなのだが、当の本人は全く気にしていない。

「誰あのイケメン!?」
「城から出てきたわ!」
「隣の眼鏡の人も美人さんね……」

 一緒に褒められたジルも満更でもない様子である。

 一方のカファーは、情報を集めようと耳を澄ましていたものの、ティナへの羨望の声がほとんどで全く集中できずにいた。

(ちっ……これじゃ、耳で聞くだけじゃダメだね~。やっぱり直接話しかけていくしかないか)

「それじゃ、この辺りの商人から聞き込みを始めましょうか」
「う、うん」

 ティナやジルを囲う取り巻きから少し距離を取り、冷めた目のセオシュと晴は商店街を進み始めた。



「すみません、少しお話を伺いたいのですが」
「おっ、何でも聞いとくれ。おすすめはこれかな、ターコイズのネックレス。今朝買い取ってきたもので……」
「いえ、おすすめを聞きたいのではなくて」

 セオシュが初めに声をかけたのは、アクセサリーショップを営む中年の男性だった。彼はニコニコと微笑んで質問に応じてくれた。

「なんだね、オレにわかることなら何でも答えてやるよ」
「えっと、教会のことのついてなんですが……」

 晴がそう切り出した瞬間、彼は目の色を変えて焦り始めた。

「なっ……お前さん、教会の回しもんか? 金は持ってないぞ、帰ってくれ!!!」
「え? えっと私たちは」
「いいからどっか行け! 頼むから他を当たってくれ!」

 怯えたような、怒ったようなその様子に聞き込みを続けるわけにもいかず、晴とセオシュは身を引くしかなくなってしまった。

「どうしたのかな?」
「教徒だと思われたみたいですね。どうしてあんなに焦っていたんでしょう。教徒は一般市民からお金をたかっているんでしょうか……?」

(教会の話は慎重に切り出さないといけないのかも。まずは今のコワの話から始めてみて……)

 晴が考えていると、見覚えのある顔が通り過ぎていくのに気付いた。ワッフル屋の店主だ。晴は彼女の優しい対応を思い出し、話しかけてみることにした。

「あの、すみません」

 呼び止められた彼女は振り返って、相手が晴だとわかると露骨に嫌そうな顔をした。

「あんた……、こないだ鎧の弟子らと一緒にいた子だよね」
「そ、そうです!ちょっとお聞きしたいことがあるんですけど……」

 女性が嫌がっているのは分かったが、せめて少しでも情報を聞いておきたい。晴は話を続けようとしたが、彼女はそれを冷たく拒絶した。

「あんたと話すことなんてない。今どき鎧と関わってもいいことないからね。みんなそう思ってるよ」
「えっ」

 呆然とする晴に、女性は顔を歪めて言った。

「本人には言うんじゃないよ。あたしは牢屋になんか入りたくないからね。ワッフルだって欲しいならまた売ってやる。それでいいだろ?」

 女性は弟子たちとの関係がもつれると自分が罰を受けたり、王都での居場所を失うのではないかと心配していたのだ。だから弟子たちの前では普通に接するものの、本心では鎧や弟子を嫌っていた。

 晴はそれ以上何も言えず、スタスタと去っていく女性を見守ることしかできなかった。

「晴、危ないから1人で行動しないでくださいね」
「……うん」

 後ろで話を聞いていたセオシュが囁く。国を裏切ったとされるボンドの従者であり、城で不自由ない暮らしをする自分たちが、市民の反感を買っていることはわかっていた。

(わかっていたけど……)

 実際に目の当たりにすると、ずしんと重みのある現実。それでも市民を守るために、恨まれてでも成し遂げたいことがある。伝わらない悔しさをグッと抑え、服の上から銃の感触を確かめた。

(私には……私たちにはやることがある。だから、大丈夫)

「晴、あっちにも行ってみましょう」

 セオシュは晴の袖を引いてその場から離れた。



 その後も晴たちはしばらく聞き込みを続けた後、公園の隅に集まってそれぞれの成果を報告し合った。だがあまり収穫はなかった。教会の話を切り出すと拒絶されたり、逃げられたりしてばかりだったのだ。

「教会が多額の入会金を請求してるって話は聞いたことある。市民が言ってたのはそれのことかもな」

 ティナの言葉に、カファーが腕を組んで唸った。

「うーん、やっぱり本物の教徒に話を聞いてみないとダメなのかなぁ……」

 教徒や教会付近にはなるべく近寄りたくないが、そうも言っていられないようだ。

「一旦ご飯でも食べに行って、午後から教会の方へ足を伸ばしてみましょうか」
「腹が減っては戦はできぬ、と言うからな」

 ご飯のことを考えたからか、元気よく鳴ったジルの腹の虫を合図に一同は食事に向かった。
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