JK戴冠

ちゃんの

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第4章 王さま修行 / 教会編

第35話 狂信のしるし

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 腹ごしらえが済んだところで、5人は教会のある東側へ移動した。教会地域は人もまばらでどこか怪しげな雰囲気がある。晴はみんなと離れないようにぴったりとくっついた。

 すれ違った人をチラッと見て、カファーが晴に囁く。

「見て。あの白い王冠のマークが教徒の証だよ」

 通りにいる人のほとんどがそのマークを身につけている。鞄にストラップとして付けていたり、服に印刷されていたり、刺青が入っていたりと様々だ。いずれも目立つ位置にある。

「カファー、姉さんの気配を感じるか?」
「やってるけどわかんない。近くにはいない……と思う」

 カファーは声の聞き分けが得意だが、声を記憶することは苦手なのだ。最後にエミレラと会話をしたのは数年前。いま声だけを聞いても、すぐにエミレラだとわかる自信はなかった。

 教徒たちはマークを持たない晴たちをジロジロと観察している。一般人はあまり足を踏み入れない場所だからだ。それでも恐れを知らぬティナが一歩前へ躍り出て、道端で煙草を吸っていた男性に「ちょっといいか?」と声をかけた。

 男性の被っている白い帽子に、王冠マークのワッペンがついている。彼は煙を吐いてからにこやかに笑った。

「兄ちゃん、男前だなぁ。構わねぇぜ」
「教会のことについて聞きたいんだが。最近、何か動きはあったか?」

 あまりにも直接的すぎる質問だ。晴たちが慌てるのにも関わらず、ティナは平然としていた。回りくどい真似は嫌いなのだ。男性は「何でそんなこと聞くんだ」と不思議そうにしつつも答えてくれた。

「ボンド様が亡くなってからってことか? 特に変わりないけどな。俺たちは変わらずキレウィ様を信じてるだけだ」
「キレウィ様を?」

 セオシュが眉を顰めた。

「どういうことですか? キレウィ様は何年も前に亡くなっていますけど」

 こちらも容赦ない物言いだ。しかし男性は気を悪くした様子もなく頷いた。

「ああ、でも最近の教会の方針はずっとそうさ。俺たちはボンド様ではなく、キレウィ様が王になるべきだったと思ってる。だからキレウィ様が王になったコワを実現させようとしてるんだ」
「キレウィ様はもういないのに、どうやって?」

 カファーが恐る恐る聞くと、男性は再び煙草をふかしながらのんびりと言った。

「そりゃもちろん、エミレラ様が引き継ぐのさ」
「!?」

 弟子たちは顔を引き攣らせた。

(姉さんが引き継ぐ? 何を?)

「お前さんたち、知らないのかい? キレウィ様のご遺志を継いで、エミレラ様が新しい王になるって話だ」
「はぁ!?」
「おい」

 身を乗り出したカファーをジルが押さえる。セオシュも混乱して何も言えず、ティナは黙ったまま微かに顔を顰めていた。

(私以外に、王になろうとしてる人がいたんだ。しかも鎧のエミレラさんが……)

 そんなことは全く想定していなかった。エミレラは晴より人望が厚い。このままでは、晴の目的を叶えるのも困難だろう。

「ヴィーゼル一族を失ってしまった今、王に相応しいのは彼女しかおらんよ。近いうちに鎧にも話が行って、エミレラ様を王として認めてもらうらしいぞ」

(そんなこと言われたって困るんだけどな)

 ティナは軽く息を吐き、動揺して心ここに在らずといった状態の弟子たちを見やった。一度状況を整理する必要がありそうだ。

「わかった。ありがとう」
「おお、気をつけてな」

 男性は手を振って見送ってくれたが、誰もそれに応じる元気はなかった。



「……意味わかんないんだけど」

 5人は少し離れた建物の影に集まった。カファーがかなり険しい表情で、それをジルが心配そうに見つめている。

「姉さんが王ってどういうこと?」
「キレウィ様だけを信じているっていうのも納得できません。教会はヴィーゼル一族を信仰していたんじゃないんですか?」

 疑問は尽きない。城から完全に切り離され、王都の隅に収まっている今の教会は、数年のうちに厄介な団体へと成長していたのだ。

「教祖の方針だろうな、その方が教徒を動かしやすいんだろう」
「それはそうかもしれないけどさ、それと姉さんはまったく関係ないよね?」

 縋るように聞くカファーに、ジルもわからないと首を傾げる。しかしセオシュはその理由に心当たりがあった。イトカから話の流れで聞いた、キレウィとエミレラの話だ。

「……姉様とキレウィ様は、ご婚約なさってたんですよ」

 順当にキレウィが即位していた場合、エミレラは王妃となる存在だったのだ。ボンドのいない今、キレウィの代わりをするには最も相応しい人物といえる。

 これで、関係がないとは言えなくなった。どんどん真実味を帯びていくエミレラの即位に、誰も何も言えなくなってしまった。



「ちょっと、そこの人たち、待って~」

 5人が城に帰ろうと重い足取りで歩いていると、後ろから呼び止める声があった。薄汚れた身なりをした女性で、走って追いかけてきたのか息が上がっている。

「あんたら、教会の人じゃないんだろう? あたしもそうなのさ。教会に息子を奪われちまってね……」
「息子さんを?」

 女性の汗を拭ってやりながらセオシュが聞き返す。近くのベンチに彼女を座らせ、話を聞くことにした。

「息子はうまいこと言いくるめられて、教会に引き入れられてしまったみたいなんだよ。もう何日も帰ってこないのさ。教会が高い入会金を取ることは知ってるだろう? あたしはそんなの払えないから、追いかけてやれないんだ」

 悪質なやりくちだ。彼女は同じように家族を奪われた人が何人もいるのだと話した。幼い子供を捕らえ、取り戻そうとした家族も一緒に引き入れようとしたり、身代金を巻き上げたりと、教会は人と金を集めるために手段を選ばなくなってきているのである。

「息子はまだ20代で、若いから働き手にちょうど良かったんだろうね。どうにかして脱出させてやりたいんだ。あんたら、教会に思うところがあるなら協力してくれないかい?」

 晴はこの女性の悲痛な気持ちを思うと胸が苦しくなった。家族を失うのはとても辛いことだ。もうそんな思いはしたくないし、そんな思いをしている人のことも見逃すわけにはいかない。

「……わかりました。息子さんを救えるように頑張ります」
「ほんとかい!?」
「晴!?」

 弟子たちは驚いて目を丸くした。

 生後すぐに親元を離れて施設に入り、それからずっと城で暮らす3人にとっては、親子関係が想像しにくいものなのだ。女性の息子は実験に適応できず、親元に帰された人間だった。

「ありがとう、恩に着るよ! あたしはフィオナ・リンベル。毎日この辺に来てるんだ」
「ええと、晴です」

 晴とフィオナは熱い握手を交わした。
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