JK戴冠

ちゃんの

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第4章 王さま修行 / 教会編

第39話 すでに腑の中

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 静まり返った聖堂に、セオシュが床に倒れる音が響く。

「え…………セオ……?」

 直後、カファーの槍が手から滑り落ちる。

「セオ!!!!!」

 駆け寄るカファーの前に、いつの間にかセオシュのそばにいたザキが立ち塞がった。

「おっと。それ以上近づかないでもらいましょうか」
「何のつもりだ。どけ」

 とにかくセオシュの様子を見たいリグロも寄ってきてザキを睨む。しかしザキは全く怯むことなく、部下にリグロとカファーを抑えさせた。

「動くなと言ったはずですよ」

 敵の被験者たちもぴたりと止まってザキの指示を待っている。聖堂は異様な静けさに包まれた。

「ふむ。どうやらこちらの勝ちのようですので、取引しませんか?」
「取引?」
「この方はまだ生きています。しかしもう長くありません。10分ともたず失血死するでしょう」

 リグロは血が出そうなほど強く唇を噛んだ。今からセオシュを城に運んでも間に合わない。

 ザキはニヤリと笑って、飛び込んできたままの姿勢で青ざめて硬直しているエミレラを示した。

「しかし、あの優秀な医者に今すぐ見せれば確実に回復できるでしょう。今すぐにです。この方を救いたいのであれば、我々に委ねて他の方はお帰りください。そうすればこの方の身の安全は保証しましょう。その代わり人質にさせてもらいます」
「なに言ってんの……」

 カファーがぎゅっと拳を握りしめる。

「早くしないと、取り返しがつかなくなりますよ。王族さんもなるべく早く医者に見せたほうがいい。そちらも出血が多いようなので」

 その言葉で、衝撃のあまり忘れていた痛みが再び晴を襲った。床についた手まで血だらけである。

 うつ伏せに倒れ込んでいるセオシュが荒い息遣いの中で叫んだ。

「行ってください!! 早くしないと晴が……!」

 呼吸すら苦しい中で必死に訴えた。

「晴を失ったら、ここまで頑張ってきた意味がないじゃないですか。私はどうにでもなりますから!」
「セオ……!!」

 だめだ。セオシュを置いていくなんてできない。決壊しそうな感情をうまく言葉にできず、カファーはただセオシュの名前を呟いた。

 ずっと険しい表情で黙り込んでいたティナが意を決して言う。

「行こう」
「でも!」
「このままじゃ晴もセオシュも死ぬ」

 ティナはセオシュの懇願するような目とじっと見つめ合った。

「仕方ないんだ」
「そんな!!!!」
「早く行くぞ」
「先生……!」

 抵抗するカファーをリグロが掴んで引きずる。ジルは黙ったまま、カファーは項垂れて教会を去った。

「セオシュ……ごめん……」

 ティナに抱えられた晴は、遠のく意識の中ですでに目を閉じたセオシュに呼びかけた。



「もういい? 運ぶわよ、手伝って。なるべく揺らさないように」

 何とか落ち着きを取り戻したエミレラの指示で、兵士数人が担架に乗せてセオシュを運んだ。背中全体に痛々しい傷が広がっている。

「容体が安定したら部屋に閉じ込めておけ」

 冷酷な指示を出すザキをエミレラはきつく睨みつけた。

「私を利用したのね。最低」
「なんと言われようが構いませんよ」

 鎧たちがエミレラの姿に動揺した隙を突かれたのだ。エミレラは自身を責めた。同時に、もう後戻りできなくなった自分の状況を苦々しく受け止める。

「何でも自分の思い通りになると思わないで。許さないから。あの子たちは私の……」

 そこで続けるのを躊躇い、口をつぐむ。ザキはその様子をじっと見つめていた。

「……とにかく、もうこんなことはしないでちょうだい」
「約束はできませんね」

 ザキはわざとらしく顔を逸らした。


 ザキは守りが固い晴を殺すより、他に重傷を負わせて人質にする方が現実的だと考えていた。そこで狙われたのが、単体での戦闘能力が最も低いセオシュである。

 結果として、教会は人質を得て鎧に対し優位に立ったといえる。鎧は殺すより利用した方が良さそうだ。ザキは満足そうな表情で舌なめずりをした。

 治療室へ向かうエミレラたちを見送り、血の飛び散った聖堂を振り返る。倒れた教徒たちの胸は微かに上下しており、気を失っているだけだ。

 ──ただ1人を除いて。


(王と鎧の時代は、もう終わりだ)

 ザキは死体を見下ろして嗤った。
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