JK戴冠

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第4章 王さま修行 / 教会編

第55話 きみの声のもとへ

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 地面が激しく揺れて波立ち、壁にヒビが入る音がする。ものすごい衝撃だったが聖堂に炎はない。爆発は外で起きたようだ。

 ザキはどさくさに紛れてステージから姿を消した。

「あいつ……次に会ったら、絶対に殺してやる」

 ティナはその影が見えなくなるまでじっと睨みつけたあと、な手錠を見下ろした。

「もういいよな」

 そして手錠をへし折り、それぞれの間にあった鎖を力任せに破壊した。鎧たちは自由になった。

 爆発が続いているようで、ものすごい轟音とともに地面が揺れている。晴たちは建物が崩れる前に慌てて外に出た。

「セオシュはどこ!?」
「それがわからないの! 医務室にはいなかった!」

 必死に叫ぶメイにエミレラが答える。ますます不安になってカファーは唇を噛んだ。先ほどからずっと気配を探ってはいるが捉えられないのだ。

(どこにいるの……! おれの名前を呼んでくれればすぐに場所がわかるのに! 口を塞がれてるのかな…?)

 落ちてくる瓦礫を避けながら、比較的安全な中庭まで進む。どうやら聖堂を取り囲む6つの塔が爆発したらしく、炎はあちこちに燃え移っていた。

「とにかく、おっさんは城のイトカの援護に行ってあげて。すぐにツバキにも行かせる。ティナとカファーでセオシュを探すんだ。爆発したってことは塔が怪しいと思う。ジルは晴のそばにいて」
「わかった」
「ああ!」

 メイが咄嗟に判断して指示を下した。

「メイは?」
「ボクはエミレラとアズキと一緒に教徒を誘導する。早く避難させないとまずいから」
「わかった。みんな、城で会おう!!」

 それぞれ行動開始だ。

「さあ行くよ」
「え、ええ」

 随分と頼もしくなった鎧の後輩に驚きつつも、エミレラも自分の役割を感じて覚悟を決めた。

 だが1つだけ、すぐにでも確かめたいことがある。

「……あのキレウィ様の動画も、あなたが作ったの?」

 動き出そうとしたメイがぴたりと動きを止め、その砂色の瞳が静かに振り返った。

 エミレラはメイの精巧な技術を目の当たりにして不安になったのだ。あれだけ完成度の高い立体映像を作れるのなら、自分が心動かされたあの映像も作れるのではないか。

 しかし、メイはキッパリと言った。

「あれはホンモノだよ」

 メイの纏う空気が張り詰めている。それを疑われるのは心外だった。

「もしあれがボクの作ったものなら、それでアンタを都合よく動かそうとしたことになるよね。自分も他人も信じられなくなってたアンタの……唯一の拠り所がキレウィ様だった。それを利用するのは、アンタのことも、キレウィ様のことも踏みにじる最低の行為だ。ボクは絶対にそんなことはしない」

 自分の技術を披露していたときのメイは自慢げな笑みを浮かべていた。だが今は全く笑っていない。

「ザキはそれをやろうとしたんだよ。ボンドを敵にしてエミレラを盾にして、自分の理想だけを叶えようとしたんだ。ボクは絶対に許すつもりはないし、アンタはアイツに恩なんか感じなくていい」

 そう強く言い切ったあと、力の入った体を緩めるようにメイはふうっと息を吐いた。

「って、ボクは思うけどね。あとはアンタ次第でしょ。とりあえず今は避難するよ」
「……そうね」

 考え込んでいたエミレラも頷き、2人は聖堂から離れて門を目指した。

 メイは使命感を感じていた。みんなが無事に生き抜かなくては、作戦は成功とは言えない。



 聖堂の近くまで戻ってきたティナとカファーは、1番近い塔を見上げていた。塔のてっぺんに窓が見える。あの高いところに小部屋があるのだ。

「塔って言っても6つあるよ!?」

(しかもどれにセオがいるかわからなくするためか、全部爆発させたな!!)

 カファーが激しい熱気に顔を顰めながら言う。窓は開閉できないタイプのようで、おそらく密閉性が高い。中にセオシュがいても音を捉えにくい。非常に厄介だ。

「……これじゃ入れないな」

 塔の根元が爆発したようで、入口は炎に包まれている。そこから階段が続くのだが、さすがのティナでも火の中は進めない。死にはしないが、火傷まみれになってしまうのでセオシュを抱えて出てこられなくなる。

「カファー、こっちだ」

 悩んだ末、ティナは軽々とした動きで聖堂の壁をよじ登り屋上に上がった。

「えぇ!?」

 カファーは意図がわからず驚きつつも、続いて器用に登る。

「お前、体重軽いよな?」
「えっ、まあティナよりはね……?」
「受け身もできるな?」
「まあ、人並に……」

 ティナは満足そうに頷くと、軽く肩をほぐし始めた。

「今からお前をあの塔にぶん投げる。セオシュがいなかったらここに戻ってこい」
「はぁぁ!?」

 窓に向かってティナがカファーを投げ、体当たりで突き破って中を確認する作戦だ。しかし塔とはなかなか距離がある上、高いので落ちたら確実に死んでしまう。さすがにこの高さの受け身は無理だ。

「下から登れないし、塔には他の入口もないんだからそれしかない。行くぞ」
「ほ、本気……!?」

 カファーが怖気付いて動けなくなる前に、ティナは半ば無理やりカファーを掴んでぶん投げた。

「うわあぁぁぁぁぁあ!!!!!」

 容赦なしの全力投球である。

 カファーは浮遊感と恐怖に絶叫しながらも、なんとか無事に窓の高さまで飛び、突き破って中に入ることに成功した。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 激しく脈打つ心臓を抑えながら中を見るが、何も無かった。下を覗き込むと階段が続き、1番下で炎が揺れているのが見える。

「はずれか……」

 おそるおそる聖堂の方を見ると、受け止めるために屋上で手を広げて待ち構えているティナの姿があった。

(行く……しかない)

 ますます燃え進む火を恐れながら、カファーは全力で跳んだ。

 ギリギリだったが無事に屋上に届いた。ティナが難なく受け止めて支える。

「次行くぞ」
「え、うわっ」

 間髪入れず、別の塔に向かって投げられた。


 同様に調べていって4つ目の塔まで来たが、セオシュの姿はなかった。

「……っ、はぁ、はぁ」

 全力のジャンプを繰り返して息は上がっており、足の筋肉が痛む。もしかして塔じゃないのかな……と不安になりながら再び屋上に戻ろうとしたとき、カファーはだいぶ火が上がってきていることに気が付いた。

「もう、こんなに……!!」

 間近に迫った熱を恐れながら聖堂へ跳ぶ。

 塔はあとふたつなのに、両方調べる時間はなさそうだ。どちらかを当てなければならない。

「どうする、右か左か」
「……」

 セオシュの命がかかっている。そう思い決断できずにいるカファーを見て、ティナは直感で右の塔にぶん投げようと振りかぶった。

 そのとき。

「カファー」

 カファーの耳が、掠れた小さな声をとらえた。

「待って!!」

 離れそうだったティナの手をぎゅっと握ってしがみつく。

「セオの声だ!! 左!!」
「よし」

 その短いやりとりでティナも全てを理解し、思いを込めて最後の全力投球をした。

「行ってこぉぉぉぉいい!!」


 そこの窓はなぜかすでに割れていて、粉々になったガラスの破片と黒い物体が床に転がっていた。この四角い物体が聖堂とは逆の方向からぶつかってきて、窓を突き破ったようだ。そのおかげでセオシュの声がカファーまで届いたのだ。

(なんだこれ……?)

 カファーは少し気になったが、黒い何かについてそれ以上考える暇はなかった。

 部屋には紐で手足を拘束され、転がされたセオシュがいた。口元を覆っていた布をガラスの破片に擦り付けて切ったようで、頬のあたりに傷ができている。ぐったりした様子だ。

「セオ!!」

 火はすぐそこまで迫っていた。

「もう大丈夫だから。持ち上げるよ、いい?」
「……うん」
「急げえええええ!!!!」

 外からティナの大声が聞こえる。

「はいはい……っ」

 カファーは火の粉と煙にむせ返りそうになりながら、セオシュをしっかりと抱きかかえて精一杯跳んだ。

「うわっ!」

 しかし破片が飛び散っているせいで足場が悪かったことと、足の疲労とセオシュの重みもあってバランスを崩し、ティナの元まで届かないジャンプになってしまった。

(まずい、届かない……!!!)


 ──落下していく。

 下敷きになってでもセオシュを救いたくて、カファーはぎゅっとセオシュを抱え込んだ。

「…………」

 しかし、そんなことにはならなかった。

 ティナが躊躇わずに聖堂から跳び、空中で固まった2人をしっかりと受け止めた。そしてその重みを支え、そのままドシンと着地した。

 全員、無事だ。

「ティナ、すごっ……いてて、いまの衝撃で舌噛んだ」
「セオシュは?」
「気を失っちゃったみたい。おれに呼びかける機会をずっとうかがって、気を張ってたんだろうね」

 カファーは胸が締め付けられる思いでセオシュを見つめた。

「……早く城に行こう」

 ティナはイトカのことも気がかりだった。教会の近くに待機させていたフリーを呼び出し、3人は城へと出発した。
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