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第4章 王さま修行 / 教会編
第68話 進む先 さらなる試練へ
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7代目の鎧が全員揃った。
5人の表情はすっきりとして明るい。それぞれの顔を眺めながら、晴はこの場に立ち会えたことに感動していた。
ティナは円卓の席に向かうリグロには続かず、弟子たちと一緒に壁際に座っている晴をじっと見つめた。そして短く息を吐き、晴に向かってズンズンと足を進める。
「晴」
「は、はい」
大柄なティナに目の前で見下ろされると、かなりの圧迫感を感じる。晴は思わず身構えた。
それに気付いたティナはまず膝を折って、目線を合わせてから言った。
「ごめん」
たったそれだけの、短いひとことだった。
「…………」
会議室がシーンと静まり返る。
(えっ!?)
(まじかよ)
(ティナが、謝った……)
一同はそれぞれ驚きを隠せないながらも、じっとティナの背中を見守った。
「えっと……どうして私に謝るの?」
ティナが暴走した中で傷つけたのは晴ではなく、イトカや官僚たちだ。謝られる理由がすぐに思いつかなかった晴は困惑した。
ティナは躊躇うように少し目を泳がせたが、再び晴と目を合わせてはっきりと答えた。
「晴が助けたかった人を、殺したから」
フィオナの息子、デンスのことだった。
ティナには弱い敵に対する慈悲はない。晴の気持ちが完全に理解できたわけでもない。それでも、晴を悲しませてしまったことには謝りたいと思ったのだ。
なぜそう思うのかは、今のティナには言葉にできない。だが、謝らなければならないことだけはわかっていた。
「…………」
晴は驚き、おずおずとティナを見つめ返した。ティナが彼を殺したと知ったときは悲しかったし、絶望も感じた。
けれどあのとき彼は既に教会の駒と化していて、晴たちを襲った。晴たちには、彼を救う方法も余裕もなかったのだ。あの瞬間を生き延びるだけで精一杯だった。
ティナだけのせいではない。そう思った。
「……うん、大丈夫。大丈夫だよ」
言葉が震えてしまったが、晴はまっすぐに答えた。ティナに悪気がなかったことはわかっている。そしてここは、綺麗事が通用しない戦禍の中なのだ。
ティナは黙ったままだったが、晴にきちんと話せたこと、返事がもらえたことで、ずっとあった胸騒ぎがおさまるのを感じていた。
ふたりの様子をじっと見守っていたリグロは、晴の返事をしっかりと受け止めつつ、厳しい口調で言った。
「……とは言っても、な。ティナ、わかってるか?」
「何を?」
ティナが軽く首を傾げる。
「ことの重大さを理解してるかって聞いてんだ。その男だけじゃない、お前は数えきれないほどの人を殺した。鎧を解任されてもおかしくないほどのことなんだぞ」
部屋の空気が一気に重く沈んだ。
今回ティナが殺した人々の中には官僚も含まれている。彼らが明らかに教会側についている様子だったとはいえ、形式上はまだ城の職員だ。ティナは城の仲間を殺してしまったことになる。
「……まぁ、ボンドだったら確実に辞めさせてただろうね」
イトカがぽつりと呟く。敬称もつけずにボンドと呼んだ彼の声には、親しみと思い出が込められていた。
「でも、ボンドはもういないんだから。決断するのはあの子じゃないの?」
便乗して呼び捨てたエミレラが静かに晴を示した。
「わ、私が……?」
「あなたが、ティナをどうするか決めるのよ」
一気に注目が集まり、晴は口ごもった。そんな責任重大なことはできないし、正直したくもない。
エミレラの目は真剣だが、イトカとリグロはどこか同情が感じられる表情をしていた。晴にそんな決断をさせるのはあまりにも酷だと思ったのだ。
2人が口を開くより早く、メイが声をあげた。
「そんなの、お姫サマに決めさせないでよ。その子はまだ『お姫サマ』であって、王さまじゃないでしょ」
メイの口調は強く、芯が通っている。昨日の会話が頭をよぎったエミレラは不安そうに顔を曇らせた。
「鎧の任命と解任ができるのは、王だけのはずじゃん」
「それはそうだが……」
リグロが歯切れ悪く呟いた。その王がいないというのは前代未聞の話である。代わりができるのは同じ王族しか思いつかない。
イトカが微笑みながら言った。
「エミレラも、晴を王として認めるみたいだよ」
エミレラが真剣な表情で頷く。彼女の宣言を聞いていなかったリグロは、驚いて少し目を見開いた。
「そ、そうなのか」
リグロは未だ踏み切れない気持ちがあったために、エミレラの早い決断に感心した。晴が起こした行動や言葉が、彼女の心を大きく動かしたのだろう。
これでティナとエミレラ──5人の鎧のうちの2人が、晴の即位を認めたことになる。
メイは腕を組んで背もたれに体を預けた。
「おっさんはどうなの?」
「ん、ああ。俺もかなり前向きに考えてるんだが、これといった決め手がない気がしてな……。もちろん教会での晴は立派だったし、他のやつができないことを立派に成し遂げたと思ってる」
興味深そうに頷くと、メイはパッと顔を上げて言った。
「じゃあ、ボクからひとつ提案がある。結果によっては、おっさんの決断を後押しできるかもしれない」
「ほう?」
全員が注目する中、エミレラだけが険しい表情でじっと目線を送っている。メイはそれに気付きながらも躊躇わずに答えた。
「お姫サマに、リチボマイに行ってもらう」
「……は??」
聞き間違いかと思い、晴たちは唖然とした。
「リチボマイだと? 革民党の住み処に晴をぶっ込む気か?」
「うん」
信じられないといった表情のリグロに対し、メイはきっぱりと頷いた。
革民党の人間は晴に強い殺意を抱いている。ロユンから受けた警告は、晴もよく覚えている。
「……晴に何をさせようっていうの?」
抵抗を隠せない様子のイトカに対し、メイは平然と答えた。
「王都でやったのと同じことをするんだよ。彼らの文化や考え方を見てくるんだ。革民党だってコワの民でしょ、王になるためには必要なことだよ」
「でも、でも……」
晴の顔が青ざめる。メイの言い分ももっともだが、王族に対して根深い恨みを持つ人々の中に入っていくのは自殺行為だ。死んでしまったら元も子もない。
「私たちもついて行くのよね?」
エミレラが聞くが、メイは小さく首を振った。
「ボクたちは城から離れないほうがいい。今回のことで、鎧のいない城の弱さが露呈しちゃってる。次に全員留守にしたら、今度こそ何かに乗っ取られちゃうかもしれないよ」
メイは至って冷静だった。ザキの行方がわからない今は特に慎重になるべきだ。教会のような新たな集団が生まれないとも限らない。
だが晴は、すぐにでも行動するべきだ。
「晴に1人で行かせるつもり?」
「いくらなんでも危険すぎるわ」
イトカとエミレラが反論する。不安でいっぱいな晴の震える手に、隣に座っているセオシュが小さな手を重ねた。
「お姫サマの実力も測れるし、ちょうどいいでしょ」
「ふざけるな。晴の身に何かあったらどうするつもりだ」
「…………」
リグロとメイが睨み合う。メイはなんとも答えなかったが、鎧の仲間に反対されても考えを曲げる気はなかった。返事の代わりに釘を刺す。
「お姫サマがちゃんと革民党のことを知って帰ってきたら、ボクも承認すると約束するよ」
これが、メイの承認の条件だった。
(そ、そんな~~)
(無事に帰ってくることすら難しいぞ……)
(せめて私がついていくのは……いや、私がいたところで役に立たないかも)
弟子たちもそれぞれ思考を巡らせた。晴はコワに来て間もない無力な女の子だ。あまりにも危険すぎる。
ロユンが党首になってから少しは落ち着いたものの、リチボマイは争いの絶えない場所だ。鎧でさえ単身で行くことはない。
そんなリチボマイで晴が安全に過ごせる方法があるとすれば……最強の護衛を連れて行くことくらいだろう。
(ティナが行けば安心だろうけど)
(また暴走しなければな)
(党首さんとも仲良しですし)
何より、本人が絶対について行くと言いそうだ。3人は期待を込めてティナを見たが、なぜかティナは黙ったままだった。
「…………」
メイが考えを変えないのなら、決めるのは晴だ。口を挟んではいけないとティナも理解していた。まして自分は解雇されるかもしれない身である。
(……辞めさせられるのは、嫌だな)
ただ、そう思った。
誰も何も言わなくなってしまったので、晴は体を縮こませて俯いた。すかさずメイが畳み掛ける。
「晴、キミは前に言ったよね。ボクたち鎧の気持ちに応えたくなった、って。さあ、ボクの期待にも応えてみせなよ」
(確かに言ったけど……)
晴は目を泳がせた。
メイは本気だ。鎧の中で1番小柄で弱々しい見た目をしていながら、最も頑固と言っていいほど気の強い性格をしている。他の鎧たちも、もうメイに何を言っても無駄だと悟っていた。
そして、晴の目的が王になることである以上、断るという選択肢は無いも同然。
息苦しい沈黙の中、全員が晴の返事を待っていた。
「…………」
俯き加減にそれぞれの顔を伺う。
イトカとリグロは心配そうに眉を顰め、エミレラは複雑そうな表情である。ティナも珍しく深刻そうな顔をしており、弟子たちの顔には心配がはっきりと現れていた。
そして、メイはまっすぐと晴を見据えていた。
(私が死んだら、みんなも困るはずだし……、なんだかんだ助けてくれるよね……?)
晴はそんな甘い考えで、自分の中に鳴り響く警鐘を誤魔化した。そして、小さく息を吸い込む。
「……私、行くよ」
ただ張り詰めた場の空気を破るように、言った。
・
その頃、ティナたちが戦っていた部屋では復旧作業が行われていた。壁や床がなくなっているところもあるため、大掛かりな工事が必要なのだ。
「じゃ、今日はここまでだな。お疲れ様」
「お疲れ~」
夕方になり、作業員たちが次々に現場から離れていく。それぞれヘルメットを目深に被っているために、お互いの顔は見えづらくなっていた。
そんなとき、作業員の1人が他人の目を盗んで静かに集団から抜け出した。そのまま崩れかけの空間へと引き返す。
「…………」
不安定な足場を踏みしめながら、壊れた部屋の奥へと進む。そして、壁際に積もった瓦礫の前で立ち止まった。
彼は静かに瓦礫の山を見つめたのち、それを手でかき分け始めた。あるものを探すために。
尖った破片や重い壁の残骸たちを、苦労しながらひとつひとつ手で動かしていく。そうしてしばらく作業を続け、ひときわ大きな壁の欠片をどかしたときに目的のものが見つかった。
「!」
瓦礫に埋もれていた小さな包みだ。外箱は薄汚れて少し潰れているが、中身は無事らしい。
彼はそれを大事そうに拾い上げてポケットに仕舞うと、工事現場を後にした。
そして、二度とその場に現れることはなかった。
〈教会編 おわり〉
5人の表情はすっきりとして明るい。それぞれの顔を眺めながら、晴はこの場に立ち会えたことに感動していた。
ティナは円卓の席に向かうリグロには続かず、弟子たちと一緒に壁際に座っている晴をじっと見つめた。そして短く息を吐き、晴に向かってズンズンと足を進める。
「晴」
「は、はい」
大柄なティナに目の前で見下ろされると、かなりの圧迫感を感じる。晴は思わず身構えた。
それに気付いたティナはまず膝を折って、目線を合わせてから言った。
「ごめん」
たったそれだけの、短いひとことだった。
「…………」
会議室がシーンと静まり返る。
(えっ!?)
(まじかよ)
(ティナが、謝った……)
一同はそれぞれ驚きを隠せないながらも、じっとティナの背中を見守った。
「えっと……どうして私に謝るの?」
ティナが暴走した中で傷つけたのは晴ではなく、イトカや官僚たちだ。謝られる理由がすぐに思いつかなかった晴は困惑した。
ティナは躊躇うように少し目を泳がせたが、再び晴と目を合わせてはっきりと答えた。
「晴が助けたかった人を、殺したから」
フィオナの息子、デンスのことだった。
ティナには弱い敵に対する慈悲はない。晴の気持ちが完全に理解できたわけでもない。それでも、晴を悲しませてしまったことには謝りたいと思ったのだ。
なぜそう思うのかは、今のティナには言葉にできない。だが、謝らなければならないことだけはわかっていた。
「…………」
晴は驚き、おずおずとティナを見つめ返した。ティナが彼を殺したと知ったときは悲しかったし、絶望も感じた。
けれどあのとき彼は既に教会の駒と化していて、晴たちを襲った。晴たちには、彼を救う方法も余裕もなかったのだ。あの瞬間を生き延びるだけで精一杯だった。
ティナだけのせいではない。そう思った。
「……うん、大丈夫。大丈夫だよ」
言葉が震えてしまったが、晴はまっすぐに答えた。ティナに悪気がなかったことはわかっている。そしてここは、綺麗事が通用しない戦禍の中なのだ。
ティナは黙ったままだったが、晴にきちんと話せたこと、返事がもらえたことで、ずっとあった胸騒ぎがおさまるのを感じていた。
ふたりの様子をじっと見守っていたリグロは、晴の返事をしっかりと受け止めつつ、厳しい口調で言った。
「……とは言っても、な。ティナ、わかってるか?」
「何を?」
ティナが軽く首を傾げる。
「ことの重大さを理解してるかって聞いてんだ。その男だけじゃない、お前は数えきれないほどの人を殺した。鎧を解任されてもおかしくないほどのことなんだぞ」
部屋の空気が一気に重く沈んだ。
今回ティナが殺した人々の中には官僚も含まれている。彼らが明らかに教会側についている様子だったとはいえ、形式上はまだ城の職員だ。ティナは城の仲間を殺してしまったことになる。
「……まぁ、ボンドだったら確実に辞めさせてただろうね」
イトカがぽつりと呟く。敬称もつけずにボンドと呼んだ彼の声には、親しみと思い出が込められていた。
「でも、ボンドはもういないんだから。決断するのはあの子じゃないの?」
便乗して呼び捨てたエミレラが静かに晴を示した。
「わ、私が……?」
「あなたが、ティナをどうするか決めるのよ」
一気に注目が集まり、晴は口ごもった。そんな責任重大なことはできないし、正直したくもない。
エミレラの目は真剣だが、イトカとリグロはどこか同情が感じられる表情をしていた。晴にそんな決断をさせるのはあまりにも酷だと思ったのだ。
2人が口を開くより早く、メイが声をあげた。
「そんなの、お姫サマに決めさせないでよ。その子はまだ『お姫サマ』であって、王さまじゃないでしょ」
メイの口調は強く、芯が通っている。昨日の会話が頭をよぎったエミレラは不安そうに顔を曇らせた。
「鎧の任命と解任ができるのは、王だけのはずじゃん」
「それはそうだが……」
リグロが歯切れ悪く呟いた。その王がいないというのは前代未聞の話である。代わりができるのは同じ王族しか思いつかない。
イトカが微笑みながら言った。
「エミレラも、晴を王として認めるみたいだよ」
エミレラが真剣な表情で頷く。彼女の宣言を聞いていなかったリグロは、驚いて少し目を見開いた。
「そ、そうなのか」
リグロは未だ踏み切れない気持ちがあったために、エミレラの早い決断に感心した。晴が起こした行動や言葉が、彼女の心を大きく動かしたのだろう。
これでティナとエミレラ──5人の鎧のうちの2人が、晴の即位を認めたことになる。
メイは腕を組んで背もたれに体を預けた。
「おっさんはどうなの?」
「ん、ああ。俺もかなり前向きに考えてるんだが、これといった決め手がない気がしてな……。もちろん教会での晴は立派だったし、他のやつができないことを立派に成し遂げたと思ってる」
興味深そうに頷くと、メイはパッと顔を上げて言った。
「じゃあ、ボクからひとつ提案がある。結果によっては、おっさんの決断を後押しできるかもしれない」
「ほう?」
全員が注目する中、エミレラだけが険しい表情でじっと目線を送っている。メイはそれに気付きながらも躊躇わずに答えた。
「お姫サマに、リチボマイに行ってもらう」
「……は??」
聞き間違いかと思い、晴たちは唖然とした。
「リチボマイだと? 革民党の住み処に晴をぶっ込む気か?」
「うん」
信じられないといった表情のリグロに対し、メイはきっぱりと頷いた。
革民党の人間は晴に強い殺意を抱いている。ロユンから受けた警告は、晴もよく覚えている。
「……晴に何をさせようっていうの?」
抵抗を隠せない様子のイトカに対し、メイは平然と答えた。
「王都でやったのと同じことをするんだよ。彼らの文化や考え方を見てくるんだ。革民党だってコワの民でしょ、王になるためには必要なことだよ」
「でも、でも……」
晴の顔が青ざめる。メイの言い分ももっともだが、王族に対して根深い恨みを持つ人々の中に入っていくのは自殺行為だ。死んでしまったら元も子もない。
「私たちもついて行くのよね?」
エミレラが聞くが、メイは小さく首を振った。
「ボクたちは城から離れないほうがいい。今回のことで、鎧のいない城の弱さが露呈しちゃってる。次に全員留守にしたら、今度こそ何かに乗っ取られちゃうかもしれないよ」
メイは至って冷静だった。ザキの行方がわからない今は特に慎重になるべきだ。教会のような新たな集団が生まれないとも限らない。
だが晴は、すぐにでも行動するべきだ。
「晴に1人で行かせるつもり?」
「いくらなんでも危険すぎるわ」
イトカとエミレラが反論する。不安でいっぱいな晴の震える手に、隣に座っているセオシュが小さな手を重ねた。
「お姫サマの実力も測れるし、ちょうどいいでしょ」
「ふざけるな。晴の身に何かあったらどうするつもりだ」
「…………」
リグロとメイが睨み合う。メイはなんとも答えなかったが、鎧の仲間に反対されても考えを曲げる気はなかった。返事の代わりに釘を刺す。
「お姫サマがちゃんと革民党のことを知って帰ってきたら、ボクも承認すると約束するよ」
これが、メイの承認の条件だった。
(そ、そんな~~)
(無事に帰ってくることすら難しいぞ……)
(せめて私がついていくのは……いや、私がいたところで役に立たないかも)
弟子たちもそれぞれ思考を巡らせた。晴はコワに来て間もない無力な女の子だ。あまりにも危険すぎる。
ロユンが党首になってから少しは落ち着いたものの、リチボマイは争いの絶えない場所だ。鎧でさえ単身で行くことはない。
そんなリチボマイで晴が安全に過ごせる方法があるとすれば……最強の護衛を連れて行くことくらいだろう。
(ティナが行けば安心だろうけど)
(また暴走しなければな)
(党首さんとも仲良しですし)
何より、本人が絶対について行くと言いそうだ。3人は期待を込めてティナを見たが、なぜかティナは黙ったままだった。
「…………」
メイが考えを変えないのなら、決めるのは晴だ。口を挟んではいけないとティナも理解していた。まして自分は解雇されるかもしれない身である。
(……辞めさせられるのは、嫌だな)
ただ、そう思った。
誰も何も言わなくなってしまったので、晴は体を縮こませて俯いた。すかさずメイが畳み掛ける。
「晴、キミは前に言ったよね。ボクたち鎧の気持ちに応えたくなった、って。さあ、ボクの期待にも応えてみせなよ」
(確かに言ったけど……)
晴は目を泳がせた。
メイは本気だ。鎧の中で1番小柄で弱々しい見た目をしていながら、最も頑固と言っていいほど気の強い性格をしている。他の鎧たちも、もうメイに何を言っても無駄だと悟っていた。
そして、晴の目的が王になることである以上、断るという選択肢は無いも同然。
息苦しい沈黙の中、全員が晴の返事を待っていた。
「…………」
俯き加減にそれぞれの顔を伺う。
イトカとリグロは心配そうに眉を顰め、エミレラは複雑そうな表情である。ティナも珍しく深刻そうな顔をしており、弟子たちの顔には心配がはっきりと現れていた。
そして、メイはまっすぐと晴を見据えていた。
(私が死んだら、みんなも困るはずだし……、なんだかんだ助けてくれるよね……?)
晴はそんな甘い考えで、自分の中に鳴り響く警鐘を誤魔化した。そして、小さく息を吸い込む。
「……私、行くよ」
ただ張り詰めた場の空気を破るように、言った。
・
その頃、ティナたちが戦っていた部屋では復旧作業が行われていた。壁や床がなくなっているところもあるため、大掛かりな工事が必要なのだ。
「じゃ、今日はここまでだな。お疲れ様」
「お疲れ~」
夕方になり、作業員たちが次々に現場から離れていく。それぞれヘルメットを目深に被っているために、お互いの顔は見えづらくなっていた。
そんなとき、作業員の1人が他人の目を盗んで静かに集団から抜け出した。そのまま崩れかけの空間へと引き返す。
「…………」
不安定な足場を踏みしめながら、壊れた部屋の奥へと進む。そして、壁際に積もった瓦礫の前で立ち止まった。
彼は静かに瓦礫の山を見つめたのち、それを手でかき分け始めた。あるものを探すために。
尖った破片や重い壁の残骸たちを、苦労しながらひとつひとつ手で動かしていく。そうしてしばらく作業を続け、ひときわ大きな壁の欠片をどかしたときに目的のものが見つかった。
「!」
瓦礫に埋もれていた小さな包みだ。外箱は薄汚れて少し潰れているが、中身は無事らしい。
彼はそれを大事そうに拾い上げてポケットに仕舞うと、工事現場を後にした。
そして、二度とその場に現れることはなかった。
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