乗り鉄けもニキ

鷹尾(たかお)

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秋田の昔話“はり木石”

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男性とモトクマは、草木が生い茂る山の中に降り立った。

「よし、ギンさんも待ってくれている事だし、今回こそは早めに終わらせよう!」

男性はすぐそばにある窓ガラスのゲートを見た。
空中に浮かんでいるそれは、仮想空間と緑電車を繋ぐ出入り口である。
窓の向こうで、ギンとコイジイが何やら話しているのが見える。
しかし、声や電車の車輪の音は聞こえない。
聞こえるのは、仮想空間の木々が風に揺れて擦れる音と鳥の声だ。

「兄ちゃん、ギンの事は考えなくていいよ。あいつはあいつで、ワイプ見て遊んでいるから。」

モトクマが、横に手を振った。

「ワイプって?テレビみたいな?」

「そうそう。僕、本物のテレビ見たことないけど、きっとそう。窓ガラスの下の方がゲートとしてずっと、最初の地点を写しているんだ。んで、電車側から見ると、上の窓ガラスの部分にはワイプが出て、僕達の行動が映し出されているんだよ。」

「へー、そうなんだ。」

男性はゲートの方に向かって手を振りながら、大声で叫んだ。

「ギンさーん、行ってきまーす!」

精一杯アピールをしてみたが、ギンは気づかずコイジイと話し続けている。

「残念兄ちゃん。音は向こうまで届かないんだ。あと、向こうの音もこっちには聞こえないようになっているよ。」

「そうなのかー。じゃあ、アピールしても気づかないね。」

男性とモトクマは、ゲートを背にして先へ進んだ。



「なあ、モトクマ。今回はどう言う話なんだ?」

男性は歩きながら、この昔話のあらすじを確認した。

「えーっとねー。この昔話は“はり木石きいし”って言ってね、木こりに助けられた動物が、恩返し的な事をする話し。」

「へー。日本の昔話の王道ストーリーか。」

「あ、そうそう。この話にも山オジが出てくるよ!」

「え、黄色電車で会った人にまた会えるの?」

男性は前回の“大石”で会った、力持ちの大男を思い浮かべた。

「ううん、多分違う人物だよ。あ、でも、この仮想空間では人間達が想像する姿が反映されるから、見た目とか声はそっくりかもね。」

はり木石の昔話を知っている人間は、大体他の七不思議石の話も知っている。
7個セットで語られる事が多いため、似た登場人物がいれば、同じ姿を想像する人間も多いのだ。

「そっか、別人か。少し残念だな。」

今更ながら、大石の彼らにはもう会えないのだと思うと、男性は少し寂しい気持ちになった。
例え今から引き返して黄色電車に乗ったとしても、仮想空間がリセットされているので彼らに自分達の記憶は無い。
決められたストーリーが展開されても、からかい合った彼らはもういないのだ。

「一期一会だな。」

バーチャルの物語には、その期になれば何回でも触れられる事ができる。
だが、自分の解釈や気持ちによって登場人物達は色々な表情を見せる。
物語も、物語に触れる自分の心も、現実世界の旅と一緒で一期一会だ。

男性は、今後の昔話でもしっかり向き合って行こうと、改めて思い進んだ。


「あ、兄ちゃんいたよ!はり木石の主人公だ。」

モトクマの声にハッとして、男性は辺りを見回した。
……。
誰もいない。

「兄ちゃん上だよ!あっちの木の上!」

モトクマが指し示す方に目をやると、木の上で1人の男性が枝を切り落としていた。

「うわぁー、あんな高い所よく登るなぁ。」

口をあんぐり開けて上を見る男性に、モトクマは驚いた。

「いやいや、そこまで高くないじゃん。兄ちゃんもその格好だったら、同じぐらいまで登れるんじゃない?」

「いやいや、落ちて怪我するって!」

「痛~い…。」

「そうそう!痛~い事に…。え?今のモトクマ?」

「僕何も言ってないよー?」

2人の会話が一瞬止まった。

「う~。痛~い。」

「あっちから聞こえる。」

2人は声のする方へと近づいてみた。
見ると、主人公が登っている木の下には…。

「ギンさん!?」
「ギン?」

木の下には、白い毛の狐が一匹倒れていた。
どうやら後ろ足を怪我して動けないようである。

「どうしよう、モトクマ!早く手当てしなきゃ!」

すると、動揺する男性の頭に何かがコツンと当たり、跳ね返ったそれはモトクマの頭にも当たった。

「なんだこれ?」

地面を見ると、くしゃくしゃに丸められた紙が転がっている。
モトクマはそれを拾い、広げてみた。
何か文字が書かれている。

『それは俺じゃねえ!!』

男性は少し驚いてモトクマを見た。
モトクマはジト目をしている。

「え?これギンさんからの手紙?」

「そうみたいね。」

「確かに、よく見れば顔が違うかも。」

「そうだね。ギンはこんなにキレイな顔してないもん。毛の色も、ギンのくすんだ茶色とは全然違うキレイな白色だし。声もチャラいギンの声とは似てな…。」

コツン!

再び、どこからともなく飛んできた紙がモトクマに当たった。

『ふざけんなよ!』

コツン!

『これでも俺はモテるんだ!』

コツン!

『去年のバレンタインは、お前より多かったぞ!』

モトクマは紙が飛んでくる方に向かって、べーっと舌を出した。

「なあ、モトクマ。電車に俺たちの声は聞こえないんじゃなかったのか?こんなにコメントが投げ込まれているけど…。」

「ギンは、人間で言うところの“読唇術”みたいな物が、ちょっとだけできるんだよ。」

「へー!すごいですねギンさん!ちょっとカッコイイです!」

男性は紙が飛んでくる方に向けて、少し興奮したように言った。

……。

コツン!

『まあな』

照れてる。
絶対照れてる!
ギンのかわいい一面が見れた男性は、電車の中で照れているギンを想像して、クスッと笑った。
そして、コメント参加ではあるが、ギンを入れた3人で物語を旅する事ができるのが、とても嬉しくなった。

コツン!

『お前ら隠れろ』

「え?何でだろう。ねぇ、モトクマ。何でだと思う?」

男性が尋ねるとすぐに、木の上から声が聞こえてきた。

「あれ?どうした?お前狐か?」

主人公が白狐を見つけ、木の上から降りてくる。
モトクマはとっさに、男性の頭を林の中に押し込んだ。

「お前怪我してるじゃないか。ほら、こっちこーい。家で手当てしてやる。」

主人公は白狐を抱き抱え、山を歩いて行った。

「兄ちゃん危なかったね。主人公が白狐を助けるのじゃましちゃったら、恩返しの話が成立しなかったね。」

「あっ、そっか!だから隠れろって言ったのか。ありがとうギンさん。」

「ギンくん、君、役に立つじゃないか。その調子で頼むよ。」

偉そうな社長っぽい感じでモトクマが言った。
……。
反応が無い。
恐らく、一瞬照れた後に怒って一人で反論しているに違いない。
男性は電車内のギンを想像しながら、モトクマと一緒に主人公の後を追った。

しばらく歩くと、主人公と白狐は一件の家に入って行った。
家の扉がピシャリと閉まると、空や風に揺らぐ木々が目まぐるしく動き、まるで早送りをしているようになった。
太陽と月が交互に顔を出す。
4~5日たっただろうか。
早送りが徐々におさまり、ガラッと家の扉が開いた。
中からは、優しい顔で白狐を抱く主人公が現れた。
白狐は、もうすっかり怪我が治っているようである。
主人公は白狐を抱いたまま、林の奥へと入って行った。




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