剣道女子、アメリカへ渡る

春日あざみ

文字の大きさ
9 / 31

黒い熊(猫)とミツバチ

しおりを挟む
 A大の剣道部、という表現だと誤解がありそうなので、A道場(A大でやってる道場だから)と呼ぶことにします。

 日本の剣道道場とかだと、子どもが多い印象なのですが。A道場の剣士たちはだいたい20代~70代。女性は少なく、ほとんどが男性でした。

 段持ちは少なく、三段以上は「先生」と呼ぶ決まり。
 師範を勤める加藤先生は、五段とかそんな感じだった気がします。

 そんな中、日本での剣道経験者は確か三•四名。女性は私を含めて二名が段持ち。
(この辺、だいぶうろ覚えなので違うかもしれない……)

 稽古を始めてみて思ったのは、もちろん道場によるのかもしれませんが、結構形というか、剣道の戦い方という意味では荒削りな感じ。やっぱり、本場日本の道場と比べると、基礎鍛錬のレベルがすこし落ちるのかな、というのが正直な感想でした。

 ただ、もちろん、形がとってもきれいな人はいたし、強い人もいました。

 あとは、みんな一生懸命やっていて、純粋に剣道を楽しんでいる様子に好感が持てました。日本の道場で剣道やるより、和気あいあいとしていて、よっぽど楽しかった記憶があります。

 が、一つだけ、とっても大変なことがあったのです。

 それが、私の天敵、Black Bearボブとの稽古。
 見た目が格闘家のボブ・○ップに似ていたので、仮にボブとしておきましょう。
 彼は初段で、上段(常に竹刀を振り上げた状態で戦う構え)の剣士でした。

「日本から来て、しかも二段だって? お手合わせをお願いするよ」

 少々興奮気味でこちらにやってきたボブ。基礎練習が終わった後、稽古を申し込まれました。彼は初段ということで、段持ちの日本人との対戦が、とても楽しみだったようなのです。

 だがしかし。ボブは2m近い巨漢で、しかも元軍人。ムッキムキなのです。
 こちとら156cmの女子大生。いくら段持ちといえど、弱い部類の剣士だし、なにより、あんな筋肉だるまに体当りされたら死ぬ!

 とは思ってたんですが。
 練習中って、アドレナリン出まくってるし、気が大きくなってるんですよね……。おまけに負けず嫌いなもんで。「OK!」と元気よく答えてしまったのです。

 それ以来。そんな恵まれた体躯をしていたボブは、実は結構稽古の時避けられていて(特に彼より経験の浅い男性剣士に)。結構な頻度でボブの対戦相手になることに……。

「お前、すばしっこくてBumble bee(ミツバチ)みたいだな! 気に入った。また稽古申し込むぜえ」

 って感じで、ミツバチというあだなをつけられ、毎度滅多打ちされる羽目に。打ち込めば体当たりでふっとばされて宙を舞い、壁に叩きつけられ漫画のようにずり落ち。床に叩きつけられることもしばしば。

 でも若いって怖いのです。

「やったな! ミツバチミツバチうるさい! Black Bear、今に見てな!」

「威勢がいいじゃねえか。だが、俺はBlack Bear よりも、コードネームならBlack catが好みだがな! ミャーオ!」

「うおりゃあああ」

「こいやー!」

 毎回毎回、こんなバトル漫画かよ、と思うようなセリフを叫びながら、やられてもやられても、跳ね上がって立ち上がり、やつの首(コテ)を取ってやろうと襲いかかっていました。

 周りを見ている剣士たちは、結構ヒヤヒヤしていたらしく。(日本の道場のような、過酷な鍛錬とか暴力とかは行われないので……私はその辺りが結構麻痺してた)

 壁に叩きつけられるたび、「Hey, she is a girl! (女の子になんてことすんだ!)」と、優しい男性陣が止めに入ってくれていたのでした(結論、私が中断しないので、続行してましたが)。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...