王都ロッテンベルグ門の番人〜元引きこもりですが記憶力を武器に異世界で生き残ります〜

春日あざみ

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伝えたいこと

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 夕食の待ち合わせに現れたスーさんは、他の門番のようにだらけた感じの私服ではなく、スーツのようなかっちりとした服装をしていた。
 私はというと、ほぼ私服がないも同然で、流石に寝巻きで来るわけにはいかないので、門番の制服のままやってきている。それを見たスーさんはギョッとしていたが、特に何も言わなかった。

 適当な店に入るのかと思いきや、豪華なシャンデリアのかかったフレンチ料理店を思わせる高級店に連れられて入った。予約まで取ってあるらしい。

「なんか、すごいお店ですね」

「二人きりで食事のできる場所といったら、個室のある店しかない。そうなるとその辺の店では済まないだろう」

「スーさんの部屋とかでもよかったんですけど」

「は?!」

 なぜだろう。今日は上長がおかしい。お昼のお誘いをしてから、顔を合わせるたび赤くなるし、引きこもり時代の私なみに挙動不審な気がする。
 何かの認識が決定的にずれている気がする。

「お、お前。流石に、ちょっとそれはな……」

「取り替えず本題に入りましょう」

「切り替えが早すぎる」

 咳払いをしたスーさんは、頬を染めたまま、こちらを見た。

「どんとこい」

「はいでは。私が監視係を始めて4週間経ちましたが。活動家の手配書自体がすごく多いのに気がついたんです」

「ちょ、ちょ、ちょ、待て!」

「え?」

「お前がしたかった話って、仕事の話か?」

「仕事の話以外に、私がスーさんとしたい話ってあります?」

 そう言い放った瞬間、スーさんがヘナヘナと崩れ落ちた。

「……お前には振り回されてばかりだ」

 スーさんは片手で顔を覆うと、深いため息をつく。

「えー、そうですか?」

「そうだよ!」

 かしこまった雰囲気が崩れ、いつもの通りに戻ったスーさんは、適当に食事と酒を頼み始める。好みを聞かれたが、こんな店にはきたことがないので、彼に任せることにした。

「要は、仕事場で話せない話をしようとしてたわけだな」

「そうです。マツゲさんに聞いて、あんまり大っぴらに話せないことだってわかったので」

「マツゲ?」

「あの、いつもスーさんの指示でファイルと私が言った番号を照合してる、下まつ毛の長い……」

「ミゲルか。お前流石に三文字くらい覚えろよ」

「はい、そのうち覚えます」

「まったく……」

 スーさんは困った顔をしつつ、食事を口に放り込みながら話し始める。

「活動家の手配数が多いのは……国家の安全のためだ。国の方針に逆らう人間たちを捉え、安定した国家運営を行う。そうすることで平和は保たれる。ただ、魔術師の数が減り、これまでも放置され気味だった地方都市までケアがさらに疎かにはなってきている。そのために、自分たちになりに国を良くしようと独自に活動するものが増えてきているんだ」

「スーさんはその状況をどう捉えてるんですか? 国の指示通り、自分たちの生活を良くするために、必死に考えて活動している人たちを、有無を言わさず捕まえることが、正しいことだと思ってます?」

「それは……。なるほど、これがお前が『二人きりで』と言った理由か」

「スーさんの、本音が聞きたいんです」

 怖い顔で腕を組んでいるが、これは怒っている訳じゃないのはわかる。
 何をどこまで話すべきか、いや、そもそもこの議論を私相手にしてもいいのかを考えているのだ。

「お前には敵わない。どうせはぐらかしても、また正面から思い切りぶつかってくるんだろ」

「はい、すみません。空気読めないので」

 彼は呆れたように笑うと、体勢を崩す。

「まずは今、お前が考えていることを全部話してみろ。その後俺も自分の考えを伝えるとしよう」

「……はい!」

 聞く体勢になってくれたことが嬉しくて。
 私はスーさんに向けて、これまでの監視役の仕事、そして、今日の昼の間に追加で調べてきたことについて話し始めた。

「私が監視役になる以前から遡って資料を調べてたんですけど。『セイレーン』という名の機械技術ギルドに関係する活動家の確保数が最近増えてます。55番と40番、109番と207番……他にも」

「お前が監視を始める以前は、そもそも指名手配犯の確保数はそこまで多くなかったが……それでも、ちょっと多いな。セイレーンはこの国で一番大きな機械技術ギルドだが。最近は以前にも増して国にギルドに対する規制緩和を求める運動が活発になってる。魔術師数の減少を見て、今こそ機械技術を盛り上げていくべきだと考えてるんだろうな」

 眉根を寄せつつも、私の呟きに隣にいるスーさんが頷く。彼が同意してくれたことで、ちょっとだけ自分の意見に自信が持てた。頭の中で浮遊するデータを思い浮かべながら、私は続ける。

「ちなみに、機械技術ギルドって、具体的には何をやってるんですか? 私は単に資料で言葉を記憶してるんだけなんで、実際何をしている団体なのかは知らなくて」

「この国で一般的な機械、例えばヘテルみたいな魔道具は、魔力が必要なんだが。機械技術ギルドでは、魔法をまったく用いずに使える生活機器の開発なんかをやっている」

「え、そういうギルドがあるんですか。じゃあなんで……」

 疑問を最後まで口にする前に、私は結論に思い至る。自分の首元に手を置き、かちゃかちゃと首輪を弄んだ。
 多分、国王と魔術師の「メンツ」と「利益保護」の問題だ。
 機械技術ギルドに力を持たれては困るのだ。

 ただ、魔術師の減少問題を解決できない今、機械技術の発展は今後の経済発展を考えれば重要だ。でも、あの人たちがこれまで弾圧していた機械技術ギルドに、頭を下げることなんて考えられない。

(だから異世界の賢人を召喚して、自分たちで「最先端の機械」を開発しようとしてたわけだ。プライドが高くて笑っちゃうな、もはや)

「続々とセイレーンの活動家が門にやってきているところを見るに、嫌な予感がしますね。まだ情報が少なくて断定できないけど。暴動か何かを企んでいるのかも」

「そうだな……今はお前がいるから、首都への侵入はある程度防げているが。他の門では防げない。このまま仲間の捕縛が続けば、そのうちロッテンベルグ門以外の門からの侵入が増えるだろう。暴動がなんか起こしてみろ、セイレーンの奴ら、一発で縛首だ。俺も明日、他の門との連携を進めるとしよう。話してくれて助かった」

「いえ、どうしてもスーさんに伝えないといけない気がして。よかったです、時間をとってくださって」

「ちなみに、さっきのお前の質問。国家の安全のために、本来は罪なき一般人を捉えることを、どう考えているかってことだが。––––俺も、正しいとは思っていない。本来はこうしたギルドの考えを聞き、手を取り合いながら魔術に代わる技術も、国として発展させるべきだと思っている」

「でも?」

「やり方を間違えれば、俺の部下や親類に危害が及ぶ。宰相の甥とて、国王や魔術師などに目をつけられれば一捻りだ。国のあり方を変えるには、今は理不尽に目を瞑り、上を目指すしかない。だがせめて今回のこれは、起こる前に阻止しよう。罪なきギルドの人間を、俺だって殺したくはない」

(……スーさんはスーさんで、色々考えてんだな)

 塊の肉を頬張る。
 国のこの状況には腹がたつ。理不尽な扱いをされる人たちが可哀想だとも。それにそもそも、そうした王や魔術師の身勝手な政治のせいで、私だって巻き込まれてこんなところまで飛ばされてきたのだ。

「セイラ」

「むぐ?」

「お前、その肉切り分けて食べるやつだぞ……」

 スーさんがもう堪えきれないとばかりに吹き出す。
 初めて見る上長の笑みに、私は思わず見惚れてしまった。
 そんなに穏やかに笑えるのなら、いつもそうしていればいいのに。

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