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リア族の地下帝国と嗜好の食材
第86話
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沢山の家族に看取られてサヤはこの世を去った。齢八十なら十分大往生だと言われる時代に命の終わりを迎え、天に昇るものかと思っていた。
だか、気がつくとそこには沢山の赤ん坊を人よりも大きな蟻が管理している場所だった。
「あー? (これは夢かしら? でも、子や孫達の悲しそうな顔を未だに覚えているのに夢と考えるのも可笑しいわねぇ…それなら此処は何処かしら…上手く声も出せないわ…)」
必死に動こうとするが、体が言う事を聞かない。ふとその動かした手を見ると、やけに小さな掌が見える。まるで先日産まれたばかりの孫の掌の様だ。
「あーあー」
声を出すとまるで赤子の様に柔らかで可愛らしい音が口から出てくる。
「あーあー? (もしや生まれ変わったの? でも、こんな巨大な蟻なんて見た事ないわ…)」
すると一匹の蟻がサヤに近づいて来て声をかける。
「うん、美味そうなヒューマンだ。早く大きくなれよ!」
そう言いながら、壁に規則ただしく土を掘って作られた、小さな穴の中にいる赤子を順番に確認していく。サヤは蟻が話し耳に届いた言葉を聞き、一瞬にして理解する。
「うーあー! (蟻が人の言葉を!? それに…もしかして…人を育てて食べているの!?)」
だがもしそうだとしても、赤子のサヤにはどうする事も出来ない。恐怖に震えるが、今直ぐに食べるという事は無いらしく、毎日当たり前の様に蟻達が世話にやって来る。
「あーあー(そうよね…長生きしたものね…八十歳なんて長生きしちゃったから、次の人生は短いのかも。神様は、そうやって命の帳尻を合わせているのかもねぇ)」
ただ毎日の光景を見ながら疑問に思う。見渡す限りの土の窪みの中に見える赤子達は、泣く事もせずにみんなスヤスヤと眠っている。
「うーうー…(ご飯も排泄も泣く前に蟻達が世話に来てるわ…それに夜鳴きもしない。この子達も私も生きる楽しさを学ぶ事が無いまま生涯を終えるのね…)」
そんなある日の事、いつもの蟻達では無い少し年老いた様に見える蟻と、その部下の様な蟻が赤子達を見に来ていた。
「ぎぎっ隊長、今日は食事を抜いて腹ペコなんですよ。一匹食べても良いですか?」
「はぁ…全く、お前はわざと食事を抜いたんだろ? 人の子は中々食べる機会が無いからな」
そう言われた部下の蟻が嬉しそうに頷く。
「ばれましたか、いつもこの日が楽しみなんですよ。たまに生まれる知恵のある子の選別…」
「知恵のある子を食べるのはワシだ。だがそれ以外なら構わん、食い過ぎると担当に怒られるから控えめにしろよ」
「ぎぎっ分かっております。では、それ以外の頭が悪そうな子を…」
まるで食べたいものを迷う様にウロウロと歩いた部下蟻は、おもむろに赤ん坊を掴むと一口で食べてしまう。そしてそれを見たサヤは絶句する。
「っあ! (嘘! 本当に食べたの! 酷い!…怖い!)」
だが、その小さな声を見逃さなかったのは隊長と呼ばれた蟻である。
「うん? 今、恐怖を感じた赤ん坊がいるな…どいつだ?」
隊長蟻はキョロキョロと周りを見渡して赤子を一人づつ見て回る。
「……(お願い! こっちに来ないで!)」
サヤは恐怖のあまりに失禁してしまう。それが決め手となり、隊長蟻がサヤへと近づいて来る。
「ぁぁ…(ああ…見つかってしまった…)」
「恐怖で漏らしたか、ぎぎっ美味そうだな」
よだれを垂らす隊長蟻は、片手でサヤを掴むと直ぐさま食べずに部下蟻の方へ歩く。
「あぅぅ…(お願い助けて…)」
「いつまで食べてる、そろそろ担当が来る頃だぞ」
「ああ! すみません! つい美味しくって! 知恵の子は居ましたか?」
「一匹だけな、部屋でゆっくりと脳を啜るのが楽しみなんだよ。では行こうか」
大きく土をくり抜いた様な作りの部屋から二匹の蟻は外に出る。まるで洞窟を思わせる土の通路は、薄暗いコケの様な天井灯に照らされながら何処までも続いている。
「うえあぁうぅ…(生まれて半年程…本当に短い人生だったわ…何だか悲しくなってきた…)」
もちろんサヤは覚悟が出来ていた、抵抗する力すら無いのだから諦めるしか無い。しかしその覚悟とは裏腹に涙が込み上げてくる。
「うう…うわぁぁぁぁん! (やっぱり死にたく無いよぉぉぉ!)」
サヤが泣き出したその時だった、別の部屋から二匹の兵士を引き連れた真っ白な蟻が出てくる。
「珍しいな、赤ん坊の泣き声が聞こえる…ん? おいそこの兵士止まれ」
「はっはい! 何で御座いましょうか? クルタナ様!」
隊長蟻がビシッと背筋を伸ばし敬礼する。しかし片方のサヤを握っている手は背中に回し隠している。
「私が気が付かないと思っておるのか? 殺されたくなければ渡すのじゃ」
「ひっひぃ! もちろんです!」
隊長蟻は膝を付き、両手で泣いている赤子のサヤをクルタナと呼ばれる白い蟻に差し出す。
「おおぅヨシヨシ、泣かないでおくれ。可愛い顔が台無しじゃぞ…いつまで見ている、さっさと仕事に戻れ」
「はっはい! 失礼します!」
「失礼します!」
サヤを受け取ったクルタナがあやしている光景をじっと眺めていた隊長蟻とその部下蟻は、敬礼をして振り返る。そしてそのまま歩き出した。
「まったく……子を食うなど有り余る行為じゃ、本当なら許しがたいが…」
そんなクルタナの思いとは裏腹に小さな声が耳に届く、それは振り向いて去っていく部下蟻からだった。
「隊長……残念でしたね…知恵のある子を食べられなくて……」
「こらっ! 声を出すな!」
「まて貴様ら! 今の話はなんじゃ! 知恵のある子? それはどう言う意味じゃ?」
「えっその様な事申しておりません!」
「何だと? お前らは私に嘘をつくのか?」
隊長蟻達に近づくクルタナは、彼らよりも大きくそしてこの蟻の巣で唯一の女王の娘である。
「めめめ滅相もありません! なあ? お前も何か言え!」
「えっ! えと、私は知恵のある子は食べておりません! 食べたのは知恵の無い子です!」
その瞬間、ガシュッと音が響き部下蟻の頭が吹き飛ぶ。頭の無い部下が倒れると同時に、クルタナは血まみれの手を隊長蟻の頭に乗せクルタナは顔を近づけ尋ねる。
「知恵のある子とは何じゃ? 一度も聞いた事は無いぞ」
「おっお答え致します! なので殺さないで下さい!」
「答え次第じゃ、早く話せ」
「はい! とっ時折生まれるです、まるで何かを考えている様な赤ん坊が!」
「ほう、それでその子らはどうしたのじゃ? ん? この子をどうするつもりだったんじゃ?」
押し黙る隊長蟻にクルタナは尋ねる。
「私は人を食わない、何故だか知っているか?」
「いっいえ……分かりません……」
「美味そうにも見えないし食べる気も起きないからじゃ。別に人を食べなくても、他の物を食っても生きていける」
「でっですが…女王様が食べるのを認めているのですから……」
その話を聞いて隊長蟻の片腕が吹き飛ぶ。
「ぎぎゃううううう!」
「認めていても食えと強制はしておるまい。姿は違えども、私らも人なのだ。それをさも当たり前の様に人を飼育し食べるなど、それでは魔物と変わらん。いや、飼育している時点で魔物以下じゃな」
クルタナは部下に指示を与え、隊長蟻から背を向けて歩き出す。勿論手には泣きつかれて眠っている赤子のサヤがいる。
「殺せ、こんな奴が居ると気分が悪くなる」
「はっ」
「ひっ止めっ……!」
クルタナの一言で隊長蟻の体はバラバラになり命が終わる。そして自室に戻った彼女は赤子を両手で持ち上げて観察する。
「知恵のある子か……何処を見てそう思ったのじゃ……」
真剣に眺めるクルタナの目の前でサヤは目を覚ます。勿論目の前に巨大な白い蟻が現れて絶句している。
「あっ……(次は白い蟻……怖い!)」
「ほう、私を見て恐怖するのか。何故怖いと感じる? 恐怖など無い場所で生まれ、物心など付かずに命を終えるのに」
その話を聞きサヤは、ようやく座った首を振り答える。
「あーあー!(そんな事はありません! 人は恐怖するから生きていけるのです! って伝わらないですよね…)」
「おお、もしや言葉が理解出来るのか! これは面白い!」
「うーあーうー! (面白い? 目の前で赤子が食べられて面白い訳が無い!)」
「なんじゃ? 今度は怒っておるのか? 実に興味深い子が産まれたものだ! 良いかお前達、この人の子を傷つけたら私が許さん! 丁重に扱え、私の部下として育てる!」
「は!」
それからサヤはクルタナに大事に育てられスクスクと大きく育つ、しかしクルタナとその母親の女王との間には人を食うと言う問題で対立し徐々に言い合いが多くなっていく。
そしてサヤが十六位になった時だった、ついにクルタナが人よりも美味い最高の食材を探してくると言い巣を離れる事となる。
「クルタナ様……宜しいのですか? 女王様も本気でお嫌いになった訳では無いと思います」
「分かっている、だが建前上人を食う以外に母に選択肢は無い。だから、母やその周りが納得できる美味い食材を探してくれば良いのだ! 勿論繁殖出来ないと意味が無いが」
「私も微力ながらお手伝い致します! ですが…その…外の世界に出るのでしたら、何か着る物をお願い致します……」
「ぎぎっそうだな! 巣の上を通る冒険者たちの亡骸から好きなだけ取ると良い」
「クルタナ様! その様な言い方は駄目です。命が終わった者への感謝の気持ちを忘れてはいけません!」
「そうだったな、これからも色々と教えておくれ」
「勿論で御座います!」
その後、様々な国を回り見聞きして得た情報でジヴァ山のメメルメーと言う生物が最高の食材だと噂を聞き、捕獲しようと試みた。だが結果、クルタナとその部下達は奈落の氷の谷へ落とされてしまう。後悔もあったが、クルタナは満足していた。凍てつく氷に身も心も固まりかけた時にサヤが話しかけてきた。
「ク……クルタナさま……私…共に旅が出来て良かったです……また来世があるのなら…次はお友達として一緒に……」
「サ……ヤ……」
意識が無くなる前に見えたサヤの笑顔をクルタナも心から優しい笑顔で返した。そして透き通るような氷の中に閉じ込められたクルタナ達は、いずれ出会うイサム達の事など知る訳も無く命を終えた。
だか、気がつくとそこには沢山の赤ん坊を人よりも大きな蟻が管理している場所だった。
「あー? (これは夢かしら? でも、子や孫達の悲しそうな顔を未だに覚えているのに夢と考えるのも可笑しいわねぇ…それなら此処は何処かしら…上手く声も出せないわ…)」
必死に動こうとするが、体が言う事を聞かない。ふとその動かした手を見ると、やけに小さな掌が見える。まるで先日産まれたばかりの孫の掌の様だ。
「あーあー」
声を出すとまるで赤子の様に柔らかで可愛らしい音が口から出てくる。
「あーあー? (もしや生まれ変わったの? でも、こんな巨大な蟻なんて見た事ないわ…)」
すると一匹の蟻がサヤに近づいて来て声をかける。
「うん、美味そうなヒューマンだ。早く大きくなれよ!」
そう言いながら、壁に規則ただしく土を掘って作られた、小さな穴の中にいる赤子を順番に確認していく。サヤは蟻が話し耳に届いた言葉を聞き、一瞬にして理解する。
「うーあー! (蟻が人の言葉を!? それに…もしかして…人を育てて食べているの!?)」
だがもしそうだとしても、赤子のサヤにはどうする事も出来ない。恐怖に震えるが、今直ぐに食べるという事は無いらしく、毎日当たり前の様に蟻達が世話にやって来る。
「あーあー(そうよね…長生きしたものね…八十歳なんて長生きしちゃったから、次の人生は短いのかも。神様は、そうやって命の帳尻を合わせているのかもねぇ)」
ただ毎日の光景を見ながら疑問に思う。見渡す限りの土の窪みの中に見える赤子達は、泣く事もせずにみんなスヤスヤと眠っている。
「うーうー…(ご飯も排泄も泣く前に蟻達が世話に来てるわ…それに夜鳴きもしない。この子達も私も生きる楽しさを学ぶ事が無いまま生涯を終えるのね…)」
そんなある日の事、いつもの蟻達では無い少し年老いた様に見える蟻と、その部下の様な蟻が赤子達を見に来ていた。
「ぎぎっ隊長、今日は食事を抜いて腹ペコなんですよ。一匹食べても良いですか?」
「はぁ…全く、お前はわざと食事を抜いたんだろ? 人の子は中々食べる機会が無いからな」
そう言われた部下の蟻が嬉しそうに頷く。
「ばれましたか、いつもこの日が楽しみなんですよ。たまに生まれる知恵のある子の選別…」
「知恵のある子を食べるのはワシだ。だがそれ以外なら構わん、食い過ぎると担当に怒られるから控えめにしろよ」
「ぎぎっ分かっております。では、それ以外の頭が悪そうな子を…」
まるで食べたいものを迷う様にウロウロと歩いた部下蟻は、おもむろに赤ん坊を掴むと一口で食べてしまう。そしてそれを見たサヤは絶句する。
「っあ! (嘘! 本当に食べたの! 酷い!…怖い!)」
だが、その小さな声を見逃さなかったのは隊長と呼ばれた蟻である。
「うん? 今、恐怖を感じた赤ん坊がいるな…どいつだ?」
隊長蟻はキョロキョロと周りを見渡して赤子を一人づつ見て回る。
「……(お願い! こっちに来ないで!)」
サヤは恐怖のあまりに失禁してしまう。それが決め手となり、隊長蟻がサヤへと近づいて来る。
「ぁぁ…(ああ…見つかってしまった…)」
「恐怖で漏らしたか、ぎぎっ美味そうだな」
よだれを垂らす隊長蟻は、片手でサヤを掴むと直ぐさま食べずに部下蟻の方へ歩く。
「あぅぅ…(お願い助けて…)」
「いつまで食べてる、そろそろ担当が来る頃だぞ」
「ああ! すみません! つい美味しくって! 知恵の子は居ましたか?」
「一匹だけな、部屋でゆっくりと脳を啜るのが楽しみなんだよ。では行こうか」
大きく土をくり抜いた様な作りの部屋から二匹の蟻は外に出る。まるで洞窟を思わせる土の通路は、薄暗いコケの様な天井灯に照らされながら何処までも続いている。
「うえあぁうぅ…(生まれて半年程…本当に短い人生だったわ…何だか悲しくなってきた…)」
もちろんサヤは覚悟が出来ていた、抵抗する力すら無いのだから諦めるしか無い。しかしその覚悟とは裏腹に涙が込み上げてくる。
「うう…うわぁぁぁぁん! (やっぱり死にたく無いよぉぉぉ!)」
サヤが泣き出したその時だった、別の部屋から二匹の兵士を引き連れた真っ白な蟻が出てくる。
「珍しいな、赤ん坊の泣き声が聞こえる…ん? おいそこの兵士止まれ」
「はっはい! 何で御座いましょうか? クルタナ様!」
隊長蟻がビシッと背筋を伸ばし敬礼する。しかし片方のサヤを握っている手は背中に回し隠している。
「私が気が付かないと思っておるのか? 殺されたくなければ渡すのじゃ」
「ひっひぃ! もちろんです!」
隊長蟻は膝を付き、両手で泣いている赤子のサヤをクルタナと呼ばれる白い蟻に差し出す。
「おおぅヨシヨシ、泣かないでおくれ。可愛い顔が台無しじゃぞ…いつまで見ている、さっさと仕事に戻れ」
「はっはい! 失礼します!」
「失礼します!」
サヤを受け取ったクルタナがあやしている光景をじっと眺めていた隊長蟻とその部下蟻は、敬礼をして振り返る。そしてそのまま歩き出した。
「まったく……子を食うなど有り余る行為じゃ、本当なら許しがたいが…」
そんなクルタナの思いとは裏腹に小さな声が耳に届く、それは振り向いて去っていく部下蟻からだった。
「隊長……残念でしたね…知恵のある子を食べられなくて……」
「こらっ! 声を出すな!」
「まて貴様ら! 今の話はなんじゃ! 知恵のある子? それはどう言う意味じゃ?」
「えっその様な事申しておりません!」
「何だと? お前らは私に嘘をつくのか?」
隊長蟻達に近づくクルタナは、彼らよりも大きくそしてこの蟻の巣で唯一の女王の娘である。
「めめめ滅相もありません! なあ? お前も何か言え!」
「えっ! えと、私は知恵のある子は食べておりません! 食べたのは知恵の無い子です!」
その瞬間、ガシュッと音が響き部下蟻の頭が吹き飛ぶ。頭の無い部下が倒れると同時に、クルタナは血まみれの手を隊長蟻の頭に乗せクルタナは顔を近づけ尋ねる。
「知恵のある子とは何じゃ? 一度も聞いた事は無いぞ」
「おっお答え致します! なので殺さないで下さい!」
「答え次第じゃ、早く話せ」
「はい! とっ時折生まれるです、まるで何かを考えている様な赤ん坊が!」
「ほう、それでその子らはどうしたのじゃ? ん? この子をどうするつもりだったんじゃ?」
押し黙る隊長蟻にクルタナは尋ねる。
「私は人を食わない、何故だか知っているか?」
「いっいえ……分かりません……」
「美味そうにも見えないし食べる気も起きないからじゃ。別に人を食べなくても、他の物を食っても生きていける」
「でっですが…女王様が食べるのを認めているのですから……」
その話を聞いて隊長蟻の片腕が吹き飛ぶ。
「ぎぎゃううううう!」
「認めていても食えと強制はしておるまい。姿は違えども、私らも人なのだ。それをさも当たり前の様に人を飼育し食べるなど、それでは魔物と変わらん。いや、飼育している時点で魔物以下じゃな」
クルタナは部下に指示を与え、隊長蟻から背を向けて歩き出す。勿論手には泣きつかれて眠っている赤子のサヤがいる。
「殺せ、こんな奴が居ると気分が悪くなる」
「はっ」
「ひっ止めっ……!」
クルタナの一言で隊長蟻の体はバラバラになり命が終わる。そして自室に戻った彼女は赤子を両手で持ち上げて観察する。
「知恵のある子か……何処を見てそう思ったのじゃ……」
真剣に眺めるクルタナの目の前でサヤは目を覚ます。勿論目の前に巨大な白い蟻が現れて絶句している。
「あっ……(次は白い蟻……怖い!)」
「ほう、私を見て恐怖するのか。何故怖いと感じる? 恐怖など無い場所で生まれ、物心など付かずに命を終えるのに」
その話を聞きサヤは、ようやく座った首を振り答える。
「あーあー!(そんな事はありません! 人は恐怖するから生きていけるのです! って伝わらないですよね…)」
「おお、もしや言葉が理解出来るのか! これは面白い!」
「うーあーうー! (面白い? 目の前で赤子が食べられて面白い訳が無い!)」
「なんじゃ? 今度は怒っておるのか? 実に興味深い子が産まれたものだ! 良いかお前達、この人の子を傷つけたら私が許さん! 丁重に扱え、私の部下として育てる!」
「は!」
それからサヤはクルタナに大事に育てられスクスクと大きく育つ、しかしクルタナとその母親の女王との間には人を食うと言う問題で対立し徐々に言い合いが多くなっていく。
そしてサヤが十六位になった時だった、ついにクルタナが人よりも美味い最高の食材を探してくると言い巣を離れる事となる。
「クルタナ様……宜しいのですか? 女王様も本気でお嫌いになった訳では無いと思います」
「分かっている、だが建前上人を食う以外に母に選択肢は無い。だから、母やその周りが納得できる美味い食材を探してくれば良いのだ! 勿論繁殖出来ないと意味が無いが」
「私も微力ながらお手伝い致します! ですが…その…外の世界に出るのでしたら、何か着る物をお願い致します……」
「ぎぎっそうだな! 巣の上を通る冒険者たちの亡骸から好きなだけ取ると良い」
「クルタナ様! その様な言い方は駄目です。命が終わった者への感謝の気持ちを忘れてはいけません!」
「そうだったな、これからも色々と教えておくれ」
「勿論で御座います!」
その後、様々な国を回り見聞きして得た情報でジヴァ山のメメルメーと言う生物が最高の食材だと噂を聞き、捕獲しようと試みた。だが結果、クルタナとその部下達は奈落の氷の谷へ落とされてしまう。後悔もあったが、クルタナは満足していた。凍てつく氷に身も心も固まりかけた時にサヤが話しかけてきた。
「ク……クルタナさま……私…共に旅が出来て良かったです……また来世があるのなら…次はお友達として一緒に……」
「サ……ヤ……」
意識が無くなる前に見えたサヤの笑顔をクルタナも心から優しい笑顔で返した。そして透き通るような氷の中に閉じ込められたクルタナ達は、いずれ出会うイサム達の事など知る訳も無く命を終えた。
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