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第6話 まさかの遭遇

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「くそっ。この森は広いだけで何も食べ物がないじゃないか……」

 もうかれこれ2時間近くは歩いているというのに、食べられそうな植物はまず見かけないし、ましてや動物なんて一回も見ていない。

「こんなに緑豊かで深い森なのに、どういうわけだこれは……」

 俺はただ単純に生き物が枯渇しているこの森のことを不思議に思った。

 これは何かがおかしい。

 そのような疑念が確信めいたものへと徐々に変わっていく。


「もうこの森のなかに食べ物があるとは考えない方がいいかもしれないな。だとすると、俺は早くこの森を抜けだす必要があるというわけか……」


 今後の方針を空腹のなかで一生懸命に考えているときだった。


「み、み、見つけたぞっ!!!!」

「お前は……」

「俺からそう簡単に逃げられると思ったら大間違いだぞ。こんなにおいしそうな幼女を逃がすほど俺は愚かではないっ。か、覚悟しろっ!!」

 ものすごい形相でこちらを睨んでくる、あの監禁おじさんが目の前に出現した。

「ど、どうして……。ここがわかったの??」

 俺の口調が少しだけ幼女らしくなる。やはり対人すると俺の心も幼女化するようだ。

 心の中に恐怖心が再び芽生え始める。

 怖い。

 このままでは、またあの家に連れ戻される。

 そして最終的に私は、あの汚いおじさんの……


「そんなの俺が幼女が大好きだからに決まってるじゃないか。幼女が好きで好きで好きで好きで堪らない……この俺から逃げられるはずがないだろう?」

 おじさんの無精ひげの生えた汚い顔がニチャァっと醜く歪む。

「ひっっ」

 俺は恐怖のあまり引きつった声を出してしまう。

 俺はこのまま、あの汚いおじさんの所有物になってしまうのか??

 せっかくこんなに可愛い幼女に転生したというのに、そんな結末でもいいのか??

 悔しくないのか??

 俺は心のなかで恐怖に怯えながらも自問自答する。

 そして……

「そんなの絶対に嫌だ!!!!」

 大きな声でそう叫んだ瞬間。

 私の体からは黄金の輝きが放たれた。

 何万もの細かい光の粒子が私の周りを隙間なく覆いつくす。

 そして優しい温かい声が心のなかから響いてくる。


「私の力を貸してあげるね」

「えっ……何なのこれ……」

「ふふふ……困惑するのも当然だわ」

「あ、あなたは誰なの??」

「ふふふ、そうね。今はまだその質問には答えられないかしら」

「ど、どうして私を助けてくれるの」

「……ただ、これだけは確かよ。私はあなたの味方。だから、今この瞬間を大切に生き抜いて欲しい」

「あなたは味方なのね?」

「ええ……そうよ。だから、あなたは今すべきことをしなさい。それに対して私は力を貸してあげる」

「どうして味方になってくれるの?」

「それじゃあ、頑張って……ね」

「まっ、待って!!!!」

 声が消えると同時に回りを覆っていた黄金の光の粒子は霧散していった。


「な、なんだったんだ、い、今のは??」


 目の前では鼻息を荒くしたおじさんが目を血走らせてこちらを見つめている。


「な、な、何をしていたんだ!!! 答えろ!!!!」


 おじさんの興奮しきった声が耳にキンと響く。


「怖いけど、このおじさんをはやくどうにかしないと……」


 俺は混乱してまとまらない思考のなかでこのおじさんに対処しなくてはならないようだ。

 今はあれこれ考えずに目の前のことに集中だ。

 俺はこの幼女の体を、幼女として生まれ変わった自分を無駄にしたくない。


「よしっやるぞ!!!」

 俺は幼女の可愛い声でそう意気込むのだった。
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