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昔話1 ロビンの話
Good fellows' Robin 1
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妖精の取り替え子。
それ自体はヨーロッパで広く語られる伝承だ。
グリム童話39話目の「ヴィヒテルマン」。
小人にまつわる三つの短い話で構成された内の一つは今日日本に広まっている「小人と靴屋」であるが、そうではない話の一方は、その妖精の取り替え子によって取られた我が子を、妖精を笑わせることで取り返すという平和極まりない話である。
けれど、取られた我が子を取り返す方法の多くは、そう平和ではない。
妖精達の厭う鉄を、火を、時には両を合わせた真っ赤に焼けた鉄を、使うのだ。
◆
ロビンと出会ったのは二十年近く前のこと。
当時、祖母が亡くなり、後ろ盾のない僕をこれ幸いとばかりに蹴落そうとするやつは沢山いた。
それに嫌気が差して、そして、数少ない僕の言うことを理解してくれた人の薦めもあって、ふらりと旅に出ていたその時だ。
――そうだ、妖精と幽霊と鵞鳥婆さんの本場、行こう。
と、思ったんだか、なんだったか。とりあえず紅茶と紳士の国に滞在した時の話だ。
ちょっとばかり伝手を辿って、その道の人にお世話になったりしながら、個人的に魔女宗は微妙に肌に合わんかもな、と思っていた頃合だった。
ただ、当時の下宿先での頼まれ事を終えて帰り道を歩いていた途中、その次の瞬間には、ぞわりと鳥肌が立って、反射的に振り返っていた。
その先に、背の低い痩せぎすの、麦藁のような髪で目を隠すようにした十足らずの小柄な少年――当時のロビンが怯えたように立っていた。
その服装はけっして綺麗とは言えず、うっすらと煤けてすらいた。
当時から、あんな理論を掲げ、しかも自分の能力が能力な上にその理論で補強してるようなものなので、広範にそうした知識を蓄えていた僕の脳裏には一つの単語が過ぎった。
――邪視?
その瞬間、興味が湧いた。
だから、怯えと驚きで固まっている少年の方に、ひょこひょこと警戒心を解いてもらえるように戯けたつもりで寄っていく。
「ねえ、キミ」
「ひっ……ごめんなさい!」
けれど、彼はそう言って、脱兎の如く、稲妻の素早さで逃げていってしまったのだった。
一人取り残された僕は、不審者に対する対応としては最上ではないまでも、上々の対応であると感心したものである。
残念ながら、自分が不審者である自覚ぐらいはある。いい大人として、それぐらいは備えている。
そうして、まだ名も知らなかったロビン少年の背を見送って、下宿先に帰った僕は、近所の子ならば見当がつくだろうかと、家主のシンシアに尋ねた。
「邪視まがいの視線に、金髪? ああ、そりゃあ、この辺だと一人しかいないね」
――善き隣人達に気に入られたロビンだろね。
紫煙を燻らせて、シンシアはやるせないように目を細めた。
それ自体はヨーロッパで広く語られる伝承だ。
グリム童話39話目の「ヴィヒテルマン」。
小人にまつわる三つの短い話で構成された内の一つは今日日本に広まっている「小人と靴屋」であるが、そうではない話の一方は、その妖精の取り替え子によって取られた我が子を、妖精を笑わせることで取り返すという平和極まりない話である。
けれど、取られた我が子を取り返す方法の多くは、そう平和ではない。
妖精達の厭う鉄を、火を、時には両を合わせた真っ赤に焼けた鉄を、使うのだ。
◆
ロビンと出会ったのは二十年近く前のこと。
当時、祖母が亡くなり、後ろ盾のない僕をこれ幸いとばかりに蹴落そうとするやつは沢山いた。
それに嫌気が差して、そして、数少ない僕の言うことを理解してくれた人の薦めもあって、ふらりと旅に出ていたその時だ。
――そうだ、妖精と幽霊と鵞鳥婆さんの本場、行こう。
と、思ったんだか、なんだったか。とりあえず紅茶と紳士の国に滞在した時の話だ。
ちょっとばかり伝手を辿って、その道の人にお世話になったりしながら、個人的に魔女宗は微妙に肌に合わんかもな、と思っていた頃合だった。
ただ、当時の下宿先での頼まれ事を終えて帰り道を歩いていた途中、その次の瞬間には、ぞわりと鳥肌が立って、反射的に振り返っていた。
その先に、背の低い痩せぎすの、麦藁のような髪で目を隠すようにした十足らずの小柄な少年――当時のロビンが怯えたように立っていた。
その服装はけっして綺麗とは言えず、うっすらと煤けてすらいた。
当時から、あんな理論を掲げ、しかも自分の能力が能力な上にその理論で補強してるようなものなので、広範にそうした知識を蓄えていた僕の脳裏には一つの単語が過ぎった。
――邪視?
その瞬間、興味が湧いた。
だから、怯えと驚きで固まっている少年の方に、ひょこひょこと警戒心を解いてもらえるように戯けたつもりで寄っていく。
「ねえ、キミ」
「ひっ……ごめんなさい!」
けれど、彼はそう言って、脱兎の如く、稲妻の素早さで逃げていってしまったのだった。
一人取り残された僕は、不審者に対する対応としては最上ではないまでも、上々の対応であると感心したものである。
残念ながら、自分が不審者である自覚ぐらいはある。いい大人として、それぐらいは備えている。
そうして、まだ名も知らなかったロビン少年の背を見送って、下宿先に帰った僕は、近所の子ならば見当がつくだろうかと、家主のシンシアに尋ねた。
「邪視まがいの視線に、金髪? ああ、そりゃあ、この辺だと一人しかいないね」
――善き隣人達に気に入られたロビンだろね。
紫煙を燻らせて、シンシアはやるせないように目を細めた。
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