怪異から論理の糸を縒る

板久咲絢芽

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昔話1 ロビンの話

How many miles to Babylon? 4

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「祝福って、何を言ってんだい」
呪いmalediction祝いbenedictionも、方向性が違うだけの同じものってことだよ。もともと、方向性が定まっていないのが呪いmaledictionの方に振れてるから、祝いbenedictionにする」

さっきから、眉間のしわの深さをシンシアの理解度の指標にしている気がする。
大変申し訳ない。申し訳ないが仕方ない。

「いろんな話において、祝福とそれに準じる正当性のある能力はそれをおごらない限り当人を害しはしない。つまるところ、祝福ってことにすれば、それにまつわる負の影響力はなくなる」
「待ってくれ、待ってくれ、せめて具体例を出して」
「えー、ギリシャ神話のベレロポーンとペガサスとか? 昔話だとちょっと多すぎるんだよなあ」

脳内でのしぼみ検索がなかなかうまくいかない。
ちょっと抽象的すぎるもんね。
そう思いながら、手近の椅子に座って、足を組む。

「そもそもとして、一般的に英語で言う祝福blessはゲルマン系言語の血で清めるってのが語源だろ? それってどちらかといえば呪術だぜ? それに祝福を意味する語彙blessやbenedictionより、圧倒的に呪いを意味する語彙curseやcharmやglamourやspellやmalediction、etcの方が多いってことは本来的には区別すらなかったって可能性も高いだろ? 魔術における白魔術と黒魔術の違いみたいなもんだ」
「ああ、もう、詰め込んでくるんじゃないよ!」

詰め込んで破裂するなら風船かな、なんていう連想が出てきたのをす。
まあ、普通はそうなるのか、そうか。

「……えー、じゃあ、ラテン語系の呪いmalediction祝いbenedictionもどっちも、言うdicereに対して、副詞形の悪いmalus良いbonusがついただけじゃないか」
「……ちょっと混乱したが、ようは、あんたはどっちもモノとしては同じだって言いたいんだろ? お得意の理論と同じってことだ」
「あ、うん、そうそう。それが直接人に作用するか、方向性のある何か意思あるものとして人に接触して作用するかのちが」
「それを! 最初に! お言い!」

怒られた。とうとうさえぎられて怒られた。
いや、シンシアはよく今まで僕の言葉をさえぎらなかったと思う。堪忍袋かんにんぶくろの緒が長い。ありがたい。

「で? ロビンにそれをするって?」
「うん。だから、僕の仮説に対してシンシアに反証して欲しい。反証が成り立てば、その仮説は使えない。それで絞り込んでから、一番安全かつ可能性の高い理論に落とし込みたい……まあ、文化の奥の無意識を探る作業になるから、違和感がある時点で声挙げてもらえればいいよ」
「そうすると、どうなるのさ?」
からの悪影響を抑《おさ》えられる。の悪影響も含めてね」

ただ、向こうもただじゃ転ばないだろう。

「でも、論理を作っただけじゃ起きた事態に遡及そきゅうして対応はできない。だから、最終的にはして、この転換とロビンのお母さんの救助をする」
「交渉って、まさか」

シンシアがまた眉根を寄せている。
しわがクセになるんじゃなかろうか。
ちょっと心配になってきた。

に決まってるだろ?」

シンシアの顔が今までで見たことがないほどしわくちゃになった。
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