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昔話1 ロビンの話
How many miles to Babylon? 8
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◆
「ガーデンテーブルよーし、お茶よーし、お茶菓子よーし、ロビンのスタンバイよーし」
というわけで当然の流れとして、シンシアの家の庭の隅に置いたガーデンテーブルとその上に乗ったお茶とお茶菓子、そしてちょっと離れたニワトコの木の下のロビンをそれぞれ指差し確認する僕なのだった。
シンシアはバックアップ要員扱いで、とりあえず例の結界を張ったままのリビングダイニングの窓から覗いててもらう。
ちなみに、ロビンにはまず手折ったニワトコの枝を握ってもらってからここに連れてきた。ここまで来て、そこは抜かりない。
空は良い具合にオレンジに染まっている。日本で言えば、誰そ彼時。
お誂え向きとしか言いようがない。
「ロビン、いくつか質問したとしても、キミは正直に、思う通りにはいと答えてくれればいいからね」
「うん」
口を真一文字に結んで、真剣な表情でロビンは頷いた。
最初を思えば、相当心を開いてくれている。それなら、その信頼には答えたいところ。
本気のスイッチを入れるために、未だ見えぬ棘が潜んだようなひりひりとする空気を大きく吸った。
「そらみつ、やまとは、あをやぎの、かづらきやまの、のもりのかがみ、ますみかがみの、きよらなる、うきよをのべかがみしてましませば、まがこと、よごと、おしなべて、ただひとことに、ことさきたまへるおんみこそ、おほかみなるべしと、おほぶねのおもひたのみに、かけまくもかしこみて、ここにのりたてまつる」
目を閉じれば、苔のような、山中の沢のような、懐かしい匂いが空気に混じる。
余分な気負いが全て抜けて、自然と唇が弧を描いた。
「妖精の国まで何マイル?
一マイルすらありゃしない!
五月の初め、夜明けの野原、
乙女を洗う露宿すはサンザシ
もしも、あなたが望むのならば、ろうそくの光で往復できる!」
ざあざあと風が木立を揺らす音。ロビンが息を飲む音。
そして、何よりも、空気の圧迫感の度合いが変わったことで成功を確信して、目を開く。
「ご機嫌よう、異邦人にもかかわらず、旧き夜の嵐の厳めしき匂い纏う者」
甘さと青臭さの入り混ざった清涼な香りと共に、絶世の美女と言うべき女性が一人、そこに立っていた。
白く軽い布地の貫頭衣をベースとしていそうな服は柔らかく無数のドレープを作って芝の上に落ちている。
緩やかにカーブを描きながら、吹いていない風に靡く髪は燃えるように赤く長く、毛先に行くほどに色素が薄くなっていて金に見えた。
笑みらしきものを湛えてこちらを見る目は緑のようで、青のようで、赤のようで、つまりは玉虫色だった。
――あれ、これ想定していたよりも、ずっと大変そうな気がする。
そんな思いを飲み込んで、僕はにっこりと笑って見せた。
「ご機嫌麗しゅう、旧く久しき御方。此方の招きに応じていただき、光栄の極みです……お名前をお伺いしても?」
異邦人と向こうが言っているのだ。多少の目こぼしはしてくれるだろう。
そんな打算で、禁忌を犯す。地雷原の際でタップダンスだ。
彼女はころころと可笑しそうに笑った。
「ガーデンテーブルよーし、お茶よーし、お茶菓子よーし、ロビンのスタンバイよーし」
というわけで当然の流れとして、シンシアの家の庭の隅に置いたガーデンテーブルとその上に乗ったお茶とお茶菓子、そしてちょっと離れたニワトコの木の下のロビンをそれぞれ指差し確認する僕なのだった。
シンシアはバックアップ要員扱いで、とりあえず例の結界を張ったままのリビングダイニングの窓から覗いててもらう。
ちなみに、ロビンにはまず手折ったニワトコの枝を握ってもらってからここに連れてきた。ここまで来て、そこは抜かりない。
空は良い具合にオレンジに染まっている。日本で言えば、誰そ彼時。
お誂え向きとしか言いようがない。
「ロビン、いくつか質問したとしても、キミは正直に、思う通りにはいと答えてくれればいいからね」
「うん」
口を真一文字に結んで、真剣な表情でロビンは頷いた。
最初を思えば、相当心を開いてくれている。それなら、その信頼には答えたいところ。
本気のスイッチを入れるために、未だ見えぬ棘が潜んだようなひりひりとする空気を大きく吸った。
「そらみつ、やまとは、あをやぎの、かづらきやまの、のもりのかがみ、ますみかがみの、きよらなる、うきよをのべかがみしてましませば、まがこと、よごと、おしなべて、ただひとことに、ことさきたまへるおんみこそ、おほかみなるべしと、おほぶねのおもひたのみに、かけまくもかしこみて、ここにのりたてまつる」
目を閉じれば、苔のような、山中の沢のような、懐かしい匂いが空気に混じる。
余分な気負いが全て抜けて、自然と唇が弧を描いた。
「妖精の国まで何マイル?
一マイルすらありゃしない!
五月の初め、夜明けの野原、
乙女を洗う露宿すはサンザシ
もしも、あなたが望むのならば、ろうそくの光で往復できる!」
ざあざあと風が木立を揺らす音。ロビンが息を飲む音。
そして、何よりも、空気の圧迫感の度合いが変わったことで成功を確信して、目を開く。
「ご機嫌よう、異邦人にもかかわらず、旧き夜の嵐の厳めしき匂い纏う者」
甘さと青臭さの入り混ざった清涼な香りと共に、絶世の美女と言うべき女性が一人、そこに立っていた。
白く軽い布地の貫頭衣をベースとしていそうな服は柔らかく無数のドレープを作って芝の上に落ちている。
緩やかにカーブを描きながら、吹いていない風に靡く髪は燃えるように赤く長く、毛先に行くほどに色素が薄くなっていて金に見えた。
笑みらしきものを湛えてこちらを見る目は緑のようで、青のようで、赤のようで、つまりは玉虫色だった。
――あれ、これ想定していたよりも、ずっと大変そうな気がする。
そんな思いを飲み込んで、僕はにっこりと笑って見せた。
「ご機嫌麗しゅう、旧く久しき御方。此方の招きに応じていただき、光栄の極みです……お名前をお伺いしても?」
異邦人と向こうが言っているのだ。多少の目こぼしはしてくれるだろう。
そんな打算で、禁忌を犯す。地雷原の際でタップダンスだ。
彼女はころころと可笑しそうに笑った。
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