怪異から論理の糸を縒る

板久咲絢芽

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昔話1 ロビンの話

Arthur O'Bower 9

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「ああ、でもさ、なんか右目から入って来る情報がやたら細かい気がするんだよね。いや、呪いだし祝福だって言われたから、まあ、そういうことかな」

そう言ってのければ、シンシアがため息をついた。

「……いいのかい」
「何が? 首を突っ込んだのは僕だもの」

そう返せば、シンシアがひたいに手を当てて、またため息をついた。
シンシアにとっては他人事なのだから、そうも深刻に受け止めずともいいのだと思いながら笑顔を作る。

「それに右目は生きてるわけだし」
「……あんたの事情を、知らないでもないから、軽々しく言うことはできないけどさ、普通は、貧乏くじって言うやつだよ」

反論はできない。確かに、それはそうだろう。
それでも、僕がたとえそれが棺桶かんおけだろうと突っ込んだのは。

「……うん、まあ、ロビンに自己投影してたのは認めるよ」

神隠し。実母とのすれ違い。祖母との確執かくしつ
内容や順番こそ違えど、それらのキーワードは全て僕にも当てはまるのだ。
駆け落ちして、最終的に自身が仕えていた神に僕を託して死んだ母。
そうして守られたとはいえ、祖母自身が認めなかった父の血を引いているせいか、常に必要最低限の接触しかしなかった祖母。
父は、母が死ぬ前に死んだので、僕は覚えていない。

「だから、事が大きくなる前に対処できた事の方が、僕には大事だよ」
「そうもはっきり言われると困るね。あんたは、そういう自覚を持ってそう動くから、余計に厄介やっかいなんだ」

見てるこっちの身にもなっておくれよ。
そうシンシアがぼやいた。

「そう言ってもらえると、ちょっと嬉しいなあ」
「……病み上がりとはいえ、一発入れといた方がいいのかい」
「…………ごめんね、シンシア」

またため息をついたシンシアは、枕元の照明を置いている小物入れの上にマグカップを置いて、僕の頭をぐしゃぐしゃとでた。

「うわ」
「あたし以外にも、そう言うやつはいるっての……で、呪いであり、祝福で、なんで左目を持ってかれたのさ」
「ああ、うん、それはね、ゲルマンのオーディン」

シンシアにでられて、ぐしゃぐしゃになった髪を手櫛てぐしととのえつつ答える。
シンシアはいきなりのビッグネームに目を丸くしている。

「は?」
「シンシア、ソロモンSolomonグランディGrundyが結婚した曜日は?」
「マザーグース? 水曜日Wednesdayだけどさ」
「じゃあ、不幸だらけfull of woeの子が生まれる曜日は?」
「それも、水曜日Wednesdayだけど」
水曜日Wednesdayが冠するものと似たにおい、夜の嵐のにおいって散々言われたんだよね」

はあ? とシンシアはぽっかり口を開けた。
どちらかというと、理解はしたが受け付けたくないという拒否反応と見た。

水曜日Wednesday
その直接の語源は北欧やゲルマンにおける主神オーディンの英語系、ウォーデンに由来するという。大抵の英語学習者がスペリングでつまず黙字もくじの「d」はそういうことなのだ。
まあ、火曜日Tuesdayは同じくテュールだし、木曜日Thursdayはトールだし、金曜日Fridayはフリッガとフレイヤの説があるんだっけ。
とはいえ、曜日そのものとしての元は、ローマ神話のメルクリウス、つまりはギリシャ神話の商売の神にして自身も商売上手なヘルメースの曜日である。ヘルメースの権能といえば、余りに多岐たきに渡り過ぎてるからね。

きわめつけに魂の導き手プシュコポンポスって言っててね? あれ、本来はヘルメースの死神としての側面のギリシャ語の呼び名で、ヘルメースと習合したメルクリウスが、ゲルマンの方で更にオーディンと習合した時の呼び名じゃん。ほら、オーディンって英雄の魂集めるだろ?」
「……そんな大それたもんと? あんたが? 似てるって?」
「うん、まあ、そういうことになるね。夜の嵐の方は野生の猟団Wild Huntだろうし、完全にそれだね」

英国のみならず、ヨーロッパ全土に伝承のある野生の猟団Wild Hunt
そんなふうな状態なのだから、当然その首魁しゅかい多岐たきに渡るのだけど、うち比較的古くから語られている首魁しゅかいの一つがオーディンである。
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