怪異から論理の糸を縒る

板久咲絢芽

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2-1 山と神隠し side A

9 醜い比べ

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「とりあえず、これでヒロとタケルが確定で帰れる流れは作れるから、二対一でたぶん運命共同体のボクも大丈夫」

保険はかかった、とロビンが言う。
たけるとしては、保険程度でいいのか、と不安に思わなくもない。
全員が全員、レインコートを装備し、ロビンとひろはヘッドライトまで付けている。
そして、ひろたけるのリュック同士はがっちりとひろが取り出したザイルロープで繋がれていた。

「とりあえずヒロは、そのままタケルと一緒に戻る、オーケー?」
「ええ、大丈夫です」
「戻り次第しだい、お願い」
「わかってます」

何故だか、ひろが荷物から取り出した小さな犬のぬいぐるみキーホルダーをしっかりと手にしたまま、ロビンが手短に手順を確認している。

「それでは、ロビン、ご武運を。行きますよ、たけるくん」
「あ、うん」
「そこまで挑戦的な事はしないよ。ヒロこそ、気をつけて」

ひらひらと手を振るロビンに背を向けて、ひろたけるの手をつかむと、ずかずかと、もと来た道の茂みに突っ込む。
それでもちゃんとたけるが通れるよう、ついて来れるように配慮はしてくれている。

「……ひろねーちゃん」
「なんでしょう?」
「ロビンにーちゃん、大丈夫?」

ばきばきと、あからさまに枝を折る音を遠慮なく響かせながら、ずんずん進むひろに問う。
やって来た時はあんなにグロッキーになってたあの青年が、まともにここをおりて来れるのだろうか。

「大丈夫ですよ、十中八九ね。あの人、あれでも自分一人の身を守るのは得手えてですから。だから、んですよ」

あまりにも簡単にひろが言うものだから、たけるは最後をうっかり聞き流してしまうところだった。

「は? え、ロビンにーちゃん、おとりってこと?」
「そうですよ。それでもわたしとたけるくんと、わざわざ運命共同体なんて言って、ちゃんと保険はかけてます」

知ってますか? とひろが続ける。

「山の神さまって、民間信仰においては多く、女性、つまり女神めがみさまなんですよ」

――男神おがみさまとされる山もありますけどね。
たけるの手を引きながら、ひろは言う。

「オコゼって、たけるくん、知ってます?」
「魚、だよね」
「そうです。海の魚です。でもね、山の女神さまはこのオコゼが大好きなんですよ」

ざあっと風が吹いて、こずえの上からわずかに入っていた光がえる。
それを予期していたように、ひろは慌てることなく、ぱちりとヘッドライトを点灯した。
より暗くなったしたやみを、強烈な光が無遠慮に丸く切り抜く。

「……山の女神さまはね、多くがみにくい、つまりは不細工ぶさいくとされるんです」

ヘッドライトのあかりのみを頼りに、ひろは茂みを突き進み、大きな段差は軽く迂回うかいし、小さな段差はたけるを軽くかかえるようにして飛び降りる。
それを繰り返す内に、ぱつり、とレインコートの表面を水滴が叩いた。

「オコゼは、そんな山の女神さまよりもみにくいとされます。だから」

ぱっと頭上のこずえの上で、光がひらめく。
すぐに、ばりばりごろごろと、雷鳴がとどろいた。
そんな様子に驚くこともなく、鋭く観察しているような素振そぶりを見せながらも、まったく足を止めずにひろは言う。

「山の神さまはオコゼが好きなんです」

レインコートを強く叩き出した雨粒に、その声がき消される事はなかった。
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