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2-1 山と神隠し side A
9 醜い比べ
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◆
「とりあえず、これでヒロとタケルが確定で帰れる流れは作れるから、二対一でたぶん運命共同体のボクも大丈夫」
保険はかかった、とロビンが言う。
武としては、保険程度でいいのか、と不安に思わなくもない。
全員が全員、レインコートを装備し、ロビンと弘はヘッドライトまで付けている。
そして、弘と武のリュック同士はがっちりと弘が取り出したザイルロープで繋がれていた。
「とりあえずヒロは、そのままタケルと一緒に戻る、オーケー?」
「ええ、大丈夫です」
「戻り次第、お願い」
「わかってます」
何故だか、弘が荷物から取り出した小さな犬のぬいぐるみキーホルダーをしっかりと手にしたまま、ロビンが手短に手順を確認している。
「それでは、ロビン、ご武運を。行きますよ、武くん」
「あ、うん」
「そこまで挑戦的な事はしないよ。ヒロこそ、気をつけて」
ひらひらと手を振るロビンに背を向けて、弘は武の手を掴むと、ずかずかと、もと来た道の茂みに突っ込む。
それでもちゃんと武が通れるよう、ついて来れるように配慮はしてくれている。
「……ひろねーちゃん」
「なんでしょう?」
「ロビンにーちゃん、大丈夫?」
ばきばきと、あからさまに枝を折る音を遠慮なく響かせながら、ずんずん進む弘に問う。
やって来た時はあんなにグロッキーになってたあの青年が、まともにここをおりて来れるのだろうか。
「大丈夫ですよ、十中八九ね。あの人、あれでも自分一人の身を守るのは得手ですから。だから、自分をダシにわたし達を逃してるんですよ」
あまりにも簡単に弘が言うものだから、武は最後をうっかり聞き流してしまうところだった。
「は? え、ロビンにーちゃん、おとりってこと?」
「そうですよ。それでもわたしと武くんと、わざわざ運命共同体なんて言って、ちゃんと保険はかけてます」
知ってますか? と弘が続ける。
「山の神さまって、民間信仰においては多く、女性、つまり女神さまなんですよ」
――男神さまとされる山もありますけどね。
武の手を引きながら、弘は言う。
「オコゼって、武くん、知ってます?」
「魚、だよね」
「そうです。海の魚です。でもね、山の女神さまはこのオコゼが大好きなんですよ」
ざあっと風が吹いて、梢の上から僅かに入っていた光が絶える。
それを予期していたように、弘は慌てることなく、ぱちりとヘッドライトを点灯した。
より暗くなった木の下闇を、強烈な光が無遠慮に丸く切り抜く。
「……山の女神さまはね、多くが醜い、つまりは不細工とされるんです」
ヘッドライトの灯りのみを頼りに、弘は茂みを突き進み、大きな段差は軽く迂回し、小さな段差は武を軽く抱えるようにして飛び降りる。
それを繰り返す内に、ぱつり、とレインコートの表面を水滴が叩いた。
「オコゼは、そんな山の女神さまよりも醜いとされます。だから」
ぱっと頭上の梢の上で、光が閃く。
すぐに、ばりばりごろごろと、雷鳴が轟いた。
そんな様子に驚くこともなく、鋭く観察しているような素振りを見せながらも、まったく足を止めずに弘は言う。
「山の神さまはオコゼが好きなんです」
レインコートを強く叩き出した雨粒に、その声が掻き消される事はなかった。
「とりあえず、これでヒロとタケルが確定で帰れる流れは作れるから、二対一でたぶん運命共同体のボクも大丈夫」
保険はかかった、とロビンが言う。
武としては、保険程度でいいのか、と不安に思わなくもない。
全員が全員、レインコートを装備し、ロビンと弘はヘッドライトまで付けている。
そして、弘と武のリュック同士はがっちりと弘が取り出したザイルロープで繋がれていた。
「とりあえずヒロは、そのままタケルと一緒に戻る、オーケー?」
「ええ、大丈夫です」
「戻り次第、お願い」
「わかってます」
何故だか、弘が荷物から取り出した小さな犬のぬいぐるみキーホルダーをしっかりと手にしたまま、ロビンが手短に手順を確認している。
「それでは、ロビン、ご武運を。行きますよ、武くん」
「あ、うん」
「そこまで挑戦的な事はしないよ。ヒロこそ、気をつけて」
ひらひらと手を振るロビンに背を向けて、弘は武の手を掴むと、ずかずかと、もと来た道の茂みに突っ込む。
それでもちゃんと武が通れるよう、ついて来れるように配慮はしてくれている。
「……ひろねーちゃん」
「なんでしょう?」
「ロビンにーちゃん、大丈夫?」
ばきばきと、あからさまに枝を折る音を遠慮なく響かせながら、ずんずん進む弘に問う。
やって来た時はあんなにグロッキーになってたあの青年が、まともにここをおりて来れるのだろうか。
「大丈夫ですよ、十中八九ね。あの人、あれでも自分一人の身を守るのは得手ですから。だから、自分をダシにわたし達を逃してるんですよ」
あまりにも簡単に弘が言うものだから、武は最後をうっかり聞き流してしまうところだった。
「は? え、ロビンにーちゃん、おとりってこと?」
「そうですよ。それでもわたしと武くんと、わざわざ運命共同体なんて言って、ちゃんと保険はかけてます」
知ってますか? と弘が続ける。
「山の神さまって、民間信仰においては多く、女性、つまり女神さまなんですよ」
――男神さまとされる山もありますけどね。
武の手を引きながら、弘は言う。
「オコゼって、武くん、知ってます?」
「魚、だよね」
「そうです。海の魚です。でもね、山の女神さまはこのオコゼが大好きなんですよ」
ざあっと風が吹いて、梢の上から僅かに入っていた光が絶える。
それを予期していたように、弘は慌てることなく、ぱちりとヘッドライトを点灯した。
より暗くなった木の下闇を、強烈な光が無遠慮に丸く切り抜く。
「……山の女神さまはね、多くが醜い、つまりは不細工とされるんです」
ヘッドライトの灯りのみを頼りに、弘は茂みを突き進み、大きな段差は軽く迂回し、小さな段差は武を軽く抱えるようにして飛び降りる。
それを繰り返す内に、ぱつり、とレインコートの表面を水滴が叩いた。
「オコゼは、そんな山の女神さまよりも醜いとされます。だから」
ぱっと頭上の梢の上で、光が閃く。
すぐに、ばりばりごろごろと、雷鳴が轟いた。
そんな様子に驚くこともなく、鋭く観察しているような素振りを見せながらも、まったく足を止めずに弘は言う。
「山の神さまはオコゼが好きなんです」
レインコートを強く叩き出した雨粒に、その声が掻き消される事はなかった。
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