怪異から論理の糸を縒る

板久咲絢芽

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2-2 山と神隠し side B

9 意図的にあらず

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叔母おばである斎宮さいぐうやまと比売ひめによる二度の支援と、おとたちばな比売ひめによる文字通りの献身。これで成し得たそれまでの平定に対して、伊吹山いぶきやま平定に向かう前に、ヤマトタケルはやまと比売ひめ草薙くさなぎのつるぎを手放すわけだけど、ヤマトタケルの伝説における女性はそういう側面が強い……なんで気付かないの?」
「いやあ、だって草薙くさなぎのつるぎだって、結局嫁さんとこに残したんじゃないですかあ」

あきれ気味に言うと、ロビンは沈痛な面持ちで頭をかかえて、しばらくしてから顔を上げ、た・し・か・に、と一音一音を力強く言う。

やまと比売ひめさずけた草薙くさなぎのつるぎは、最終的にヤマトタケルの妻の一人、尾張おわり美夜受みやず比売ひめに預けられ、それが熱田あつた神宮じんぐうとしてまつられた」
「だから、必ずしもいもの力を発揮したとは限らないと思うのですよね」

ひろの言い分にううん、とロビンはうなる。

「これが美夜受みやず比売ひめがねだったことによるというのであれば、彼女はサムソンに対するデリラ、ヨハネに対するサロメ、英雄を英雄たらしめると同時に殺す運命の女famme fatale……と、はっきり言えたのだろうけど、そういう話はないからなあ。尾張国おわりのくに風土記ふどき逸文いつぶんでは、つるぎ自体の意思あつかいだし。でも、彼にまつわる女性の傾向を消すまでにはいかなくない?」
「でも、そう言いきるには微妙だとおもうんですよね。だって、おとたちばな比売ひめ入水じゅすいの目的は海の神をしずめることであって、それが日本武ヤマトタケル東征とうせいを成功させた遠因であっても、それ自体がのですから。であれば、最初から最後まで日本武ヤマトタケルの平定を願ったのは斎宮さいぐうだけでしょう」

そう言えば、ぐぬぬ、とロビンは不満と納得をにじませて唇を噛んだ。
そこにあるのは、コイツに言われるとは、という気配である。
ちょっとしばいたろかと思わぬでもないし、そんなことしたら体力的にひろが勝つ。
それ以上に、この兄弟子あにでしは紳士の国から来た紳士なので、文句こそ言えど、一方的にされるがままになってくれるだろうが、そんな趣味はひろにはない。
同じSでもひろにあるのはどちらかといえばスパルタのSだ。

「……思考は自由だよ、うん」

どこか遠くに視線をやって、ぽつりとロビンがつぶやく。
文字通りの見透みすかしは時として苛立いらだつが、つうかあな橋渡しはしてくれる。

「まあいいや。今ので、アレが山鬼さんきという恋情の辞賦じふにかこつけてタケルの安全の保障をしようとしたんじゃなくて、ただの不用意過ぎる発言だったのはわかったから」
「実際失敗したなあ、とはたけるくんをかかえ上げたあたりで思いました」

それでも泥濘ぬかるみに乗ってすべるのはちょっと楽しかった。
ロビンのあきかえった視線が突き刺さる。

「そういえば、ロビンの方はどうだったんです?」
「ああ、タケルを優先してたからか。いやまあ別に? どうも何も、必死にけど?」

それは想像にかたくない。ひろ自身もまずとっとと帰って来ることを最優先にさせたから。
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