怪異から論理の糸を縒る

板久咲絢芽

文字の大きさ
168 / 266
5-2 夢の浮橋 side B

2 不満の余地が悪い

しおりを挟む
「……ところで、その、格好は置いといて、どんな人がオリカには見えてたの?」
「え? 結局気になるんですか?」
「待って、結局って何、結局って」

紳士だなあ、と思っていたところでそんな事を問われたので、つい本音が織歌おりかの口からぽろりと落ちた。

「言っとくけど、ボクは、ボクの視界とオリカの視界の相違を確認したいだけだからね?」
「あ、ですよねー……先にケーキを頼んでもいいですか?」

ロビンが織歌おりかのマイペースにあきれたように、どうぞ、と投げやりに言ったので、織歌おりかは半分立ち上がって手を上げ、店員に声をかけた。
そしてすぐにやってきた店員に、チーズケーキを注文する。

「で、オリカが見た女性の人相は?」
「長い黒髪の、どこにでもいそうな清楚せいそっぽい美人、て感じでした。ロビンさんは?」
「……一定じゃなかったよ、オリカが言ってるヒトみたいなのも見えたけど」

一定じゃない、と聞いて織歌おりかは首をかしげた。

「ええと、私、とりあえず女性にかれたとしか聞いてないんですが、どういうことです?」
「うん、まあ依頼人の沽券こけんと、ボクらとしては綱渡りの気持ちとがあったのを、さっき華麗にオリカはぶっちぎったからね、サキュバスSuccubus発言で」

ため息をついて、ロビンは一度紅茶で口をうるおした。

「うん、仕方ないから、本当の話、しようか。ボクとセンセイはアレをリャナン・シーLeannan-sidheとした。オリカは知ってる?」

――ロビンが説明のために真っ先に言い出したのが、ロビンと紀美きみが二人でとしたの正体なので、つまりそれ自体がその特性に紐づく。
そう考えて、織歌おりかは回答と問いを口にした。

「いえ……ロビンさんが見る姿が一定じゃなかったのって、そのリャナン・シーのせいなんですか?」
「うん、リャナン・シーLeannan-sidhe魅入みいった者の理想の姿で現れる。ボクは別に魅入みいられたワケじゃないけど、ボクがにあたっては形がなければ見えないから、それが原因じゃないかな」

そう聞くと、ロビンには他にどんな風に見えていたのか、織歌おりかとしては気になるところである。

「ロビンさんには、他にどんな姿が見えたんですか?」
「……言いたくない」

この兄弟子あにでしに聞いたところで、それを教えてくれるかというと、たぶん教えてくれない気がする、とは思っていたので、視線をらされた上で出てきた回答に対し、予定調和的に織歌おりかは納得した。

「別に誰に似てても言いつけたりしないですよ」
「いや、そうじゃ……うん、いいや、いいよ、そういうことで」
「それこそ、先生でも」
「今紅茶に口つけてなくて良かったって心底思った……オリカ? 遊んでるでしょ?」
「あ、バレました?」

悪びれずに言ってみせれば、ロビンはがりがりと頭をいて、そしてため息をついた。

「さっきのの意趣返し?」
ひろちゃんがたまには思い知らせてやれ、なんて言ってましたが」
「……この案件ではじき出されてるのが気に食わないワケね、後で話すよ」

織歌おりかとて、今回は紀美きみとロビンが互いに目配めくばせしつつ、歯切れの悪い言葉で普段よりもずっと簡潔に内容を聞かされただけで引っ張り出された。
そこにほんの少しも不満がない、といえば、それは嘘である。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

まだ見ぬ未来へ駆け抜けて!

小林汐希
ライト文芸
2年5組の生徒:松本花菜(17歳 高校2年生) 2年5組の担任:長谷川啓太(23歳 教師歴1年目) 幼い頃から、様々な悩みを抱えながら過ごしてきた花菜。 それは幼い頃に父との離別を経験した家庭環境だったり、小学校の最後に作ってしまった体の古傷であったり。 学校外の時間を一人で過ごすことになった彼女の唯一、かつ絶対的な味方でいてくれたのが、近所に住む啓太お兄ちゃんだった。 しかし年の離れた二人の関係では仕方ないとはいえ、啓太の大学進学や環境変化とともに、その時間は終わりを迎えてしまう。 ふさぎ込む花菜を前に、啓太は最後に「必ず迎えに来る」という言葉を残して街を離れた。 言葉を受け取った花菜は、自分を泣かせないための慰めだったという諦めも入りつつ、一方で微かな希望として心の中で温め続けていた。 数年の時を経て二人が再び顔を合わせたものの、もはや運命の意地悪とでもいうべき「担任教師と生徒」という関係。 最初は様子伺いだったけれど、往時の気持ちが変わっていないことを再確認してからは、「一人じゃない」と嬉しいこと・辛いことも乗り越えていく二人には少しずつ背中を押してくれる味方も増えていく。 再会した当初は「おとなしい終末的運命キャラ」になっていた花菜も次第に自信を取り戻し、新米教師の啓太も花菜のサポートを裏で受けつつ堂々と教壇に立ち続けた。 そんな互いを支えあった二人の前に開けた世界は……。 たった一つだけの約束を胸に、嬉しいときは一緒に喜び、悲しいときは支えあって走り抜けた二人の物語です。

皆さんは呪われました

禰津エソラ
ホラー
あなたは呪いたい相手はいますか? お勧めの呪いがありますよ。 効果は絶大です。 ぜひ、試してみてください…… その呪いの因果は果てしなく絡みつく。呪いは誰のものになるのか。 最後に残るのは誰だ……

偽夫婦お家騒動始末記

紫紺
歴史・時代
【第10回歴史時代大賞、奨励賞受賞しました!】 故郷を捨て、江戸で寺子屋の先生を生業として暮らす篠宮隼(しのみやはやて)は、ある夜、茶屋から足抜けしてきた陰間と出会う。 紫音(しおん)という若い男との奇妙な共同生活が始まるのだが。 隼には胸に秘めた決意があり、紫音との生活はそれを遂げるための策の一つだ。だが、紫音の方にも実は裏があって……。 江戸を舞台に様々な陰謀が駆け巡る。敢えて裏街道を走る隼に、念願を叶える日はくるのだろうか。 そして、拾った陰間、紫音の正体は。 活劇と謎解き、そして恋心の長編エンタメ時代小説です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

 【最新版】  日月神示

蔵屋
歴史・時代
 最近日月神示の予言本に不安を抱いている方もあると思うがまったく心配いらない。  何故なら日月神示では「取り越し苦労や過ぎ越し苦労はするな!」 「今に生きよ!」  「善一筋で生きよ!」  「身魂磨きをせよ!」  「人間の正しい生き方」  「人間の正しい食生活」  「人間の正しい夫婦のあり方」  「身も心も神さまからお借りしているのじゃから夜になって寝る前に神さまに一旦お返しするのじゃ。そうしたら身と心をどのようにしたらよいか、分かるじゃろ!」  たったのこれだけを守れば良いということだ。  根拠のない書籍や情報源等に惑わされてはダメだ。  日月神示も出口王仁三郎もそのようなことは一切言っていない。  これらの書籍や情報源は「日月神示」が警告する「臣民を惑わすものが出てくるから気をつけよ!」 という言葉に注目して欲しい。  今回、私は読者の皆さんに間違った解釈をされている日月神示を分かりやすく解説していくことにしました。  どうか、最後までお読み下さい。  日月神示の予言については、私が執筆中の「神典日月神示の真実」をお読み下さい。    

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...