怪異から論理の糸を縒る

板久咲絢芽

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6-1 竜馬と松浦の姫 side A

12 全面対決

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――しゃん、しゃん、しゃん。

鈴に合わせて、行列が移動する。
それを小夜せれなはじっと見ている。
その状態だけならば、今までと何ら変わらない。

ただ、今まで待つしかなかった小夜せれなは反撃できるはずのものを手にしている。
だから、じっと緊張したまま。その行列の中の唯一の馬上の男をじっと見つめた。

そして、例のごとく、浅緋うすあけほうを着た男は小夜せれなの視線を見上げた。

――たつも 今もてしか 君つかた 千里のとほみ いとうらめしき

すぐに小夜せれなは最初の和歌を口にする。

「うつつにも あよしもなし ぬばたまの よるのいめにも よをつぐましじ」

次の瞬間、男だけでなく、行列を成すすべての者達の視線が小夜せれなの方を見た。
そのすべての目が、男と同じく、およそ人間味を感じないつぶらな目だった。
あげそうになった悲鳴を、小夜せれなはなんとか飲み込み、大丈夫と自身に言い聞かせる。
だって、今、小夜せれなはパジャマの胸ポケットを利用して、うまく刺さらないように針を身に着けている。

――まつらが ななせのよどは よどめども われはよどまず いもをみさけむ
「とつひと まつらのうらの とめとも とこよならざる うつそみのひと」

断ち切るつもりで二首目を返すと、ざわり、と小夜せれなの肌をでる空気が一変する。
しゅー、しゅーと空気の抜けるような何かの鳴き声のような音があちこちから聞こえた。

――なきてをいだすとてもない知恵をしぼったとしてもこはいかにこれはどういうことだ

不服そうな、不機嫌な声が、そのしゅー、しゅーという合間に、言葉と意味の乖離かいりともなって小夜せれなの耳に届く。
音は、きっと古語。意味は小夜せれなのわかる、現代語。

――かくさしこむはたそ誰の入れ知恵だ

それを聞いて、ああ、あの葛城かつらぎというやたら軽い人はここまで予想していたのかと、はっきりと理解する。
だから、意味がわからないままに、言われた通りに口にする。

「しもとゆやまのあるじのまなご」

そう小夜せれなが言った瞬間、その場にいる人の口がすべて、耳に届くまでにける。
いや、やたらと顔がぬっぺりとして、そう、それは人ではなく、爬虫類はちゅうるいのそれで――

――あなねたしなんとも腹立たしい! あなわづらはしなんとも面倒なこと

そう吐き捨てるように言うのは、浅緋うすあけほうを着た馬上の、すでに男、と認識するのも難しい、何か。
その目がぎろりと小夜せれな見据みすえて、うらめしさと恐怖をにじませて、さらに吐き捨てる。

――まかねがはりのあなおぞし鉄の針のなんと恐ろしいこと



――ぴぴっ、ぴぴっ、ぴぴっ

そんな味気ない電子音で小夜せれなは目を覚ます。
それももう二週間近くの久し振りの感覚だ。
日曜だというのに、これを確かめるためだけに目覚まし時計をセットしてしまった。

手を伸ばして電子音を鳴らし続ける目覚まし時計を止める。
なんとはなしに、目覚めもすっきりしているような気がする。
パジャマの飾りの胸ポケットの内側に針先が出るように刺した針を抜き、一緒に入れていた糸巻きも引き出して、机の上に置いていた針山に突き刺す。
そして、その隣に置いていたスマホの通知を知らせるライトが点滅していることに気付く。

スマホを手に取ってロックを解除してみると、よもぎからメールが入っていた。

そこには、ロビンとひろからもう大丈夫だろうとよもぎに連絡が入ったこと、もし、また何かあれば、有償ではあるが相談してもらえれば対応する旨、そして学割もあるよ、というちょっと営業じみた内容が書かれていた。

そして、その内容に少し笑って、そして日常に戻ったことに、小夜せれなは強い安堵あんどを覚えたのだった。
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