Eternal Dear4

堂宮ツキ乃

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終章

例え彼の過去を知っても

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 海斗は凪の寝こける姿を見ながら彼と自分の一族との長年の交流を話し始めた。

 沖田家は海から生まれたという彼を招き入れて家族同然の一員となった。

 凪にホレる娘も多かったが彼は誰のこともバッサリと振った。自分は精霊だから人間とそんな関係にはならない、と。

 そういう種を超えた男女のことには凪は昔から堅物であったらしい。当時は精霊も人間も入り交じっていて、凪の正体が精霊であると知る者は多かった。

 そして彼が海竜剣を手に入れると、前波村で悪事を働こうとする輩を斬り殺すようになった。沖田家はありがたいと彼に感謝していたが、村人の一部は凪を残忍だと罵った。人間ではないからそんな残酷なことができるのだと。

 そんな凪と共に暮らす沖田家はしだいに村八分となり、近所との付き合いが乏しくなった。海の1番近くで生活するようになったのもその頃からだった。

 そのせいかいつしか凪の姿は消え────ある日突然ひょっこりと戻ってきた。

 彼は消える前より強くなっていた。怪力で鬼をも殺せるような剣豪となっていたが、決して人前で殺しを行わなかった。

 口にしなくても単に"人斬り"だと言われたのが悔しかったのだろうと、当時の沖田家は話していたらしい。

 当然、今は当時のような村八分はない。

「意外だろ?」

「はい…。初めて伺いました」

 しゅん、として麓は凪の横顔を見つめた。

 決して物分かりのいい人間ばかりがこの世にいるわけでないと、少しショックを受けていた。今まで関わってきた人間たちは皆、麓によくしてくれたからそんな人がいるなんて思いもよらなかった。

「…あの。凪さんを悪く言っていた人たちは」

「死んでいったって。そいつらみぃんな旦那の美しさに嫉妬していたんだ。そいつらは皆、ツラも性格も醜いヤツだったんだと」

 その説明だけでなんとなく分かった。連中は誰かと結ばれることなく1人で逝ったのだと。

「暗い話になって悪ィ」

「いえ…」

「沖田家しか知らねェんだ、このことは。正直言うと寮長さんも、同年代の扇君も霞君も知らない」

「そんな大事なお話を、付き合いが浅い私なんかが聞いても────」

「お嬢ちゃんには旦那の過去を知っておいてもらいたくて。────きっと長い付き合いになるだろうから」

「え?」

 目を丸くした麓のことには気付かず海斗は沈んだ空気を変えるかのように、沖田家が寿司屋を始めてからの話をした。

 店の引き継ぎで大将が変わる時には必ず、1番最初に凪に寿司を食べてもらうのだ。これは沖田家で代々続く儀式みたいなものである。

 と、スマホの着信音が派手に響いた。演歌だ。

「おっと。ちょっとすまんな」

 海斗は手早く布巾で手を拭い、そばに置いてあるスマホを手に取って奥の部屋へ引っ込んだ。

 麓は凪の寝顔を再び見つめ、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。自分だけ甘い世界で生きてきてごめんなさい────と。

 すると突然凪の目が薄く開いた。思わず目が合って驚く。

「お、起きました?」

「いや────」

 凪は頭の下で組んで枕代わりにしていた腕をゆるめ、麓に向かって伸ばした。

 突然の出来事に硬直した麓は、ただ凪の腕を目で追うだけ。

 彼は彼女の髪をまとめたゴムに指を引っ掛け、するりとほどいた。髪留めから解放された髪の毛は背中に広がる。

「えっ────?」

「俺は…髪下ろしてる方がいい…」

 ボソッとつぶやいた彼は麓のピンク色のゴムを握りしめ、再び眠りこんでしまった。

 本心なのか酔ってしまったのか。

 どっちなのか判断はできないがさっきの手つきはどことなく色っぽさがあって。

 海斗が戻ってきて声をかけられるまで、麓は顔を真っ赤にさせたまま石になっていた。



 ついに最終日。

 その日は午前中に帰る予定になっている。

 朝食を食べ荷物をまとめ、寮長の車の中へ運びこんだ。

 その後はしばらく時間があり、麓は海岸の階段に腰掛けて海を眺めていた。

 ここに来てから当たり前になっていた景色。来たばかりの時にかいだ潮の香りでついに海に来たんだという楽しみで舞い上がった。

 山とは違う空気で、たくさんの人間とふれあって出かけたりおいしいご飯を食べたり。短い滞在だったが充実した時間を過ごせた。

 楽しかった分、あっという間に感じる。哀愁ももちろん。

「ここにいたのか」

 後ろからの声に振り向くと凪がいて、彼は麓の隣に腰を下ろした。

「帰りたくねェってツラしてるなオイ。また来年も連れてきてやるからそんな顔すんな。なんなら冬休みとか…」

「ホントですか?」

「わかりやすいくらい明るくなったな…。俺はできねェ約束はしねェ」

 凪は口の端を軽く上げ、すっくと立ち上がった。ダラダラと長居するつもりはないらしい。

「おら行くぞ。遅ェと置いてく」

「それは困ります」

 麓は立ち上がって一瞬目を閉じ、海と前波に別れを告げた。そして凪の後を追いかける。

 寮長の車の周りに沖田家がそろっていた。

「凪兄、またね!」

「おうよ。もっと背ェ伸びるようにがんばんな」

「うん!」

 梨音はうれしそうにうなずいた。凪は海斗にからかい口調で声をかける。

「…いい育毛剤見つかるといいな」

「るっせー! 半笑いしてんじゃねェよ!」

 一方の沙奈と真緒は麓と話していた。

「また恋バナしようね」

「学園で彼氏見つかるようにファイトだよ!」

「う、うん。とりあえずまた会おうね!」

 各々別れを告げたが、扇と霞だけ寮長の車に乗っていない。

 凪は車の窓を開けて2人に薄笑いを浮かべた。

「じゃーなバカ教師共。俺たちゃ先に寮に帰ってらァ」

「んだとぉ!? 扇じゃなくて麓ちゃんにしろー!」

「ちげーわ! 霞じゃなくて麓ちゃんと帰りてー!」

 行きを電車で来た凪と麓の代わりは扇と霞。今から海斗の運転する車で西小室井駅に向かう。

 麓は2人がギャーギャー騒いでいるのに苦笑いをしながらシートベルトをしめた。

「それでは出発しますわよー。皆様、お元気で~!」

 沖田家の見送りの中、車は発進した。



 エアコンが効いている車中、凪が外の景色を見ていたら右肩にほんの少しの重みがかかった。

(…コイツか)

 隣にいる娘────麓が眠ってもたれてきたのだった。

 その寝顔はどこか楽しそうで。自然と自分の口元も柔らかくなる。

 麓を連れてきてよかったと思う。

 始終楽しそうにしていて、今まで1番リラックスした表情をしていた。ここに来ていい癒しになったかもしれない。

 車内は静まっている。助手席の蒼も、前席の焔と光といつの間にか寝ていた。あとは寮長が運転に集中している。

 自分は寝るつもりはない。昨夜、充分過ぎるほど眠ったから。

 しばらくは外の景色よりも麓のおだやかな寝顔でも拝もうかと思う。

 前波での思い出の夢ても見ているのか、彼女は時々笑ったような表情になる。

(また…連れてきてやるから)

 凪は心の中でささやき麓の肩をわずかに抱き寄せ、彼女の小指と自分のを一瞬だけ絡めた。

 fin.
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