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2章
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一方の麓と凪は市電の終点である青岩口まで歩き、ちょうど来た市電に乗って富橋駅へ向かった。
その間、様々なラッピングを施された市電と何度かすれ違った。富橋の特産品や施設を描かれた市電は、市民の目を楽しませるだけでなく宣伝目的もあるようだ。
この市電は毎年行われる富橋まつりの時には、樹脂製の花を使ってド派手にデコレーションされる。普段の利用者は会社員や学生ばかりだが、この時ばかりは富橋市民だけでなく県外からきた人たちも乗る。その数は尋常ではなく、すし詰め状態になる。
麓がおとなしくちょこん、と座っている隣で凪は足を組んでいた。
座席のスプリングがよく効いているため、時々市電がボコボコとした道を走るとそれに合わせて体がわずかに浮く。麓は1人、その感覚と流れていく景色を楽しんでいた。
そして次に体が浮いた時、右肩にズシッと重さがのしかかってきた。
(何…?)
右をチラリと見ると、凪が麓に寄りかかっていた。市電の中では程よくエアコンが効いているのと、ちょうど昼寝時ということもあってか彼はいつの間にか眠ってしまったらしい。
(凪さん…ちょっと重い…)
口角が引きつった。かと言っておだやかに眠っている彼を起こすわけにはいかない。麓は左手でバランスを取りながら持ちこたえることにした。
不意に視線を感じ、顔を上げると左斜め前に女子高生らしき2人がこちらをチラチラと見ていた。2人とも口元に手を押さえて静かにはしゃいでいる。
その姿は校外学習帰りのバスの嵐と重なり、麓は女子高生の会話内容を大体察することができた。と、同時に顔をうつむかせた。エアコンが効かなくなってきたんじゃないかと疑いかけながら。
「わりーな…爆睡してて」
「いえ、お気になさらず」
市電を降りてそんなことを話しながら改札へ向かった。売店で凪は手土産を買っていくと言い、麓も適当に見て回ることにした。
アイスのコーナーで立ち止まってじーっと見ていると、後ろから凪に声をかけられた。
「美味そうだからってヨダレ垂らすなよ」
「そんなことしません!」
「…嘘だ。どれがいい? 買ってやる」
「いいんですか? 交通費も出してもらってるのに…」
「年上の金の心配をするな。男がおごるって言ってんなら素直におごられろ」
「ありがとうございます…」
ぶっきらぼうに言われ、レジへ向かった凪の背中を見つめて慌ててアイスを選んだ。
ホームに下りて来たが時間がもう少しあるということで、2人はベンチに座った。
麓は凪に買ってもらったアイスを食べることにした。
パッケージから取り出したのは、ソーダ味のアイスバー。ほんのりと冷気をただよわせていた。いただきます、とつぶやいてシャクシャク食べている横で凪はスマホを取り出して耳に当てた。が、しばらくして舌打ちと共にはなした。
「あの女何してやがんだ…。つながんねェ、まさか俺相手だからか?」
「まだ運転中ですかね?」
「それは絶対ない。もうとっくに向こうに着いてるハズだ」
麓はアイスを食べるのを一時中断して、寮長に電話することにした。
ハンドバッグからスマホを取り出して凪と同じことをした。
『おかけになった電話番後は現在…』
そんな内容が寮長の声で再生され、麓もスマホをしまいつつ首を振った。
「私もダメでした。…寮長さん、どうしたのでしょう…」
「おめーも繋がんねェか…しゃーねェ、向こう着いてから考えるか────お、電車来るぞ」
「え、もう!? まだ半分残ってるのに…」
麓がアイスを再びシャクシャクと急いで食べ進めると、突然こみかみにキーンと長引く痛みが走った。
「何これ…急に頭が…」
「バーカ。冷てェモン慌てて食うからだ」
凪がニヒルな笑を浮かべたのを、麓はこめかみを押さえながらにらみ上げる。するとホームに電車が滑りこんできたのと同時に、凪が下の方を見て驚いた顔をして急に首を傾けた。
どうしたんですか? と聞こうとした時にはすでに彼は麓の視線より低い所にいた。
彼は麓がアイスを持っている胸元で、残り少なくなった溶けかけのアイスをくわえていた。
凪は麓の指に唇でふれつつ、アイスを棒から引っこ抜いてホームの天井を見上げながら飲み込んだ。喉仏がゴクリと上下する。
「アイス落ちるとこだったぜ。甘いモンあんま好きじゃねェけど、こういうさっぱりしたヤツならいけるな」
いつもの涼しい顔で飄々とした態度を取る凪をよそに、麓は真っ赤なゆでダコ状態。この夏1番体温が上がったのではないかと疑うほど。
「あ…アイス! ゆ、ゆゆ指!」
「何? 溶けたアイスで指がぺとぺとになったのか? 後で電車のトイレで洗ってこい」
自分のしたことに無自覚な凪は、麓の心情に気づかなかったらしい。
その間、様々なラッピングを施された市電と何度かすれ違った。富橋の特産品や施設を描かれた市電は、市民の目を楽しませるだけでなく宣伝目的もあるようだ。
この市電は毎年行われる富橋まつりの時には、樹脂製の花を使ってド派手にデコレーションされる。普段の利用者は会社員や学生ばかりだが、この時ばかりは富橋市民だけでなく県外からきた人たちも乗る。その数は尋常ではなく、すし詰め状態になる。
麓がおとなしくちょこん、と座っている隣で凪は足を組んでいた。
座席のスプリングがよく効いているため、時々市電がボコボコとした道を走るとそれに合わせて体がわずかに浮く。麓は1人、その感覚と流れていく景色を楽しんでいた。
そして次に体が浮いた時、右肩にズシッと重さがのしかかってきた。
(何…?)
右をチラリと見ると、凪が麓に寄りかかっていた。市電の中では程よくエアコンが効いているのと、ちょうど昼寝時ということもあってか彼はいつの間にか眠ってしまったらしい。
(凪さん…ちょっと重い…)
口角が引きつった。かと言っておだやかに眠っている彼を起こすわけにはいかない。麓は左手でバランスを取りながら持ちこたえることにした。
不意に視線を感じ、顔を上げると左斜め前に女子高生らしき2人がこちらをチラチラと見ていた。2人とも口元に手を押さえて静かにはしゃいでいる。
その姿は校外学習帰りのバスの嵐と重なり、麓は女子高生の会話内容を大体察することができた。と、同時に顔をうつむかせた。エアコンが効かなくなってきたんじゃないかと疑いかけながら。
「わりーな…爆睡してて」
「いえ、お気になさらず」
市電を降りてそんなことを話しながら改札へ向かった。売店で凪は手土産を買っていくと言い、麓も適当に見て回ることにした。
アイスのコーナーで立ち止まってじーっと見ていると、後ろから凪に声をかけられた。
「美味そうだからってヨダレ垂らすなよ」
「そんなことしません!」
「…嘘だ。どれがいい? 買ってやる」
「いいんですか? 交通費も出してもらってるのに…」
「年上の金の心配をするな。男がおごるって言ってんなら素直におごられろ」
「ありがとうございます…」
ぶっきらぼうに言われ、レジへ向かった凪の背中を見つめて慌ててアイスを選んだ。
ホームに下りて来たが時間がもう少しあるということで、2人はベンチに座った。
麓は凪に買ってもらったアイスを食べることにした。
パッケージから取り出したのは、ソーダ味のアイスバー。ほんのりと冷気をただよわせていた。いただきます、とつぶやいてシャクシャク食べている横で凪はスマホを取り出して耳に当てた。が、しばらくして舌打ちと共にはなした。
「あの女何してやがんだ…。つながんねェ、まさか俺相手だからか?」
「まだ運転中ですかね?」
「それは絶対ない。もうとっくに向こうに着いてるハズだ」
麓はアイスを食べるのを一時中断して、寮長に電話することにした。
ハンドバッグからスマホを取り出して凪と同じことをした。
『おかけになった電話番後は現在…』
そんな内容が寮長の声で再生され、麓もスマホをしまいつつ首を振った。
「私もダメでした。…寮長さん、どうしたのでしょう…」
「おめーも繋がんねェか…しゃーねェ、向こう着いてから考えるか────お、電車来るぞ」
「え、もう!? まだ半分残ってるのに…」
麓がアイスを再びシャクシャクと急いで食べ進めると、突然こみかみにキーンと長引く痛みが走った。
「何これ…急に頭が…」
「バーカ。冷てェモン慌てて食うからだ」
凪がニヒルな笑を浮かべたのを、麓はこめかみを押さえながらにらみ上げる。するとホームに電車が滑りこんできたのと同時に、凪が下の方を見て驚いた顔をして急に首を傾けた。
どうしたんですか? と聞こうとした時にはすでに彼は麓の視線より低い所にいた。
彼は麓がアイスを持っている胸元で、残り少なくなった溶けかけのアイスをくわえていた。
凪は麓の指に唇でふれつつ、アイスを棒から引っこ抜いてホームの天井を見上げながら飲み込んだ。喉仏がゴクリと上下する。
「アイス落ちるとこだったぜ。甘いモンあんま好きじゃねェけど、こういうさっぱりしたヤツならいけるな」
いつもの涼しい顔で飄々とした態度を取る凪をよそに、麓は真っ赤なゆでダコ状態。この夏1番体温が上がったのではないかと疑うほど。
「あ…アイス! ゆ、ゆゆ指!」
「何? 溶けたアイスで指がぺとぺとになったのか? 後で電車のトイレで洗ってこい」
自分のしたことに無自覚な凪は、麓の心情に気づかなかったらしい。
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