Eternal Dear4

堂宮ツキ乃

文字の大きさ
5 / 21
2章

しおりを挟む
 寮長のワゴン車に全員分の荷物が運びこまれ、麓と凪以外全員が車に乗り込んだ。

 寮長も運転席に乗り込み、シートベルトをしてエンジンをかけてから運転席の窓を開けた。

「それでは凪様、麓様。お迎えに上がるまでごきげんよう…。凪様、駅に着いたら連絡して下さいね」

「おう。俺らのこと忘れんなよ」

「大丈夫ですわよ────麓様だけは」

「なんだそれ! 俺は駅から歩けってか! 1時間以上かかんぞバカが!」

 と凪が叫んだ瞬間に、寮長は高速で彼に向かってヘアピンを投げつけ────凪はとんでもない反射神経で飛来物を眉間の前でつかんだ。

 数コンマでも遅かったら眉間に突き刺さっていただろう。

 寮長は氷の微笑を浮かべた。彼女と凪以外の者は凍りついていた。

「バカとはなんですか…? 少なくともあなたに言われる筋合いはございませんわ…。そこん所分かっていらして…?」

「だーもうっ! 分かったからさっさと行きやがれ! 得物は後で返すから!」

「はいはいかしこまりました。…と、その前に皆様から凪様にお伝えしたいことがあるようですどうぞ」

 言いながら寮長は後ろの座席の窓を全開させた。するとずっと我慢していた分を発散させるように野郎どもが身を乗り出して罵声をとばした。助手席の蒼だけは寮長の後ろで黒いオーラをまとって。

「凪め! 麓ちゃんを独り占めしやがって…」

「もし手を出したら全力で殴ります」

「麓、熱中症だけには気を付けろよ~」

「もしまた倒れたら今度は私がお姫様抱っこするから」

「カスミンのことは気にしなくていいから! じゃあね2人共~」

 光の言葉を最後に窓は閉まり、騒がしさは車内に閉じ込められてワゴン車は出発した。

 しばらくの沈黙の後、凪は頭をかきながらため息をついた。

「最後までるっせーのな…アイツら…」

「にぎやかでいいと思いますよ」

 表向きは荷物と乗車人数の関係で、という理由で2人は公共交通機関を使うという理由だが────。

 凪は6月の3年生の校外学習で麓に、市電に乗せるという約束をしていた。今回、それを果たすためだ。

 一般道を走る、小さな電車。かつて日本の多くの都市を走っていた市内電車だが、現在は一部の地域にしか残っていない。その1つが富橋だ。

 たくさんの路線があって乗り換えがいくつもあるような規模ではないが、地元住民に長らく愛されているレトロな乗り物だ。

 凪はショルダーバッグをかけ直すと麓に声をかけた。

「んじゃ行くか。少しでも体が変だと思ったらすぐ言えよ。遠慮とかすんなよ」

「はい気を付けます…。凪さんは余裕みたいですね」

「当たりめーだ。ここに何百年いると思ってんだ」

 生ける伝説は炎天下でも涼しい顔をしていられるようだ。

 半歩先を歩き出した凪の後を、麓は小走りして遠慮がちに彼の隣を歩いた。



 一方、車組は。

 車内では光と扇が凪に出発前に殴られていたことを笑っていた。

 その原因である光の能力のオリジナル化に焦点が当たると、焔は顎に手をやって首をかしげた。

「あれって確か塊じゃなくね? もっとひらひらして量を出すヤツだよな」

「うん。目くらましに使うことが多い」

「っつーかいつの間に編み出したんだ? 薄っぺらいのを塊にするなんて技。あれクソ痛かったぞ、凪のゲンコツ並に」

 被害者である扇はまだ痛むような気がする後頭部をさすった。

 隕石が降ってぶつかってきた、では全く違う表現になるかもしれないが、殴られたと感じる前に記憶は飛んでいた。目覚めた時にやっと痛覚が働いたような気がしていた。

「イメージ、かな。はらはらと舞うようなのじゃなくてずっしりとした塊を生み出せるように────とにかく強く、"僕は絶対できる"って信じた」

「でもなんでやろうと思ったんですか?」

 蒼が助手席から顔をのぞかせた。すると光はいつもより大人びた切なげな表情を浮かべた。

「僕は天神地祇で年少組で"天"でもない。歳がどうのこうのはしょうがないとして、能力を高めるのはできないことじゃないだろう、って」

「光って以外とそういうの考えてたんだ」

「意外は余計だよカスミン! ま、言っちゃうと誰かを守れる力が欲しかったの────特にロクにゃんのこと」

 光は嬉しそうに笑った。まるで目の前に"ロクにゃん"がいるかのように。

 好きな女のため、か。

 黙って聞いていた寮長はハンドルに手をかけたまま、母親のように優しく目を細めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

悪魔な義理弟《ボディーガード》~ヤンキー校最凶犬男子の独占欲が強過ぎる~

Kore
恋愛
「余計なこと考えさせないくらい愛せば、男として見てくれる?」そう囁く義弟の愛は重くて、危険で、究極に甘い。 ———勉強が大の苦手であり、巷で有名なヤンキー高校しか入れなかった宇佐美莉子。そんな義理姉のボディーガードになるため、後追いで入学してきた偏差値70以上の義理弟、宇佐美櫂理。しかし、ボディーガードどころか、櫂理があまりにも最強過ぎて、誰も莉子に近寄ることが出来ず。まるで極妻的存在で扱われる中、今日も義理弟の重い愛が炸裂する。———

恋と首輪

山猫
恋愛
日本屈指の名門・城聖高校には、生徒たちが逆らえない“首輪制度”が存在する。 絶対的支配者・東雲財閥の御曹司、東雲 蓮の「選んだ者」は、卒業まで彼の命令に従わなければならない――。 地味で目立たぬ存在だった月宮みゆは、なぜかその“首輪”に選ばれてしまう。 冷酷非情と思っていた蓮の、誰にも見せない孤独と優しさに触れた時、みゆの心は静かに揺れはじめる。 「おめでとう、今日から君は俺の所有物だ。」 イケメン財閥御曹司 東雲 蓮 × 「私はあなたが嫌いです。」 訳あり平凡女子 月宮 みゆ 愛とか恋なんて馬鹿らしい。 愚かな感情だ。 訳ありのふたりが、偽りだらけの学園で紡ぐカーストラブ。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

処理中です...