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2章
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寮長のワゴン車に全員分の荷物が運びこまれ、麓と凪以外全員が車に乗り込んだ。
寮長も運転席に乗り込み、シートベルトをしてエンジンをかけてから運転席の窓を開けた。
「それでは凪様、麓様。お迎えに上がるまでごきげんよう…。凪様、駅に着いたら連絡して下さいね」
「おう。俺らのこと忘れんなよ」
「大丈夫ですわよ────麓様だけは」
「なんだそれ! 俺は駅から歩けってか! 1時間以上かかんぞバカが!」
と凪が叫んだ瞬間に、寮長は高速で彼に向かってヘアピンを投げつけ────凪はとんでもない反射神経で飛来物を眉間の前でつかんだ。
数コンマでも遅かったら眉間に突き刺さっていただろう。
寮長は氷の微笑を浮かべた。彼女と凪以外の者は凍りついていた。
「バカとはなんですか…? 少なくともあなたに言われる筋合いはございませんわ…。そこん所分かっていらして…?」
「だーもうっ! 分かったからさっさと行きやがれ! 得物は後で返すから!」
「はいはいかしこまりました。…と、その前に皆様から凪様にお伝えしたいことがあるようですどうぞ」
言いながら寮長は後ろの座席の窓を全開させた。するとずっと我慢していた分を発散させるように野郎どもが身を乗り出して罵声をとばした。助手席の蒼だけは寮長の後ろで黒いオーラをまとって。
「凪め! 麓ちゃんを独り占めしやがって…」
「もし手を出したら全力で殴ります」
「麓、熱中症だけには気を付けろよ~」
「もしまた倒れたら今度は私がお姫様抱っこするから」
「カスミンのことは気にしなくていいから! じゃあね2人共~」
光の言葉を最後に窓は閉まり、騒がしさは車内に閉じ込められてワゴン車は出発した。
しばらくの沈黙の後、凪は頭をかきながらため息をついた。
「最後までるっせーのな…アイツら…」
「にぎやかでいいと思いますよ」
表向きは荷物と乗車人数の関係で、という理由で2人は公共交通機関を使うという理由だが────。
凪は6月の3年生の校外学習で麓に、市電に乗せるという約束をしていた。今回、それを果たすためだ。
一般道を走る、小さな電車。かつて日本の多くの都市を走っていた市内電車だが、現在は一部の地域にしか残っていない。その1つが富橋だ。
たくさんの路線があって乗り換えがいくつもあるような規模ではないが、地元住民に長らく愛されているレトロな乗り物だ。
凪はショルダーバッグをかけ直すと麓に声をかけた。
「んじゃ行くか。少しでも体が変だと思ったらすぐ言えよ。遠慮とかすんなよ」
「はい気を付けます…。凪さんは余裕みたいですね」
「当たりめーだ。ここに何百年いると思ってんだ」
生ける伝説は炎天下でも涼しい顔をしていられるようだ。
半歩先を歩き出した凪の後を、麓は小走りして遠慮がちに彼の隣を歩いた。
一方、車組は。
車内では光と扇が凪に出発前に殴られていたことを笑っていた。
その原因である光の能力のオリジナル化に焦点が当たると、焔は顎に手をやって首をかしげた。
「あれって確か塊じゃなくね? もっとひらひらして量を出すヤツだよな」
「うん。目くらましに使うことが多い」
「っつーかいつの間に編み出したんだ? 薄っぺらいのを塊にするなんて技。あれクソ痛かったぞ、凪のゲンコツ並に」
被害者である扇はまだ痛むような気がする後頭部をさすった。
隕石が降ってぶつかってきた、では全く違う表現になるかもしれないが、殴られたと感じる前に記憶は飛んでいた。目覚めた時にやっと痛覚が働いたような気がしていた。
「イメージ、かな。はらはらと舞うようなのじゃなくてずっしりとした塊を生み出せるように────とにかく強く、"僕は絶対できる"って信じた」
「でもなんでやろうと思ったんですか?」
蒼が助手席から顔をのぞかせた。すると光はいつもより大人びた切なげな表情を浮かべた。
「僕は天神地祇で年少組で"天"でもない。歳がどうのこうのはしょうがないとして、能力を高めるのはできないことじゃないだろう、って」
「光って以外とそういうの考えてたんだ」
「意外は余計だよカスミン! ま、言っちゃうと誰かを守れる力が欲しかったの────特にロクにゃんのこと」
光は嬉しそうに笑った。まるで目の前に"ロクにゃん"がいるかのように。
好きな女のため、か。
黙って聞いていた寮長はハンドルに手をかけたまま、母親のように優しく目を細めた。
寮長も運転席に乗り込み、シートベルトをしてエンジンをかけてから運転席の窓を開けた。
「それでは凪様、麓様。お迎えに上がるまでごきげんよう…。凪様、駅に着いたら連絡して下さいね」
「おう。俺らのこと忘れんなよ」
「大丈夫ですわよ────麓様だけは」
「なんだそれ! 俺は駅から歩けってか! 1時間以上かかんぞバカが!」
と凪が叫んだ瞬間に、寮長は高速で彼に向かってヘアピンを投げつけ────凪はとんでもない反射神経で飛来物を眉間の前でつかんだ。
数コンマでも遅かったら眉間に突き刺さっていただろう。
寮長は氷の微笑を浮かべた。彼女と凪以外の者は凍りついていた。
「バカとはなんですか…? 少なくともあなたに言われる筋合いはございませんわ…。そこん所分かっていらして…?」
「だーもうっ! 分かったからさっさと行きやがれ! 得物は後で返すから!」
「はいはいかしこまりました。…と、その前に皆様から凪様にお伝えしたいことがあるようですどうぞ」
言いながら寮長は後ろの座席の窓を全開させた。するとずっと我慢していた分を発散させるように野郎どもが身を乗り出して罵声をとばした。助手席の蒼だけは寮長の後ろで黒いオーラをまとって。
「凪め! 麓ちゃんを独り占めしやがって…」
「もし手を出したら全力で殴ります」
「麓、熱中症だけには気を付けろよ~」
「もしまた倒れたら今度は私がお姫様抱っこするから」
「カスミンのことは気にしなくていいから! じゃあね2人共~」
光の言葉を最後に窓は閉まり、騒がしさは車内に閉じ込められてワゴン車は出発した。
しばらくの沈黙の後、凪は頭をかきながらため息をついた。
「最後までるっせーのな…アイツら…」
「にぎやかでいいと思いますよ」
表向きは荷物と乗車人数の関係で、という理由で2人は公共交通機関を使うという理由だが────。
凪は6月の3年生の校外学習で麓に、市電に乗せるという約束をしていた。今回、それを果たすためだ。
一般道を走る、小さな電車。かつて日本の多くの都市を走っていた市内電車だが、現在は一部の地域にしか残っていない。その1つが富橋だ。
たくさんの路線があって乗り換えがいくつもあるような規模ではないが、地元住民に長らく愛されているレトロな乗り物だ。
凪はショルダーバッグをかけ直すと麓に声をかけた。
「んじゃ行くか。少しでも体が変だと思ったらすぐ言えよ。遠慮とかすんなよ」
「はい気を付けます…。凪さんは余裕みたいですね」
「当たりめーだ。ここに何百年いると思ってんだ」
生ける伝説は炎天下でも涼しい顔をしていられるようだ。
半歩先を歩き出した凪の後を、麓は小走りして遠慮がちに彼の隣を歩いた。
一方、車組は。
車内では光と扇が凪に出発前に殴られていたことを笑っていた。
その原因である光の能力のオリジナル化に焦点が当たると、焔は顎に手をやって首をかしげた。
「あれって確か塊じゃなくね? もっとひらひらして量を出すヤツだよな」
「うん。目くらましに使うことが多い」
「っつーかいつの間に編み出したんだ? 薄っぺらいのを塊にするなんて技。あれクソ痛かったぞ、凪のゲンコツ並に」
被害者である扇はまだ痛むような気がする後頭部をさすった。
隕石が降ってぶつかってきた、では全く違う表現になるかもしれないが、殴られたと感じる前に記憶は飛んでいた。目覚めた時にやっと痛覚が働いたような気がしていた。
「イメージ、かな。はらはらと舞うようなのじゃなくてずっしりとした塊を生み出せるように────とにかく強く、"僕は絶対できる"って信じた」
「でもなんでやろうと思ったんですか?」
蒼が助手席から顔をのぞかせた。すると光はいつもより大人びた切なげな表情を浮かべた。
「僕は天神地祇で年少組で"天"でもない。歳がどうのこうのはしょうがないとして、能力を高めるのはできないことじゃないだろう、って」
「光って以外とそういうの考えてたんだ」
「意外は余計だよカスミン! ま、言っちゃうと誰かを守れる力が欲しかったの────特にロクにゃんのこと」
光は嬉しそうに笑った。まるで目の前に"ロクにゃん"がいるかのように。
好きな女のため、か。
黙って聞いていた寮長はハンドルに手をかけたまま、母親のように優しく目を細めた。
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