Eternal Dear4

堂宮ツキ乃

文字の大きさ
4 / 21
2章

しおりを挟む
 麓が日常生活を送れるようになったのは、熱中症にかかってから5日後のことだった。

 彼女は夏の間は和服を着るなと言われ、寮長と焔と共に富橋駅付近のレディスファッションを扱う店を回った。

 いつの日か彰と訪れた店にも行き、ニューハーフの店長に再び全身コーディネートをしてもらった。

 そこの店長と寮長は知り合いらしく、麓が試着室で着替えている間も楽しそうにおしゃべりをしていた。やはりあの店長は精霊の存在を知っているだけあって顔が広いのだろうか。

 焔は店長に"イケメンで中身可愛いって最高ね!"と言われてタジタジしていた。

 それから麓は毎日、洋服で過ごすようになった。

 店長や寮長に教わった組み合わせのおかげで、毎朝コーディネートに困ることはない。

 髪もポニーテールだけでなく低い位置でツインテールにしたり3つ編みにしたり。最近は自分で様々なヘアスタイルにできるようになったので、着替えた後に鏡台の前に座るのが習慣になった。




 今日も今日とて髪を櫛で梳かし、首の後ろで3つ編みにしてゴムで止めてその上からリボンで結ぶ。

「これでよし、と」

 後れ毛が無いのを確認してから立ち上がり、鏡台の前でくるりと一回転した。

 シルク素材で裾に控えめなフリルがあしらわれた白いミニワンピにジーンズのホットパンツ。これにトングサンダルを合わせるつもりだ。

「これで…いいよね?」

 麓は満足気に、ベッドの隣に広げたキャリーバッグに今使った櫛やヘアスプレーを入れた。

 ポーチよし、着替えよし、スマホはハンドバッグに入れた。麓は一通り確認してからキャリーバッグのファスナーをしめた。

 手首につけた腕時計はまもなく午後1時。

 ついに今日、凪の故郷であり憧れである海へ訪れる。



 麓がキャリーバッグ片手に部屋を出ると、口笛が鳴らされた気がして首をかしげた。振り向くと光がいた。彼もちょうど部屋を出た所らしい。

「ワンピ可愛いよ、ロクにゃん」

「ありがと…」

 光はタンクトップに膝丈のハーフパンツ。なんとなくバスケ選手に見える。身長がいささか小さいが。

 制服よりも露出面積が広く、黙っていればいつもの"可愛い"より"かっこいい"雰囲気を醸し出している。ほんのりと焼けた肌が男らしかった。

「準備できたー? あとは麓ちゃんと光だけ…おっ」

 階段から顔をのぞかせた扇は前髪をちょんまげにしばっていてやんちゃなガキに見えた。そんな彼は麓の姿を発見して2人の元へ来た。

「麓ちゃん可愛い! ワンピでホットパンツが見えるか見えないのがエロくて良い。眼福」

「ひぇっ?」

「まーたそういうこと言う! ロクにゃんがドン引いてるよ!」

 麓に向かって手を会わせて頭を下げた扇は光に怒られるが、開き直って胸をそらした。

「俺は思ったことを素直に言っただけだ。それのどこが悪い、正直者でいいことだろうが」

「正直者の意味がおかしい!」

「着替えてきますね…」

 へらへらしている扇と叱る光を背に、麓はキャリーバッグをゴロゴロと引いて部屋に戻ろうとした。

「あーっ! ロクにゃんダメ! このままがいいよ、せっく考えたんでしょ? オウちゃんのことはしっかり叱っておくから…。ほら、オウちゃんも」

 最後に光はボソッと言って扇の脇腹をつついた。扇はきまり悪そうに頭をかきながら麓の背中に声をかけた。

「ごめんよ麓ちゃん…。もうあぁいうことは言わないから戻ってきて下さい…」

 くるりと振り向いた麓はしばらく扇のことを疑わしげな目で見ていたが、やがてほほえんだ。

「嘘、ですよ」

「え? 嘘って?」

「着替えに行くフリをして扇さんを困らせようとしただけです。光君、ごめんね」

「僕はいいんだよ。悪いのはオウちゃんだけだよ────あれ?」

 光は横にいた扇を半眼で見ようとしたがら、彼はいなかった。

 まさか、と思って麓の方を見ると────そのまさかであった。

「もーう"困らせよう"とかなんなの! 可愛いよかわいすぎんじゃん! もっとそういうこと言ってほしいなー! …俺だけに」

「は、はなれて下さい!」

 扇は麓をだきしめていた。シルク素材の服の上から麓の背中をなでている。

 その手つきはなんとなく、さっき扇が言っていたワードに一致しているように見えて…。

 さすがの光も今のでキレて、左手をスっと出してその上に彼の髪と同じ色の物体を生み出した。それは段々と星の形に成形されていく。

 そして助走をつけて扇の頭上に飛びかかった。

「ロクにゃんが離れてって言ってるでしょーが! くらえ『異輝星いきせい』の塊ィ!」

「うごっ…」

 扇の頭にぶつけてゴン、という音がして光は少し離れた位置へ飛び退って着地。

(よし、決まった)

 光は内心で満足気につぶやいて左手をグッと握りしめた。

 こんなアホ教師は置いてさっさと行こう、と麓を誘おうとしたが。

「扇さん? 扇さん!」

 いつの間にか扇から離れた麓が青ざめた表情で、昏倒している扇のそばに膝をついていた。

 すぐ後に光はこの行動に後悔することになる。



「バカかおめーら! 出発前にセクハラしたり能力をオリジナル化してんじゃねェどアホ!」

 光と扇は寮の外に出て凪にガミガミ怒られていた。しかも正座で。

「病み上がりにケガさせる気か? あ゛ん?」

「凪さん、私なら大丈夫ですから」

 もし一瞬のスキをついて扇の腕から逃れていなかったら麓は大の男の下敷きになっていた。

 タンコブではすまなかったかもしれない。

「バッカおめー。女にケガさせたくねェ俺の気持ちを…」

 言いかけた凪は"しまった"という表情を隠すように口元を手で覆い、いかにもわざとな咳払いをした。

「とにかく! この先こんなことをしないように! もしコイツをケガさせるようなことがあれば」

「この俺、扇が結婚して責任を取りますっ!」

「調子に乗んな白髪。それと光」

「ん?」

「さっき使った能力のオリジナル化、今度は天災地変相手に使え」

「ナギりん…うん!」

 光は嬉しそうにうなずいた。が、凪が近づいてきて影に覆われてまだ解放されそうにないことに気づいた。どう考えても嫌な予感しかしない。

 扇も同じように感じたのか、拳を作り挙げた凪のことを見上げて体を震わせた。

「今回はこれくらいにしてやる」

 という言葉が終わると同時に2人の頭上に岩石────否、凪の拳が隕石のごとく落ちてきた。

「あ…お星様が見える…」

「またこれかよ…」

 2人して地面に突っ伏して蚊の鳴くような声でつぶやいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

そこは優しい悪魔の腕の中

真木
恋愛
極道の義兄に引き取られ、守られて育った遥花。檻のような愛情に囲まれていても、彼女は恋をしてしまった。悪いひとたちだけの、恋物語。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

悪魔な義理弟《ボディーガード》~ヤンキー校最凶犬男子の独占欲が強過ぎる~

Kore
恋愛
「余計なこと考えさせないくらい愛せば、男として見てくれる?」そう囁く義弟の愛は重くて、危険で、究極に甘い。 ———勉強が大の苦手であり、巷で有名なヤンキー高校しか入れなかった宇佐美莉子。そんな義理姉のボディーガードになるため、後追いで入学してきた偏差値70以上の義理弟、宇佐美櫂理。しかし、ボディーガードどころか、櫂理があまりにも最強過ぎて、誰も莉子に近寄ることが出来ず。まるで極妻的存在で扱われる中、今日も義理弟の重い愛が炸裂する。———

ホウセンカ

えむら若奈
恋愛
☆面倒な女×クセ強男の不器用で真っ直ぐな純愛ラブストーリー! 誰もが振り返る美しい容姿を持つ姫野 愛茉(ひめの えま)は、常に“本当の自分”を隠して生きていた。 そして“理想の自分”を“本当の自分”にするため地元を離れた大学に進学し、初めて参加した合コンで浅尾 桔平(あさお きっぺい)と出会う。 目つきが鋭くぶっきらぼうではあるものの、不思議な魅力を持つ桔平に惹かれていく愛茉。桔平も愛茉を気に入り2人は急接近するが、愛茉は常に「嫌われるのでは」と不安を抱えていた。 「明確な理由がないと、不安?」 桔平の言葉のひとつひとつに揺さぶられる愛茉が、不安を払拭するために取った行動とは―― ※本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。 ※イラストは自作です。転載禁止。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

処理中です...