たとえこの恋が世界を滅ぼしても5

堂宮ツキ乃

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7章

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 1つのコートの中で自然に身を寄せ合い、夜叉は人肌の温もりに恥じらいながらも目を閉じた。

 こんなにも穏やかな心地よさに包まれるなんて。このまま眠ってしまったらそれはそれで気持ちいいのだろうと思う。

 照れ隠しから何も話そうとしない夜叉のことを察したらしい朝来はほほえみ、屋上の端に片足を立てかけて膝に腕を乗せた。

「君を驚かせたくて修学旅行のことは黙っていたんだ」

「…こっちの修学旅行の行程を聞いてたのはそれか」

「君に会えるようにね。それに君が楽しそうに話すのを聞くのが楽しかったんだ」

 夜叉は朝来との電話のやり取りを思い出し、もしかして自分ばかり話し過ぎたのではなかろうか…と途端に恥ずかしくなった。元々そんなに話す方ではないと自負しているものの、朝来の反応が嬉しくてついついささいなことまで口にしてしまったかもしれない。

 彼女がうつむいていると、お行儀よく膝の上で重ねられた右手を朝来に取られて彼の唇を押し当てられた。

 薄いが柔らかい唇。彼はまるで神聖なものにふれるかのような力加減で手を握り、目を伏せている。

「…もしかして怒ってるの」

 朝来がそっと唇を離すと小さく自信がなさそうにつぶやいた。

「君はちゃんと言ってほしかった?」

「う…ううん! そういうんじゃなくて。朝来と話すのは私も楽しいし、こうして北の果てで会えて嬉しかったよ」

「北の果てって…。北海道は、ってか世界は広い。君が行ったことがないだけで本当の北の果てはこんなもんじゃないよ」

 彼がからかい気味に笑うと夜叉は唇をとがらせて手を引っ込め、街の明かりに目をやった。

「別にいいもん! 私の中では今まで出かけた中でここが一番北の果てだもん。宗谷岬はまたいつか大人になったら行くし…」

「そっか。いいね。将来の楽しみってわけだ」

 朝来は夜叉のことをくしゃくしゃとなでるとそのまま抱き寄せ、彼女の肩にあごを乗せた。

「じゃあ…宗谷岬よりもっと北や、反対の南の果ては僕が連れていく」

「え?」

「僕も君も見えない翼を持ってる。飛行機や船に頼らなくたって時間さえあればどこにだって飛んでいけるよ」

 振り返ると朝来はほほえんでいたが、やがて片手で顔を覆うと”これがクサいってヤツだよね…”夜叉から顔を背けた。

 彼女はぷっと吹き出すわけでもなくからかうようなニヤけヅラになるわけでもなく、静かに口元をゆるめて朝来の頬をなでた。

「…そうだね。私、もっとこの世界を見て回りたい。その時隣に誰かがいたらうれしいかな、なんて」

 夜叉の言葉に固まった朝来の手をどかすと彼もまた真っ赤で。おそらくは夜叉しか見れないような表情。

「もうっ。本当はそう言うの慣れてないんじゃないの? 変にかっこつけなくていいんだよ?」

「かっこつけるとかそんなんじゃないし…」

「人前と私の前だと随分様子が違うんじゃない?」

 うぐっとうなって何も言えなくなった彼に夜叉は小さく吹き出し、仕方なさそうに曖昧にほほえんで彼の頬に手を当てた。

「最近は例の発作は大丈夫? 無理してない?」

「あぁ。君と定期的に連絡を取ったり会ってるから平気だよ」

 朝来は腕から夜叉を解放して座り直し、自分の前髪をいじってしみじみとつぶやいた。

「今まではあの薬がなければ発作は治まらなかったけど、今は君のことを考えるだけで楽になる。最近は君のことばかり思ってるからか発作自体起きてないよ」

「そう…」

 心配して損した、とは思わないがなかなかに恥ずかしいことを言われて彼女は毛先をいじって彼から目をそらした。

「ん? もしかして照れてる?」

「ちっ…違うし! また朝来がイタいこと言ってるから代わりに恥ずかしくなってるだけだから…」

「何それ。君って本当におもしろいね」

 朝来は鈴が転がるように軽やかだけどいつもより響く声で笑った。
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