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終章
この想いの名は
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雛と別れてから、凪の様子がおかしくなっていた。
いつもは堂々と前を向き、小気味いい足音を立てて歩くのに、今はうつむきがちにとぼとぼと足を運んでいた。
何を聞いても口数は少なく、一瞬にして半分以上の生気を吸い取られてしまったようだ。
すぐ隣を歩いているのに、心の距離はずっと遠かった。
心の内を話して楽になってほしい。
その肩の荷を外して、気持ちが軽くなってほしい。
だがそれは決してないことだと、麓は悟った。
(私じゃダメなんだ。凪さんに本音を話してもらえるほどの存在になんてなれない。だって…そうでしょう? あなたが本音を話せる女の人は────)
考えていく度につらくなって、頭を振った。うつむいたら涙がこぼれてしまいそうで、我慢しようと前を向いた。そこには凪の広い背中。
(なんでこんなこと考えてるんだろ。いつも凪さんに頼ってばっかだった私が、あなたに頼ってほしいなんて)
麓は足を止めた。考え事をして体が重くなり、足が動かせなくなった。
いつもは気づいて足を止めてくれていた凪は、先へ先へと歩いて行く。同じく考え事をしていて麓の存在を忘れてしまったのか、ただ気づいてないだけなのか。
遠ざかっていく背中が寂しい。
寄り添って、悲しい時にはまた抱きしめて。
麓は手を胸の前でぎゅっと握って。うつむき、こらえきれなくなった涙があふれ、頬を流れていく。
彼女はとうとう気づいてしまった。凪にしか感じない、今までの感情に。
(そっか。これが皆が言ってた…)
止まらない涙に構わず、麓は切なく笑った。
どうしてこんな時に気づいてしまったのだろう。
彼女は小さくなっていく凪の背中を見つめた。
(好き…です。あなたが…凪さんのことが)
やっと認めたこの感情。
恋に堕ちるとは、こういうことだったのだ。
知らない間に惹かれ、小さなことでときめいて、もどかしくて、相手のことをたくさん知りたくて。
一度離れた距離は縮まることがなかった。
彼は麓のことに気づいて、立ち止まることはない。戻ってきてくれることもない。
しかし今は、この遠く切ない距離が自分たちに似合っている気がした。
fin.
いつもは堂々と前を向き、小気味いい足音を立てて歩くのに、今はうつむきがちにとぼとぼと足を運んでいた。
何を聞いても口数は少なく、一瞬にして半分以上の生気を吸い取られてしまったようだ。
すぐ隣を歩いているのに、心の距離はずっと遠かった。
心の内を話して楽になってほしい。
その肩の荷を外して、気持ちが軽くなってほしい。
だがそれは決してないことだと、麓は悟った。
(私じゃダメなんだ。凪さんに本音を話してもらえるほどの存在になんてなれない。だって…そうでしょう? あなたが本音を話せる女の人は────)
考えていく度につらくなって、頭を振った。うつむいたら涙がこぼれてしまいそうで、我慢しようと前を向いた。そこには凪の広い背中。
(なんでこんなこと考えてるんだろ。いつも凪さんに頼ってばっかだった私が、あなたに頼ってほしいなんて)
麓は足を止めた。考え事をして体が重くなり、足が動かせなくなった。
いつもは気づいて足を止めてくれていた凪は、先へ先へと歩いて行く。同じく考え事をしていて麓の存在を忘れてしまったのか、ただ気づいてないだけなのか。
遠ざかっていく背中が寂しい。
寄り添って、悲しい時にはまた抱きしめて。
麓は手を胸の前でぎゅっと握って。うつむき、こらえきれなくなった涙があふれ、頬を流れていく。
彼女はとうとう気づいてしまった。凪にしか感じない、今までの感情に。
(そっか。これが皆が言ってた…)
止まらない涙に構わず、麓は切なく笑った。
どうしてこんな時に気づいてしまったのだろう。
彼女は小さくなっていく凪の背中を見つめた。
(好き…です。あなたが…凪さんのことが)
やっと認めたこの感情。
恋に堕ちるとは、こういうことだったのだ。
知らない間に惹かれ、小さなことでときめいて、もどかしくて、相手のことをたくさん知りたくて。
一度離れた距離は縮まることがなかった。
彼は麓のことに気づいて、立ち止まることはない。戻ってきてくれることもない。
しかし今は、この遠く切ない距離が自分たちに似合っている気がした。
fin.
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