Eternal dear6

堂宮ツキ乃

文字の大きさ
上 下
16 / 16
終章

この想いの名は

しおりを挟む
 雛と別れてから、凪の様子がおかしくなっていた。

 いつもは堂々と前を向き、小気味いい足音を立てて歩くのに、今はうつむきがちにとぼとぼと足を運んでいた。

 何を聞いても口数は少なく、一瞬にして半分以上の生気を吸い取られてしまったようだ。

 すぐ隣を歩いているのに、心の距離はずっと遠かった。

 心の内を話して楽になってほしい。

 その肩の荷を外して、気持ちが軽くなってほしい。

 だがそれは決してないことだと、麓は悟った。

(私じゃダメなんだ。凪さんに本音を話してもらえるほどの存在になんてなれない。だって…そうでしょう? あなたが本音を話せる女の人は────)

 考えていく度につらくなって、頭を振った。うつむいたら涙がこぼれてしまいそうで、我慢しようと前を向いた。そこには凪の広い背中。

(なんでこんなこと考えてるんだろ。いつも凪さんに頼ってばっかだった私が、あなたに頼ってほしいなんて)

 麓は足を止めた。考え事をして体が重くなり、足が動かせなくなった。

 いつもは気づいて足を止めてくれていた凪は、先へ先へと歩いて行く。同じく考え事をしていて麓の存在を忘れてしまったのか、ただ気づいてないだけなのか。

 遠ざかっていく背中が寂しい。

 寄り添って、悲しい時にはまた抱きしめて。

 麓は手を胸の前でぎゅっと握って。うつむき、こらえきれなくなった涙があふれ、頬を流れていく。

 彼女はとうとう気づいてしまった。凪にしか感じない、今までの感情に。

(そっか。これが皆が言ってた…)

 止まらない涙に構わず、麓は切なく笑った。

 どうしてこんな時に気づいてしまったのだろう。

 彼女は小さくなっていく凪の背中を見つめた。

(好き…です。あなたが…凪さんのことが)

 やっと認めたこの感情。

 恋に堕ちるとは、こういうことだったのだ。

 知らない間に惹かれ、小さなことでときめいて、もどかしくて、相手のことをたくさん知りたくて。

 一度離れた距離は縮まることがなかった。

 彼は麓のことに気づいて、立ち止まることはない。戻ってきてくれることもない。

 しかし今は、この遠く切ない距離が自分たちに似合っている気がした。

 fin.
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...