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1章
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「お待ちしておりました、麓様。さ、どうぞこちらへ」
寮長の部屋にお邪魔すると、二組の布団が敷かれていた。
「寮長さんはベッドではないのですね」
「はい。どうにも私には合わないので。麓様が眠れるか心配ですが…」
「大丈夫ですよ!」
麓は両手を振った。脇に挟んでいるのはいつも愛用している枕。これさえあれば、どこでも安心して眠ることができる。
寮長は長い茶髪をゆるく三つ編みにしている。これが寝ている間のスタイルだ。
後ろ手でドアを閉めて部屋を見渡すと、和風の小物が目についた。トンボ玉に紐を通して吊るされていたり、クローゼットの上にちりめんが敷かれていたり。
もし寮長が麓や凪のように和服をまとったら、2人よりずっと似合う気がする。
寮長に勧められた布団の上に枕を置き、掛け布団をめくった。
「寮長さんはいつも何時に寝るのですか?」
「んー…大体バラバラですが、11時前には寝ていますわね」
「それなのに朝一番に起きられるなんてすごいです」
「慣れてるので平気ですわよ。それに他の寮に比べたら人数が少ないので。他の寮は大所帯ですから、そこで働く者はもっと早く起きているのですよ」
「大変ですね…毎日お疲れ様です」
麓がペコリと頭を下げると、寮長は笑いながら冗談めかして話した。
「ほほほ~。麓様も卒業なさったら、寮で働いてみてはいかがですか?」
「私ですか?」
麓は人差し指で自分を差し、寮長として働く自分を想像しようとした。
それもいいのかもしれない。ここにはたくさんの精霊がいるから、さみしくなることはないし、毎日楽しく過ごせるだろう。
「悪くなさそうです」
「麓様はお料理もお上手ですし、家事全般もお得意ですから。進路の1つとして、よかったら覚えておいてくださいな。卒業後の道はいくつもありますわ」
「そうですね。先輩は大学に行かれました。子どもが好きだから、学校の先生になりたいそうです」
その時────寮長の瞳が揺れたように見えたのは、麓の気のせいだろうか。
麓の笑顔が消えかかろうとした時、寮長はほほえんだ。
「素晴らしい夢ですわね。私も子どもは嫌いじゃありませんから、教師はとてもいいと思いますわ」
ほんの一瞬の出来事だったので、麓はついさっきのことは忘れることにした。
「ふあーあ…微妙な時間のせいか、まだ眠れそうにありませんわねぇ…あくびは出たのですか」
苦笑する寮長と同じような表情を麓も返す。自分もまだ、そんなに眠くなかった。睡魔が襲ってくる気配もない。
2人はとりあえずと言った具合で、それぞれの布団に横になって布団を掛けた。部屋の明かりはつけたままで。沈黙が流れるという結果になってしまった。2人して天井を見つめていた。
そこで寮長は手をパン、と叩いて麓の方へ体を向けた。
「眠れるようにここで、藪から棒ですが寝物語などでもいかがですか?」
「へぇ…聞きたいです!」
麓も寮長の方へ体を向いた。果たしてからどんな物語を聞かせてもらえるのか。
「これは…桃太郎やさるかに合戦とは違う、昔話です。御伽話感覚でお聞きくださいませ────」
寮長の部屋にお邪魔すると、二組の布団が敷かれていた。
「寮長さんはベッドではないのですね」
「はい。どうにも私には合わないので。麓様が眠れるか心配ですが…」
「大丈夫ですよ!」
麓は両手を振った。脇に挟んでいるのはいつも愛用している枕。これさえあれば、どこでも安心して眠ることができる。
寮長は長い茶髪をゆるく三つ編みにしている。これが寝ている間のスタイルだ。
後ろ手でドアを閉めて部屋を見渡すと、和風の小物が目についた。トンボ玉に紐を通して吊るされていたり、クローゼットの上にちりめんが敷かれていたり。
もし寮長が麓や凪のように和服をまとったら、2人よりずっと似合う気がする。
寮長に勧められた布団の上に枕を置き、掛け布団をめくった。
「寮長さんはいつも何時に寝るのですか?」
「んー…大体バラバラですが、11時前には寝ていますわね」
「それなのに朝一番に起きられるなんてすごいです」
「慣れてるので平気ですわよ。それに他の寮に比べたら人数が少ないので。他の寮は大所帯ですから、そこで働く者はもっと早く起きているのですよ」
「大変ですね…毎日お疲れ様です」
麓がペコリと頭を下げると、寮長は笑いながら冗談めかして話した。
「ほほほ~。麓様も卒業なさったら、寮で働いてみてはいかがですか?」
「私ですか?」
麓は人差し指で自分を差し、寮長として働く自分を想像しようとした。
それもいいのかもしれない。ここにはたくさんの精霊がいるから、さみしくなることはないし、毎日楽しく過ごせるだろう。
「悪くなさそうです」
「麓様はお料理もお上手ですし、家事全般もお得意ですから。進路の1つとして、よかったら覚えておいてくださいな。卒業後の道はいくつもありますわ」
「そうですね。先輩は大学に行かれました。子どもが好きだから、学校の先生になりたいそうです」
その時────寮長の瞳が揺れたように見えたのは、麓の気のせいだろうか。
麓の笑顔が消えかかろうとした時、寮長はほほえんだ。
「素晴らしい夢ですわね。私も子どもは嫌いじゃありませんから、教師はとてもいいと思いますわ」
ほんの一瞬の出来事だったので、麓はついさっきのことは忘れることにした。
「ふあーあ…微妙な時間のせいか、まだ眠れそうにありませんわねぇ…あくびは出たのですか」
苦笑する寮長と同じような表情を麓も返す。自分もまだ、そんなに眠くなかった。睡魔が襲ってくる気配もない。
2人はとりあえずと言った具合で、それぞれの布団に横になって布団を掛けた。部屋の明かりはつけたままで。沈黙が流れるという結果になってしまった。2人して天井を見つめていた。
そこで寮長は手をパン、と叩いて麓の方へ体を向けた。
「眠れるようにここで、藪から棒ですが寝物語などでもいかがですか?」
「へぇ…聞きたいです!」
麓も寮長の方へ体を向いた。果たしてからどんな物語を聞かせてもらえるのか。
「これは…桃太郎やさるかに合戦とは違う、昔話です。御伽話感覚でお聞きくださいませ────」
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