Eternal Dear7

堂宮ツキ乃

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6章

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 この日も雪が降り、辺りは全て白に染められていた。

 雪が積もった地面を踏みしめると、サクッとした音がする。

 雲間からわずかに顔をのぞかせた太陽を拝みながら麓は1人、外で伸びをした。

 風はおだやかだ。むき出しの頬も指も、かじかんでいない。

 最近は目覚めるとこうして外に出る。

 あまりにも寒い時や雪が降っている時はやめるが、外に出ると気分が清々しくなる。

 すでに制服に着替えているため、時折吹く風でスカートがやわらかく揺れる。

 寮に戻り、朝食の準備を手伝おうとしたら、寮長の隣に彰がいた。

 彼も制服に着替えており、ワイシャツの袖を軽くまくってたくあんを切っていた。彼が包丁を持つ姿は珍しく、しばらく見とれてしまった。

 麓に気づいたらしい彰は顔を上げ、包丁を置いて口角を上げた。

「おはよう、姫さん」

「おはようございます」

 麓が会釈すると、寮長も顔をのぞかせた。

「おはようございます、麓様。今朝は雪が降っていませんね」

「はい。夜中だけだったみたいです。何かお手伝いできることはありますか?」

「えっと…今日は大丈夫ですわ。彰様がお手伝いして下さっているので…」

 寮長がちらと彰に視線を向けると、彼は眉をあげておどけたようにほほえんだ。

 麓は2人に言われて早々にテーブルに着き、彰と寮長のことを見つめた。

 昨日、会ったばかりのはずなのに、もう仲良さげに話している。しかも女嫌いの彰が、だ。

(彰さんが実際に、女の人を冷たくあしらっているのを見たことがないような)

 時折、話の途中で笑いあっている2人の姿は、長年連れ添っている夫婦のように仲睦まじい。その姿に違和感を覚えるどころか、うらやましさが湧いてくる。

(ちょっといいかも。あぁいう2人になれたらいいな…)

 麓はテーブルの上で肘をつき、昨夜の頭の痛い出来事を思い出す。

 バカだと思う、勢いであんなことを言って。

 一晩経っているとはいえ、凪と顔を合わせにくい。

 後悔の念でいっぱいの麓は姿勢を崩し、テーブルの上で顔を伏せた。

 いつもより表情が暗かった麓を、彰と寮長は顔を見合わせて眉を下げた。



「マジでか! 彰先輩が風紀委員寮に入ったんか?」

「そ。びっくりでしょ~。 ナギりん自ら認めたんだよ。急に喧嘩しないかなって毎日ヒヤヒヤしそう…あの2人が暴れ出すとどっちかがケガするまで止まらないからね。あ~末恐ろしい2人…」

 驚く蔓に語る光は、軽く身震いをした。その表情は青ざめていると言ってもいい。

 午前の授業が終わった昼休み。麓たちは昼食を終え、風紀委員寮での昨夜の出来事を話していた。

「ホント、あそこはイケメンをぎょっと凝縮させたような場所だよね。そこにいる麓は幸せ者だよ」

「そう?」

 麓は嵐に困ったような笑みを浮かべた。

「なんで急に入寮したん? 風紀委員に入ったとかそんな感じ?」

「ん~そういうわけじゃないんだよね」

 光が首をかしげて机に肘をついた。

「…新しい戦力は必要。最近…天災地変が妙だから」

「露さんにはやっぱり分かる?」

 小さくつぶやいた露に、麓が身を寄せた。

「当たり前。一応、”天”。伊達じゃない」

「そうだよね」

 誇らしげな露は先ほどから缶のクラッカーを貪っている。聞けば非常食の買い替え時になったらしい。最近の彼女は缶詰の食べ物を昼食やおやつとして持参している。

 露は雫から教えてもらった言葉を大切にしている。

「…備えあれば憂いなし」

「そうやな。憂いを感じさせるものなんて、初めからないとええけどな…」

「人生────精霊生に苦楽はつきもの」

「雫さん、そんなことも言ってたなぁ…」

 光と話し終えた蔓が加わった。感慨深げになっている2人に、申し訳ないと思いつつ、露kはさりげなく切り出した。露の顔がうっすらと陰ったことも気になって。

「実は前から気になっていたんだけど…」

「ん? 何が?」

「その…結晶化された3人の精霊のこと。3人とも、”天”なんだよね。露さんは…雫さん以外の2人の名前って知ってる?」

「当たり前」

 露はうなずき、指折り答えた。

「まずしずくらいさん、ふるえさん。呼んで字のごとく、雷と地震の精霊。2人とも女性」

「女の人…」

 麓は胸を掴まれたような気がして顔を強張らせた。

 聞いたことのある名前がある。

 凪がかつて話したがらなかったことを、軽い気持ちでひなに聞いた時に。

 それが今、年月を経て彼女に重くのしかかってきた。

「麓は知らんかったん? 凪先輩から教えてもらってるとちゃうんか?」

「うん…凪さんには聞いたことない」

「光は知ってるんか?」

「あ…うん」

 光は視線をそらしてうなずいた。それ以上何も聞かないでくれ、と言いたげな顔をしている、

 凪の雷への想いを知られるわけにはいかないんだろう。麓は光の心情を察し、話題をそらした。

「震さんって人は、この学園に知り合いがいるのかな」

「いない。どうして」

「それは…その人のことも知りたくて」

「ふーん…」

 麓のことを訝し気に見る麓。何でも見抜いてしまいそうな瞳にじっと見つめられ、麓は固まってしまう。

 心の中を見透かされそうだが、瞳をそらすことはできない。露の目力に圧倒された。

 彼女はやがて視線を外し、静かに話し始めた。

「────震さんの知り合い…あの人にとっての妹。この人は学園の富川支部の卒業生で、私たちより年上。たしか300歳くらい。今は竹林に住んでる」

「そうなんだ…露さんも知り合いなの?」

「うん。話したこと、なくない」

 相変わらず読みにくい表情をしているが、住んでいる場所まで教えてくれた。

 こちらが深く話さずとも、露には分かったのかもしれない。麓の魂胆が。

 麓はありがとうと礼を言い、1人である計画を立て始めた。
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