Eternal Dear1

堂宮ツキ乃

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1章

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 翌朝。既に太陽が南の空に昇った頃、ツリーハウスを見上げている四人の男の精霊がいた。

 麓のことを迎えに来た、八百万学園富橋支部の風紀委員だ。

 三人は制服で一人はスーツ。

 制服を着た一人────切れ長の金色の瞳、群青色の髪を持った精霊は羽織ったパーカーのポケットに手を突っ込み、瞳を細める。

「ここだな。例の精霊は」

 横にいるスーツの精霊────白髪に紅眼を持った者がうなずいた。

「そうみたい。ツリーハウスか…理事長も大したモン作るねぇ」

 ここでの理事長とはアマテラスを示す。

 二人の後ろには赤髪に橙色の瞳の者、レモン色の髪に紅茶色の瞳の精霊もいる。

「この木の上、景色がいいんだろうな~」

「僕も登ってみたい!」

「おめーらは待ってろ。こんな人数で行ったらビビらせるだろ…。三十年間も入学を拒んでいたようなヤツだからな」

 この中で代表格の群青の髪は梯子に足をかけた。



 麓は今まで感じたことのない気配にゾクゾクした。もう迎えが来ているんだろう、この大木の下に。

 今日の彼女はいつもと全くタイプの違う服を着ていた。

 普段着の袴はキレイに畳み、一度も着たことのない黒スーツを身につけ、下ろしていた髪はポニーテールにしている。

 それは麓なりの男装だった。

 なぜそのようにするのか…。全ては己を守るため。

 山を降りて新世界へ行けば、自分はたちまちなじめずに浮いた存在になるだろう。

 自分はこの山を守っていく主であり自分のことは誰かではなく自分が守らなければならない。彼女は自分で自身への掟を作った。

(この家とはしばらくさよなら、かな…今までありがとう)

 麓は感謝の気持ちで家中を掃除し、必要そうな荷物をまとめた。さっきの袴は緑色の大きなバッグの奥にしまい込んだ。

「…行こうか」

 両手で頬をピシャリと叩き、気を引き締めてバッグを持ち上げようとし、若干フラついた。

 気をとりなおして玄関に踏み出し、扉を開けた。

 と、その瞬間に突風が吹き、麓の髪が舞い上がり、反射的に目をつむった。同時に嗅いだことのない香りが嗅覚にひっかかる。

 風がやみ、少しずつ目を開けるとそこには、自分よりずっと身長が高く、上着のポケットに手を入れた男がいた。

「おめーが麓…花巻山の精霊だな」

 初めて見た自分以外の精霊。初めて聞いた青年特有の低い声。自分が使ったことのない話し方に、自分は持っていない色、香り。麓のあらゆる感覚を、彼は一瞬にして働かせた。

「…おーい。聞いてんのか?」

 しばらくボーッとしてしまったらしい。男が麓の顔の前で手を振っている。

「っ…すみません。わた…あっ、ボクが麓です」

 彼は一瞬だけ怪訝な顔をして眉を上げたが、すぐに戻した。

「ん。なるほどな。じゃあさっそくだが学園に行くぞ。荷物貸せ」

 男は麓の返事を待たずに荷物を持ち上げ、ツリーハウスの下に向かって声を張り上げた。

「アレ呼んでくれ。頼む」

 かすかに麓にも返事が聞こえた。それから鋭く長い口笛が辺りに響き、それに答えるように大きな鳥がニ羽、どこからか飛んできて麓の近くを通った。

(っ!?)

 思わず目を閉じて身をすくめると、風が勢いよく通り過ぎたのが分かった。

  頭上から声がし、麓はゆっくりと目を開けた。

「おいおい、そんなビビんなって。あいつらはおめーを攻撃するんじゃねェんだから」

 彼はそう言いながらツリーハウスの下を顎で示した。

  そこには三人の精霊がいて、白髪の男の両肩に大きな鳥────ここからでは種類が分からないが猛禽類らしき鳥が止まっている。

「行くぞー。受け取れよー」

 男はなんのためらいもなく麓の荷物を下へ放り、それを赤髪の男がキャッチして地面へそっと置いた。

 白髪の男はワシに目配せをしてバッグに近くに飛び降りさせる。二羽は少し飛び立ってバッグの持ち手を鋭い鉤爪で持ち上げ、ゆっくりと上昇して飛んでいった。

「アレは精霊便と言ってなんでも運んでくれる便利屋だ。昨日も来たんじゃねェか? 手紙レベルならもっと小さい鳥だろうけど」

 彼の言葉に麓はうなずき、ワシが飛んでいった方向を見つめた。

 すると男は急に咳払いをし、上着のポケットに手を突っ込んだまま話し始めた。

「あ~…。俺はなぎ。ウチの学園の風紀委員の委員長やってる」

 それだけ言うとツリーハウスに掛けてある梯子を使わずに仲間の元めがけて飛び降り、危なげなく着地した。

「学園へ案内する! おめーも降りて来ーい」

「あ…はい!」

 よくこんな高い所からあんなことができるなと思いつつ、麓はツリーハウスの扉に鍵をかけて別れを告げた。

(必ずまた戻ってくるから…それまで待っていて)

 麓は目を閉じて扉に額を当て、やがて意を決したように背を向けて梯子を使おうとした。

「それ使うと時間かかっから俺みたく飛んでこい」

「えぇっ!?」

 麓は凪のように降りたことがなく、うまく着地する自信もないのでためらった。

 麓が迷っているのが分かったのか、凪は頭をかいた。

「おめーが飛んで来たのを俺が受けとめてやるから…早く来い」

「…分かりました」

 麓は梯子にかけようとしていた手を離して立ち上がり、その場を踏み切って飛び降りた。
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