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1章
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「よく慕われているんだな」
麓が見上げると、凪は前を向いたまま歩を進めている。
「送別会を開いてくれるくらいだ。おめーのことを大切に思ってるっつーことだろ」
「そうだといいんですけど…」
うつむいた麓は、涙で潤った目元を押さえ、無理矢理笑った。
凪は腕を伸ばし、無愛想ながらも麓の頭に手を乗せた。そしてささやくような声で話す。
「おめーがなんで学園に入ることを恐れているのかは知らねェ。けど安心しな。自分が思ってるより悪い所じゃねェから」
「…ありがとうございます」
麓は初めて、アマテラス以外にふれられる手の温かさに包まれた。見上げた先には前を向いたままの凪の顔。どこかそっけない彼だが、安心させるような何かを持っている。
(ていうか────)
麓は凪の言葉を思い出した。たしか”恐れている”とか言っていた。
そう思ってはいるが、話したことがあるのはアマテラスだけだ。
なぜ彼がこのことを────?
森の中を進むと、急に開けた場所に出た。
「ここが八百万学園だ。広いだろ?」
「すごい…」
ずっと山の中で過ごしてきた麓にとって、外は未知の世界で何もかもが珍しい。
ざっと学園の敷地内を回ったところで、本館の職員室に案内された。
「カスミーン。ただいまぁ~」
光が職員室の引き戸を開けた。今、学園は春休みで生徒も教師もほとんどいないらしい。道中、光たちが学園のことをいろいろと教えてくれた。
「おかえり。ご苦労様」
「どーいたしまして~」
現れたのは、灰色の髪にエメラルド色の瞳を持ち、銀縁の眼鏡をかけた長身の優男。
彼は麓の存在に気付くとほほえみかけた。色じかけか、とでもツッコミたくなるような、口をわずかに半開きにしたほほえみ。
「君が麓さん、だね。私は霞。凪と扇とは同期なんだ。名前から分かる通り、霞の精霊だよ。よろしく」
「どいつもこいつもバカヤロー。俺と同期っつーことは言うんじゃねェ」
凪が片頬をひくつかせていると、霞はため息をついてから面白そうに凪を見た。
「黙っていてもしょうがないだろう?いずれバレるさ」
その言葉に凪は視線をそらす。
同時に麓は表情を少し曇らせた。女であることはいつかバレるのだと間接的に言われたような気がして。
「んでも黙秘権ってモンがあんだろ」
「それは裁判においてのことだよ。この際は関係ないね、生ける伝説よ」
凪は舌打ちをして手近な椅子を引き寄せて腰を下ろした。キャスター付きの椅子の上でふんぞり返った彼は、チラッと麓を見た。
「あー…。コレは普通だから。誰にだってあるから。今は教師だけど扇も霞も学生時代に経験したから────留年っつーモンを」
「留年…ですか」
麓は一応、この学園の仕組みを少しは知っている。アマテラスが置いていく本に学園のことが書かれていたものがあったから。
「実はね~ナギりんたちは今…500歳なんだ」
「500歳!?」
100歳代の麓には信じられない数字だ。
…つまり。この学園に入るのは150歳からだから────?
「凪さんは350年も留年しているんですか?」
オブラートで包み隠さずに麓が直球で凪に問うと、彼以外が一斉に吹き出した。
「そっ、そんな風に凪さんに言うの初めて見た! あはははは!」
「おいコラ焔コノヤロー! 何思っきし笑ってんだシバくぞォ!」
1番笑っている焔が、凄んだ凪に胸倉をつかまれた。しかしケタケタと笑ったまま。
吠えている凪は、どうやら留年期間を知られたくなかったらしい。
「ナギりん怖ーい!可愛い後輩いじめんのやめてよね。暴力はんたーい!」
「どこが可愛い後輩だァ!?今後このことにふれたヤツはアレだ、蒼にいじめられてもらう」
その瞬間に体感気温が5度ほど下がり、凪と事情を知らない麓以外の顔が目に見えて青ざめた。
麓が見上げると、凪は前を向いたまま歩を進めている。
「送別会を開いてくれるくらいだ。おめーのことを大切に思ってるっつーことだろ」
「そうだといいんですけど…」
うつむいた麓は、涙で潤った目元を押さえ、無理矢理笑った。
凪は腕を伸ばし、無愛想ながらも麓の頭に手を乗せた。そしてささやくような声で話す。
「おめーがなんで学園に入ることを恐れているのかは知らねェ。けど安心しな。自分が思ってるより悪い所じゃねェから」
「…ありがとうございます」
麓は初めて、アマテラス以外にふれられる手の温かさに包まれた。見上げた先には前を向いたままの凪の顔。どこかそっけない彼だが、安心させるような何かを持っている。
(ていうか────)
麓は凪の言葉を思い出した。たしか”恐れている”とか言っていた。
そう思ってはいるが、話したことがあるのはアマテラスだけだ。
なぜ彼がこのことを────?
森の中を進むと、急に開けた場所に出た。
「ここが八百万学園だ。広いだろ?」
「すごい…」
ずっと山の中で過ごしてきた麓にとって、外は未知の世界で何もかもが珍しい。
ざっと学園の敷地内を回ったところで、本館の職員室に案内された。
「カスミーン。ただいまぁ~」
光が職員室の引き戸を開けた。今、学園は春休みで生徒も教師もほとんどいないらしい。道中、光たちが学園のことをいろいろと教えてくれた。
「おかえり。ご苦労様」
「どーいたしまして~」
現れたのは、灰色の髪にエメラルド色の瞳を持ち、銀縁の眼鏡をかけた長身の優男。
彼は麓の存在に気付くとほほえみかけた。色じかけか、とでもツッコミたくなるような、口をわずかに半開きにしたほほえみ。
「君が麓さん、だね。私は霞。凪と扇とは同期なんだ。名前から分かる通り、霞の精霊だよ。よろしく」
「どいつもこいつもバカヤロー。俺と同期っつーことは言うんじゃねェ」
凪が片頬をひくつかせていると、霞はため息をついてから面白そうに凪を見た。
「黙っていてもしょうがないだろう?いずれバレるさ」
その言葉に凪は視線をそらす。
同時に麓は表情を少し曇らせた。女であることはいつかバレるのだと間接的に言われたような気がして。
「んでも黙秘権ってモンがあんだろ」
「それは裁判においてのことだよ。この際は関係ないね、生ける伝説よ」
凪は舌打ちをして手近な椅子を引き寄せて腰を下ろした。キャスター付きの椅子の上でふんぞり返った彼は、チラッと麓を見た。
「あー…。コレは普通だから。誰にだってあるから。今は教師だけど扇も霞も学生時代に経験したから────留年っつーモンを」
「留年…ですか」
麓は一応、この学園の仕組みを少しは知っている。アマテラスが置いていく本に学園のことが書かれていたものがあったから。
「実はね~ナギりんたちは今…500歳なんだ」
「500歳!?」
100歳代の麓には信じられない数字だ。
…つまり。この学園に入るのは150歳からだから────?
「凪さんは350年も留年しているんですか?」
オブラートで包み隠さずに麓が直球で凪に問うと、彼以外が一斉に吹き出した。
「そっ、そんな風に凪さんに言うの初めて見た! あはははは!」
「おいコラ焔コノヤロー! 何思っきし笑ってんだシバくぞォ!」
1番笑っている焔が、凄んだ凪に胸倉をつかまれた。しかしケタケタと笑ったまま。
吠えている凪は、どうやら留年期間を知られたくなかったらしい。
「ナギりん怖ーい!可愛い後輩いじめんのやめてよね。暴力はんたーい!」
「どこが可愛い後輩だァ!?今後このことにふれたヤツはアレだ、蒼にいじめられてもらう」
その瞬間に体感気温が5度ほど下がり、凪と事情を知らない麓以外の顔が目に見えて青ざめた。
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