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3章
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夜中ともいえる時間。寮長も自室へ行ったこの時、食堂には3人が集まっていた。年長者の凪、扇、霞だ。
「…娘の方はどうだ? 少しは慣れてきたような気もするが」
そう言いながら凪は、缶チューハイを開けて一口煽った。精霊だってアルコールの類をたしなむ。酔って理性が飛ぶことはほとんどない。だがごくたまに、アルコールに弱い精霊がいる。凪の知る限り、1人だけ。
「そうだな~。光と焔がよく一緒にいるみたいだし、学園を案内してた時なんか楽しそうだったよな」
扇はスルメやチーズ鱈、柿ピーのパッケージを次々と開けていった。それに霞が手を伸ばす。
「…花巻山を見ながら元気にやっていって欲しいよ。男装なんかはやめてさ」
「っつーかあんな男装、簡単に見破られるっつーの。歩き方、声、食う量で普通にわかるに決まってんだろーが」
「そんなんじゃなくても俺は分かるけどね~」
「それはおめーが女好きだからだろ」
「私も扇に賛成!」
「それはおめーも…以下同文」
凪のツッコミに扇も霞も笑った。仏頂面が常の凪も、この時はいくらかリラックスした表情を見せている。
「おめーらは女だったら誰でもいいんだろ。やっすい愛だな」
「そういう凪の愛は? 高いんだ?」
「そうに決まってるだろう扇。凪が500年生きた中であの娘だけ────」
メキッ。突然の不可解な音は、凪の手の中から発せられたものだった。缶はぐしゃりとつぶされ、透明な液体がテーブルの上に広がった。よくよく見ると赤いものが混ざっていてる。
「「な…凪…」」
扇と霞は青ざめた顔で、静かな怒りをたたえた男のことを見た。
凪は缶を握りしめたまま、血を流していることに気にしていない。
黄金色の切れ長の瞳を一層鋭くさせ、テーブルを睨んでいた。
「…アイツのことは話すなって、20年くらい前にも言ったハズだ。覚えてねェのか白髪と灰かぶりが」
「「すんませんでした…」」
2人はテーブルに両手をついて平謝り。
凪が本気でキレるとなかなか怒りが収まらない。このようにいきなり缶を素手でつぶすなど、怪力な行動を突拍子もなく起こす。
「…気分悪ィ。俺は先に寝る。あとはバカ共で宴会でも開いてな。女の話を肴にして」
凪は立ち上がって缶を捨てて部屋へ戻った。
その間、扇と霞は何も口を挟めなかった。それだけ凪の怒りのオーラは尋常じゃない。
でも、次の日の朝にはケロッと忘れている。彼の怒りのバロメータはその時だけが最高で、周りがびくびくしている間に下がる。
「こ…怖かったぁ~!」
「全くだ! やっぱ調子に乗ってあのコの話をするんじゃなかった…」
「ホントにバカだわ霞! 寿命が縮まったわ50年くらい! …あ、でも寿命なんてなかった」
扇と霞は凪が席を立った後でも、あの瞳を思い出すだけでも恐ろしくてしょうがなかった。
「まだ考えてるだろうね…。あの娘のこと」
「そりゃそうだろ。なんせあの凪が────。簡単に…いや、絶対に忘れられないだろうな」
凪がいなくなった瞬間、結局滑らかに動く2人の口。
あのコ────彼女のことは、2人もよく知っていた。
「俺らもあのコもとっくに卒業してたよな。あのコ、何してたんだっけ?」
「寺子屋で教師をやっていたんじゃないのか? 教え子から人気があったって」
「あ~…言ってたな」
とっくに卒業していた時期──150年前のことなんて簡単に思い出すことができる。明確に、鮮明に。
「懐かしいな…今となっては」
「あぁ」
2人はおとなしく、つまみとアルコールを胃の中へ片していった。
────まーたあんたは留年が溜まったの?そんなに学園が好きなのかしら。
同期の彼女はとっくに卒業し、人間界で教師となって第2の人生を歩み始めていた。
袴を着た彼女と留年しまくった制服の凪。
────たりーんだよ勉強なんざ。人間界のことなんてこうやって自分で来れば分かるんだよ。
────あんたらしいわね。でもあの学園で学ぶのはそれだけじゃないと思うわ。集団にいて知ったこと…私はある。
────ふーん? でもおめーなんて元から集団の中にいるじゃねェか。
────それはそうだけど、あの人たちは家族みたいなものよ。…家族にはなくて他人に生まれるもの。凪は興味なさそうね。
そう言って彼女はカラカラと笑っていた。
(知ってんぞ、おめーが言いたかったこと)
凪はベッドの上で仰向けになり、月明かりを浴びながら空を見つめていた。
夜の空は昼間のように青くなく、時折雲がうっすらと月にかかって朧げに見せている。
「痛ってェな…」
適当に薬を塗って包帯を巻き付けた手の平を広げた。
朝にはとっくに治っているだろう。精霊の治癒力は人間の何倍も高い。
腕を下ろし、横向きになると、まぶたがすぐに重くなってきた。
そのまぶたの裏に浮かぶのは、勝気で堂々とした笑顔を浮かべた彼女だった。
「…娘の方はどうだ? 少しは慣れてきたような気もするが」
そう言いながら凪は、缶チューハイを開けて一口煽った。精霊だってアルコールの類をたしなむ。酔って理性が飛ぶことはほとんどない。だがごくたまに、アルコールに弱い精霊がいる。凪の知る限り、1人だけ。
「そうだな~。光と焔がよく一緒にいるみたいだし、学園を案内してた時なんか楽しそうだったよな」
扇はスルメやチーズ鱈、柿ピーのパッケージを次々と開けていった。それに霞が手を伸ばす。
「…花巻山を見ながら元気にやっていって欲しいよ。男装なんかはやめてさ」
「っつーかあんな男装、簡単に見破られるっつーの。歩き方、声、食う量で普通にわかるに決まってんだろーが」
「そんなんじゃなくても俺は分かるけどね~」
「それはおめーが女好きだからだろ」
「私も扇に賛成!」
「それはおめーも…以下同文」
凪のツッコミに扇も霞も笑った。仏頂面が常の凪も、この時はいくらかリラックスした表情を見せている。
「おめーらは女だったら誰でもいいんだろ。やっすい愛だな」
「そういう凪の愛は? 高いんだ?」
「そうに決まってるだろう扇。凪が500年生きた中であの娘だけ────」
メキッ。突然の不可解な音は、凪の手の中から発せられたものだった。缶はぐしゃりとつぶされ、透明な液体がテーブルの上に広がった。よくよく見ると赤いものが混ざっていてる。
「「な…凪…」」
扇と霞は青ざめた顔で、静かな怒りをたたえた男のことを見た。
凪は缶を握りしめたまま、血を流していることに気にしていない。
黄金色の切れ長の瞳を一層鋭くさせ、テーブルを睨んでいた。
「…アイツのことは話すなって、20年くらい前にも言ったハズだ。覚えてねェのか白髪と灰かぶりが」
「「すんませんでした…」」
2人はテーブルに両手をついて平謝り。
凪が本気でキレるとなかなか怒りが収まらない。このようにいきなり缶を素手でつぶすなど、怪力な行動を突拍子もなく起こす。
「…気分悪ィ。俺は先に寝る。あとはバカ共で宴会でも開いてな。女の話を肴にして」
凪は立ち上がって缶を捨てて部屋へ戻った。
その間、扇と霞は何も口を挟めなかった。それだけ凪の怒りのオーラは尋常じゃない。
でも、次の日の朝にはケロッと忘れている。彼の怒りのバロメータはその時だけが最高で、周りがびくびくしている間に下がる。
「こ…怖かったぁ~!」
「全くだ! やっぱ調子に乗ってあのコの話をするんじゃなかった…」
「ホントにバカだわ霞! 寿命が縮まったわ50年くらい! …あ、でも寿命なんてなかった」
扇と霞は凪が席を立った後でも、あの瞳を思い出すだけでも恐ろしくてしょうがなかった。
「まだ考えてるだろうね…。あの娘のこと」
「そりゃそうだろ。なんせあの凪が────。簡単に…いや、絶対に忘れられないだろうな」
凪がいなくなった瞬間、結局滑らかに動く2人の口。
あのコ────彼女のことは、2人もよく知っていた。
「俺らもあのコもとっくに卒業してたよな。あのコ、何してたんだっけ?」
「寺子屋で教師をやっていたんじゃないのか? 教え子から人気があったって」
「あ~…言ってたな」
とっくに卒業していた時期──150年前のことなんて簡単に思い出すことができる。明確に、鮮明に。
「懐かしいな…今となっては」
「あぁ」
2人はおとなしく、つまみとアルコールを胃の中へ片していった。
────まーたあんたは留年が溜まったの?そんなに学園が好きなのかしら。
同期の彼女はとっくに卒業し、人間界で教師となって第2の人生を歩み始めていた。
袴を着た彼女と留年しまくった制服の凪。
────たりーんだよ勉強なんざ。人間界のことなんてこうやって自分で来れば分かるんだよ。
────あんたらしいわね。でもあの学園で学ぶのはそれだけじゃないと思うわ。集団にいて知ったこと…私はある。
────ふーん? でもおめーなんて元から集団の中にいるじゃねェか。
────それはそうだけど、あの人たちは家族みたいなものよ。…家族にはなくて他人に生まれるもの。凪は興味なさそうね。
そう言って彼女はカラカラと笑っていた。
(知ってんぞ、おめーが言いたかったこと)
凪はベッドの上で仰向けになり、月明かりを浴びながら空を見つめていた。
夜の空は昼間のように青くなく、時折雲がうっすらと月にかかって朧げに見せている。
「痛ってェな…」
適当に薬を塗って包帯を巻き付けた手の平を広げた。
朝にはとっくに治っているだろう。精霊の治癒力は人間の何倍も高い。
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