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1章
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「あ! 凪様だ!」
今年度初の登校日。始業式を行うアリーナの前で1人の女子が声を上げた。それは波のように徐々に広がっていく。
「きゃー! お久しぶりです!」
「相変わらずイケメン…眼福…」
「彼女にしてください!」
あっという間に凪の周りに女子が群れていく。その数はハンパなく、何重にもなっている。
「るっせー! 始業式からなんなんだよ! あとそこォ! 写メってんじゃねェ、肖像権の侵害で訴えるぞコラ!」
"凪様"コールを薙ぎ払うがごとく、彼は群れの中心で雄叫びを上げている。
これは全校生徒が集まるごとに起こる現象であった。
凪ほどではないが他の風紀委員もこんな状況になる。
「…はぁ。やっと抜け出せた…」
新入りの風紀委員である麓は光と歩いていたところ、彼を追ってきた女子の群れに飲み込まれかけ、もまれながら出てきた。
それにしてもあの女子の人数は多すぎる。
「怖いな…あの人たち…」
「大丈夫?」
独り言に答えるように聞こえた声に振り向くと、紅髪の女子がいた。麓のことをまじまじと見ている。
「大丈夫です。────あの、何か?」
すると彼女がハッとし、勢いよく頭を下げた。紅いポニーテールがバサッと舞う。
「ごめん! あたしったらつい…。リボンの色が同じだからさ、見たことあったっけ? と思って。ちなみに3年生? 4年生?」
「えっと…3年生です。本日からお世話になります」
「あぁ! じゃあもしかしてあなたが新入生の麓さんだね!?」
「はい」
「そうかそうか!」
彼女は白い歯を見せて笑い、麓の両手を握ってブンブンと上下に振った。
「話は光から聞いてるよ! これからよろしくね」
「こ、こちらこそ。あなたは…?」
「あたしは嵐。紅系の花の精霊だよ」
紅髪に桃色の瞳をした精霊────嵐は快活な笑みが印象的で、人見知りな麓も知らず内に微笑みをこぼしていた。
「ついでだから一緒にアリーナに行こっか」
「でも光君が────」
「大丈夫だよ、後からちゃんと来るって。それに今、アイツを連れてくのは無理だよ。いつもあんなんだからね」
「すごいですね…」
誘導されるように嵐に手を引かれ、麓は女子の群れを一瞥してからその場を離れた。
始業式中のアリーナ。
周りのほとんどの精霊が眠たそうにしている。
両隣の嵐も光も、うたた寝をしていた。(光はあの後、式が始まるぎりぎりの時間にアリーナへ滑り込んだ)
校長先生や偉い先生の話など、式は話を聞くことが多い。その中で麓が面白かったのがクラス担任の発表。
やはりなのか扇や霞が担任になってほしいと思っている女子が多く、発表される度に黄色い声が上がったり、落胆の声が聞こえたりした。
「3年生の担任は扇先生です」
その瞬間に上がった時の歓声のすごさ。だが、隣の嵐はあまり興味がなかったようだ。
「ロクにゃんロクにゃん」
光に呼ばれて首を傾げると、彼は麓の耳元に口を寄せた。
「オウちゃんが担任になったのはナギりんが理事長に直々に頼みにいったから、だよ。少しでもロクにゃんの身の回りを守るため、だって」
「たしか言ってましたね、春休み中に。申し訳ないけど…ありがたいです」
「そんなこと気にしなくていいって! …の前に! 同じ学年だから敬語はナシだよ。アオくんとホムラっちだってタメでいい、って言ってたじゃん」
「ごめんなさい、敬語で話すのが慣れていて」
「じゃっ、早く直してねー。じゃないと罰ゲームね」
「それは嫌です!」
「はい敬語ー」
光はいたずらっぽい笑みのまま目を伏せて麓の腕を引っ張って引き寄せ、互いの額を合わせた。
「…!」
驚いて目を見開く麓に、光が艶っぽくささやく。普段の可愛らしい姿からは考えられない声だ。
「ロクにゃんってドキドキさせられるの得意じゃないでしょ? これからこうされたくなかったら敬語はやめること。分かった?」
「う、うん」
麓は呼吸をまともにできない状態で頬を赤らめつつ、返事をした。
光がやっと開放してくれたところで麓は抗議した。
「ここ人前…! 他の人に見られるよ…」
「大丈夫だよ、皆発表の方を気にしてるから。興味ない人は寝てるし」
「それでも! こういうことはやめて…よ」
「え~。やーだ。それに僕だけに頼んでもムダだよ? アオくんもホムラっちもカスミンもオウちゃんも、ロクにゃんのこと狙ってるもん」
「狙ってる?」
「そのうち分かるよ。ロクにゃんは鈍いね~。そんなとこが可愛いけどね」
狙われるってどういうこと?とりあえず命のことではないと思うけど…。
疑問が残ったままの麓は、楽しそうに笑う光の顔を腑に落ちない気持ちで見ることしかできなかった。
今年度初の登校日。始業式を行うアリーナの前で1人の女子が声を上げた。それは波のように徐々に広がっていく。
「きゃー! お久しぶりです!」
「相変わらずイケメン…眼福…」
「彼女にしてください!」
あっという間に凪の周りに女子が群れていく。その数はハンパなく、何重にもなっている。
「るっせー! 始業式からなんなんだよ! あとそこォ! 写メってんじゃねェ、肖像権の侵害で訴えるぞコラ!」
"凪様"コールを薙ぎ払うがごとく、彼は群れの中心で雄叫びを上げている。
これは全校生徒が集まるごとに起こる現象であった。
凪ほどではないが他の風紀委員もこんな状況になる。
「…はぁ。やっと抜け出せた…」
新入りの風紀委員である麓は光と歩いていたところ、彼を追ってきた女子の群れに飲み込まれかけ、もまれながら出てきた。
それにしてもあの女子の人数は多すぎる。
「怖いな…あの人たち…」
「大丈夫?」
独り言に答えるように聞こえた声に振り向くと、紅髪の女子がいた。麓のことをまじまじと見ている。
「大丈夫です。────あの、何か?」
すると彼女がハッとし、勢いよく頭を下げた。紅いポニーテールがバサッと舞う。
「ごめん! あたしったらつい…。リボンの色が同じだからさ、見たことあったっけ? と思って。ちなみに3年生? 4年生?」
「えっと…3年生です。本日からお世話になります」
「あぁ! じゃあもしかしてあなたが新入生の麓さんだね!?」
「はい」
「そうかそうか!」
彼女は白い歯を見せて笑い、麓の両手を握ってブンブンと上下に振った。
「話は光から聞いてるよ! これからよろしくね」
「こ、こちらこそ。あなたは…?」
「あたしは嵐。紅系の花の精霊だよ」
紅髪に桃色の瞳をした精霊────嵐は快活な笑みが印象的で、人見知りな麓も知らず内に微笑みをこぼしていた。
「ついでだから一緒にアリーナに行こっか」
「でも光君が────」
「大丈夫だよ、後からちゃんと来るって。それに今、アイツを連れてくのは無理だよ。いつもあんなんだからね」
「すごいですね…」
誘導されるように嵐に手を引かれ、麓は女子の群れを一瞥してからその場を離れた。
始業式中のアリーナ。
周りのほとんどの精霊が眠たそうにしている。
両隣の嵐も光も、うたた寝をしていた。(光はあの後、式が始まるぎりぎりの時間にアリーナへ滑り込んだ)
校長先生や偉い先生の話など、式は話を聞くことが多い。その中で麓が面白かったのがクラス担任の発表。
やはりなのか扇や霞が担任になってほしいと思っている女子が多く、発表される度に黄色い声が上がったり、落胆の声が聞こえたりした。
「3年生の担任は扇先生です」
その瞬間に上がった時の歓声のすごさ。だが、隣の嵐はあまり興味がなかったようだ。
「ロクにゃんロクにゃん」
光に呼ばれて首を傾げると、彼は麓の耳元に口を寄せた。
「オウちゃんが担任になったのはナギりんが理事長に直々に頼みにいったから、だよ。少しでもロクにゃんの身の回りを守るため、だって」
「たしか言ってましたね、春休み中に。申し訳ないけど…ありがたいです」
「そんなこと気にしなくていいって! …の前に! 同じ学年だから敬語はナシだよ。アオくんとホムラっちだってタメでいい、って言ってたじゃん」
「ごめんなさい、敬語で話すのが慣れていて」
「じゃっ、早く直してねー。じゃないと罰ゲームね」
「それは嫌です!」
「はい敬語ー」
光はいたずらっぽい笑みのまま目を伏せて麓の腕を引っ張って引き寄せ、互いの額を合わせた。
「…!」
驚いて目を見開く麓に、光が艶っぽくささやく。普段の可愛らしい姿からは考えられない声だ。
「ロクにゃんってドキドキさせられるの得意じゃないでしょ? これからこうされたくなかったら敬語はやめること。分かった?」
「う、うん」
麓は呼吸をまともにできない状態で頬を赤らめつつ、返事をした。
光がやっと開放してくれたところで麓は抗議した。
「ここ人前…! 他の人に見られるよ…」
「大丈夫だよ、皆発表の方を気にしてるから。興味ない人は寝てるし」
「それでも! こういうことはやめて…よ」
「え~。やーだ。それに僕だけに頼んでもムダだよ? アオくんもホムラっちもカスミンもオウちゃんも、ロクにゃんのこと狙ってるもん」
「狙ってる?」
「そのうち分かるよ。ロクにゃんは鈍いね~。そんなとこが可愛いけどね」
狙われるってどういうこと?とりあえず命のことではないと思うけど…。
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